最終話 陰キャな僕とゆるふわ系天使とのこれから
実は結衣さんの双子の妹、今宵さんが高校に入学した時からクラスメイトだったということが冬休み中に判明。そして休み明け、今宵さんに話しかけて喫茶店で結衣さんたちの顛末を訊いてから数週間が経過していた。
「ひゃぁー、すっかりお外暗くなっちゃったねぇ……! はぁ、雪はもうないけどまだすこぉしだけ寒いよぉ……!」
「ん、じゃあ手を繋いで帰ろ、風花さん」
「おっけぇ!」
現在は高校での一日の授業が終わった平日の放課後。さきほど先生に頼まれた授業の資料を運ぶ手伝いを済ませて高校の玄関を出た僕と風花さんは、一緒に自宅へと向けて歩いていた。
二月の中旬といっても、吐く息は白くならずともまだ空気は寒い。
「あ、見て見てぇ! お空綺麗だよぉ!」
「うわぁ、本当だ……! まるで絵みたいだね……!」
歩きながら風花さんに言われて僕も空を見上げる。薄暗いけど陽が沈みかけているせいか空に残った
さらには幾多もの小さな星や雲が空に散りばめられており、口から出る言葉など陳腐に思えるような最高にロマンチックな光景が視界に広がる。
そんな景色を眺め、思わず僕は自然と口角が緩んだ。
「それにしても、今宵さんの変化にはびっくりだよねー……。彼女の中で何か心境の変化でもあったのかな?」
「んぅー……、来人くんが別に気にする必要はないと思うよぉ? ―――今宵ちゃん、大人しそうに見えて意外としたたかだからぁ」
「へぇ、そうなんだ。ちょっと風花さんに似てるかも」
「……それって褒めてるのぉ?」
―――あれから少しだけ日常は変わった。
なんと、今まで教室の隅で大人しくしていた読書家の今宵さんがイメチェンして学校に登校してきたのだ。瓶底眼鏡と二房に結んだ黒髪といった地味めな容姿だった彼女だけれど、僕らと喫茶店で会話した次の日から見事瓶底眼鏡を外した可憐な黒髪ロング清楚系女子として教室に降臨したときは思わず目をパチクリさせちゃったもん。
クラスメイトなんて全員ぽかーんとした表情をしてたよ。……ってそりゃそうだよね。いきなりクラスで目立たない地味な存在だった今宵さんがいきなり美少女の姿で現れるんだから。
まぁ僕は彼女の素材の良さを元から知っていたんですけどね(どやぁ)!
一人の女子が今宵さんに質問したのを皮切りに多くのクラスメイトが彼女に押し寄せてきて大変そうだったけど、なんだか晴れやかな笑みを浮かべていたのが印象的だった。
あとそんな今宵さんも僕同様に昔からラノベが大好物だ。なので昼休みや放課後など、時間があればラノベに関連する話をたくさんするようにもなったよ。
……実はね、ここだけの話っていうことで今宵さんが僕だけに打ち明けてくれたんだけど、小説投稿サイトに自分で書いた小説を投稿しているんだって! 女の子が主人公な恋愛小説で、これまでたくさんの読者から嬉しい感想や評価を貰ってるって恥ずかしながらも嬉しそうにはにかみながら話してくれたんだ。もう本当にすごいよね。文才を持ってる人って憧れちゃう!
……そう言えば今宵さん、『三上さんには絶対に話さないでね! このことは二人だけの秘密! 阿久津くんだから話してるんだからねっ!』って必死な形相で念押ししてきたけどあれっていったいなんでなのかな?
まぁラノベ友達である今宵さんからの頼みだし、その滲み出る信頼感が滅茶苦茶嬉しいからその秘密は守る所存だけどね!
……そうそう、変化といえば僕にもあったよ。
「あぁそういえばぁ! 来人くん、少しずつクラスのみんなと話せるようになったんじゃないぃ?」
「あ、あはは……。うん、正直まだ緊張するけど、なんとか自分から挨拶したり話し掛けたり頑張ってるよ……!」
「えへへぇ、それじゃあ頑張った来人くんに頭なでなでをしてあげよぉ♪ なでなでー!」
「わぷっ……! な、なんかくすぐったいなぁ……! でもありがとう」
僕は隣の風花さんに頭をわしわしされながら歩く。なんだか気恥ずかしくて、でも好きな人から触れられるのが嬉しくて……思わず口角が緩んでしまった。
さて、自画自賛じゃないけど、風花さんが言う通り白亜高校に入学した頃に比べるとなんとか少しずつ風花さん以外と話せるようになったよ。いやまだ、一言二言くらいなんだけどさ。
今まで人と関わることに消極的だった僕が能動的にクラスのみんなに挨拶をしたり、授業中や休み時間に考えて流れを読んで話しかけたりするのは緊張したし勇気が必要だったけど……みんな、意外にも温かく迎えてくれた。
……ただ、僕が臆病だったんだろうね。もしかしたら―――。
……ううん、風花さんがいなければこうして僕が自分に向き合うことも出来なかったし、誰かに話しかけるなんてことをしようとすら思わなかった。
その先の言葉を口にするのは野暮というものだろう。僕の愚か者めが!!
