第82話 陰キャな僕と天使と妹 2





 僕らが中学を卒業した後、結衣さん、光輝、紅羽さん、勲の四人は白亜高校とは別の同じ高校に一緒に入学したらしい。そのままこれまで通り小学校からの『幼馴染』『親友』の四人組のグループとして高校でも仲良くしていく……のかと思いきや、実はそうではなかったみたい。


 ―――主な理由としては『グループ関係の険悪化』。どうやら光輝は中学二年のときに言っていた言葉通り結衣さんへ告白したらしい。しかしこのまま仲良しグループで居たかった結衣さんにとっては思いがけない告白だ。

 当然のことながら結衣さんは断るのだけれど、ここで黙っていられなかったのが光輝へ好意を抱いていた紅羽さん。


 高校に入学後、ほどなくして学年中の女子のリーダー格になっていた彼女。元々持っていたカリスマ性を利用して結衣さんに僕以上の陰湿ないじめを仕掛けたそうなのだ。


 光輝も自分の告白を断った結衣さんへの仕返しなのか見て見ぬ振り。誰も信用できない様子の結衣さんを見て、勲ももうどうしていいのか分からず、今まで連絡を取って無かった今宵さんに連絡を取ってきたらしいが、今宵さんは『自業自得。ただ図体がデカいだけで優柔不断な貴方に何も出来ることは何もない。中学での行動を振り返ったら?』と無碍も無くそう返したらしい。


 でも、どんな出来事にもツケは回ってくる。それからしばらくして紅羽さんが光輝と付き合ったという話が流れだした直後、今宵さんが結衣さんから聞いた話だと、どうやら光輝と紅羽さんはその高校を自主退学という形で学校側から退学処分が下されたらしい。


 紅羽さんはともかく、どうして医者の息子である光輝までもを学校が退学という重い処分をとったかというと、どうやらちょっとした小銭稼ぎという感覚で紅羽さんグループの複数人と一緒に特殊詐欺の受け子をしたらしいのだ。


 それも、分からなかったのなら情状酌量の余地があるものの意図的に行なったとのこと。受け子はたった一回だけらしいのだけれど、この件に関しては学校側も光輝の両親もその責任を深く受け止めて関係者全員を退学処分、そしてその後警察に逮捕されたという。


 その事実を知った勲は、中学の頃柔道で県代表になったというのに柔道を辞めてしまったらしい。みんなを守るために強くなりたいと思っていた筈だったのに、これまでを振り返って何も守れていなかったことに気付いたから。勲は結衣さんにそう電話を掛けたんだって。


 でも、結衣さんは……。



「おねぇちゃんはそれから不登校になった。いじめが無くなったとはいえ、精神的に深く傷ついていた。なにもかもが嫌になって……小説の物語のように守ってくれたり救ってくれる人なんて誰もいなくて、あの頃の私のみたいに自分の部屋に塞ぎ込んでいた」

「………………」

「阿久津くんが家に来た時も言ったと思うけど、あれは自業自得なんだよ。上辺だけの仲だけを信じ込んで、その本質を見ようともせず『親友』っていう言葉で簡単にまとめて互いのことを全部知っていると思い込んでいたおねぇちゃんに、今までのツケが全部回ってきたんだ」

「……そっか」

「でも、なんでかなぁ……。あれだけ自業自得、因果応報、私や阿久津くんが好きだったラノベを馬鹿にしたばちが当たった大馬鹿おおばかって、自分とそっくりなおねぇちゃんを何度も何度も嫌いになろうとしたけど……無理だったよ。……双子だからかな」

「そう、かもね……。僕もねーちゃんがいるから、その気持ちはなんとなくわかるかも」



 僕はねーちゃんのことが好きだけど、もし憎くても、もし嫌いでも……なんだかんだ家族だからこそ、その根っこには見えない繋がりや大事な物があるんだと思う。今宵さんは、それに気付いたのだろう。



「それで私ね、ラノベを貸したの」

「―――え?」

「ふふっ、びっくりでしょ? でもそのおかげでおねぇちゃんは高校にまた登校出来るくらい落ち着いたんだ。ラノベに希望を貰って……それに、つい最近ある人の姿を見て元気を貰ったんだって」

「ある人の姿……? それって僕の知ってる人?」

「阿久津くんと三上さん、お正月のとき一緒に初詣しに行ったでしょ?」

「……え、ウソ!? もしかして……!?」



 僕は今宵さんの揶揄からかい気味な視線と言葉に動揺するも、すぐにその言葉の意味に思い当たる。



「うん。おねぇちゃんと私、一緒にあの神社に初詣しに行ったんだ。私はそのときおねぇちゃんと別の所に居たから二人が一緒にいた場面は見てなかったけど……。おねぇちゃん、今までの自分の行動を反省して申し訳なさそうに、でも阿久津くんの元気な姿を見て嬉しそうな、そんな複雑な顔をしてた。……帰り際、こう言ってたよ。これから心機一転、ちゃんと向き合うんだって。自分にも、これから友達になる相手にも、もう決して間違えないようにって」

「……そっか。そっかぁ……!」



 良かった。僕はそう心からそう思う。光輝や紅羽さんが退学処分を受けて逮捕されたことや結衣さんがいじめられているって聞いたときは驚いたけど、立ち直れたようで本当に良かった。


 僕がそう思っていると今宵さんが続けて言葉を紡ぐ。



「改めておねぇちゃんの代わりに謝罪させて。―――ごめんなさい。そもそも私ね、阿久津くんを傷付けたおねぇちゃんの代わりに謝りたいと思って、大人しい格好で白亜高校に入学したんだよ」

「え、そうだったの……?」

「阿久津くんが立ち直る為だったらなんでもするつもりだった。それこそ、この身体を差し出しても良かった。……ううん、正直今でもその想いは変わらない」

「えぇ!? ちょ、待って、理解が追い付かない……!?」



 ちょままちょまままちょっと待ってちょっと!? いきなりの急展開で追い付いていけてないんだけど!?


 突然の今宵さんの何でもする発言にめちゃくちゃ動揺する僕だけど、目の前の彼女は冷静だった。僕は震える口で今宵さんに話しかける。



「だいたい謝罪だけならまだしも、なんでそんななんでもする発言なんて……!? もう少し自分のことを大事にしよう!? ……っていうかなんで僕なんかの為に!?」

「……別に、今となっては・・・・・・そんなことどうでも良いじゃん。それよりもほら、なにか私でしたいこととかある? なんでもいいよ」

「えっ、いや、あの、そのぉ……っ!? ……あっ、そ、それじゃあさ!」



 なんだか今宵さんは僕の逃げ場をどんどん塞いでいるような気もしたけど、彼女としたいことを必死に考えていると、唐突にあることを閃いた。


 それは、この前風花さんが話したこれからのお話の内容に関係すること。



「―――僕と、友達になってくれないかな」

「…………!」

「……ダメ、かな?」

「……はぁ、もう。阿久津くんって本当にお人よしだよね。もっと欲望に素直になればいいのに」

「でもそれが来人くんの良い所だよぉ」

「貴方のその余裕そうな顔はちょっとムカつくけど、それもそうだね。―――だからこそ、私も……」

「?」

「……ううん、なんでもない。友達……うん、友達。それじゃ、これから友達としてよろしくね?」



 そう言った今宵さんから手を差し伸べられて、僕はその想いに応える為に手を握った。まだ風花さん以外の女性に触れるのは怖いけど、それでも前に進むために。



「うん、これからよろしくね? 今宵さん!」

「ふふっ。うん……!」



 そうしてこの日、今宵さんとはラノベ友達になった。






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