第81話 陰キャな僕と天使と妹 1




 それから約二週間後、冬休みが明けて再び高校生活がスタートした。


 冬休みに入る前に晴れて恋人同士になった僕ら。もし教室内の僕と『天使』と呼ばれる風花さんの距離が近いとクラスメイトに下手な勘繰りをされるんじゃないかとひやひやしていた僕だったけど、元から風花さんが結構ぐいