現代のサンタクロース

暗藤 来河

現代のサンタクロース

「おじさん、何してるの?」

「お兄さんはサンタクロースなんだよ」

 雑踏の中、大きな袋を抱えて歩いていると不意に小さな男の子に声をかけられた。しゃがみ込んで目線を合わせ、冗談混じりに返す。目を輝かせた少年は、母親に手を引かれてその場を去っていった。

 もうおじさんと言われるような見た目なのかと軽く落ち込む。まだ二十五歳なんだけど。

 気を取り直して再び歩き出す。

 十二月二十五日。今日は全ての子ども達にとって特別な日だ。キリストも宗教も知らなくても、今日だけはその恩恵を受けていい。そのために、こうして重い荷物を抱えているのだから。


 一つ目の目的地に着く。今の時代、煙突から家に侵入してはいどうぞ、とはいかない。いかにサンタクロースであっても、許可が無ければ玄関から入ることすら出来ないのだ。

 大事なのは子どものもとにプレゼントが渡されること。その子にとってのサンタは父親か母親かもしれない。あるいは姿を見せず、眠っている間にこっそり渡す流儀かもしれない。

 窮屈な時代だが代わりに利点もある。子を持つ親とサンタがネットで繋がることができるのだ。スマホを取り出して、この家の依頼を確認する。

 プレゼントの中身。渡し方。直接会話することなく伝えることができる。おかげでこちらも効率良く、多くの子どもに夢を与えられる。

 親御さんの指示通り、玄関前にプレゼントを置いて静かに立ち去った。万が一、子どもが先に見つけてもいいように外側の包装は無機質なものになっている。


 続けて二軒、三軒と家々を巡り、プレゼントを置いていく。ソリに乗って空を飛べればいいのだけど、残念ながらトラックで公道を走るのが精一杯。今時のサンタは法定速度と時間との戦いだ。

 なんとか予定通りにプレゼントを配り回り、ついに残りは一軒となった。世界中の子ども達に、とはいかないが、そこは他のサンタに任せよう。世界には大勢の子どもがいるように、幸福を与えるサンタクロースもまた大勢いるのだから。


 最後の家に着く。

 都心から少し外れた住宅街にある、二階建ての一軒家。指定のプレゼントは最新のテレビゲーム機。今度は母親が在宅なので、子どもが学校へ行っているうちに届けて欲しいとのことだ。

 現在午後四時。早ければ子どもが帰ってくる頃だ。あまりもたもたしていられない。

 大きなゲーム機の箱は当然クリスマス仕様にラッピングされている。破れないよう気をつけて玄関まで抱えて運んだ。

 チャイムを鳴らして数秒後、ガチャリと鍵を開ける音が聞こえた。そして一人の女性が顔を出す。今までは玄関先に届けて終わりだったので、今日初めての挨拶だ。

「宅急便です。受取のサインをお願いします」

 サインを頂き、ECサイトで注文された品物を渡す。

 こうして、現代のサンタクロースは今年も仕事を終えたのだった。

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