僕は今までぼんやりと考えていたことを口にする。
「ねぇ風花さん」
「んぅ? どうしたのぉ?」
「僕ってさ、案外恵まれてたのかな」
「……どうしてそう思うのぉ?」
そう言った風花さんの声音は、訊き返しているものの僕が何を言おうとしているのか分かっているみたいだった。そこにあったのは風花さんの僕への信頼感。そんな視線にくすぐったさを感じつつ安心しながら言葉を紡いだ。
「僕はね、中学のときに自分が至らない部分もあったって自覚してるんだ。ラノベを好きになったというきっかけで辛いことも十分に経験して、結果的に自分の殻に閉じ籠って……。もう、何もかもすべて諦めていたんだ」
「……うん」
「でも高校で風花さんに話し掛けられて、交流を深めて、付き合うことも出来て……。実はさらに今宵さんまで僕のことを見ていてくれたことも知った。……ははっ、僕ってば単純だよね。そんな事実を知った途端さ、もっと心があったかくなったんだ。……嬉しかったんだ。―――今なら、あのとき僕がラノベを好きになったことは間違いじゃなかったんだって。今なら自信を持ってそう言える」
「……そっかぁ。―――私もぉ」
「?」
僕は一度言葉を区切った風花さんの様子に首を傾げる。隣の彼女の表情を覗くと、まるで何か大切なことを思い出すようにして噛みしめながら微笑んでいた。
とても嬉しそうな顔をしている。そしてゆっくりと唇を開いた。
「―――あのときラノベを好きな来人くんに出逢えてぇ、本当に良かったぁ……!」
「僕もだよ……! ―――ありがとう」
「私もぉ、ありがとぉ」
「……あははっ!」
「……えへへっ!」
僕らは一緒に歩き続けながら、どちらともなく笑い合った。
僕は手を繋ぎながら隣をぴったりと歩く風花さんをこっそりと見つめる。高校でラノベを読んでいる時に彼女に話し掛けられてから、色んなことを彼女と一緒にシミュレーションしてきた。
これからも色々なことがあるだろう。
現実はラノベのように上手くなんて出来ていないし、この先の未来に何が待ち受けているのかなんて僕も、誰にも分からない。それは神のみぞ知る、だね。
楽しみでもあり、不安でもある。もしかしたら、将来に向かうにつれて変わっていくものもあるだろう。
それでも―――、
「……んぅ、どうしたのぉ? 来人くん?」
「ううん、なんでもない。風花さん―――二人で一緒に、大切にしていこうね」
「……! うん……っ!!」
僕たちは変わらず前を向きながら歩いていこう。
僕と『天使』な彼女がいつも笑い合える明るい未来へ。
これまでも、これからも。
ずっと―――!
―――fin.
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
時には体調不良で、時にはモチベ低下につき更新が遅くなったりもしましたが、未熟ながらも来人くんと風花ちゃんの物語を完結まで持っていけたのは皆様の暖かな応援があったからでした。
重ね重ね感謝申し上げますm(__)m。
さて、ラノベをきっかけに始まるいちゃあまラブコメはいかがでしたでしょうか?
序盤から様々な伏線 (……とまではいかなかったのかな?)を敷いてきましたが、『この時の言葉や反応はそういう意味だったのか……!』と驚いたり興奮していただければメチャクチャ嬉しいです!
しばらくしましたら、物語として描き切れなかった閑話(主に『白亜祭』の風花ちゃんの様子や、入学直後である風花ちゃんや今宵ちゃんの密会の様子)を更新する予定です。なので是非ともフォローは外さずにいて下さると幸いです。感想下さい。レビューも下さい。あと★評価も頂けるととても嬉しいです! ……欲張りですいません!(*'ω'*)
それではではー!
【完結】陰キャな僕とゆるふわ系天使とのいちゃあま共同作業! ~席替えしてラノベを読んでいたら、腹黒(?)美少女がぐいぐい僕に構ってきた~ 惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】 @potesara55
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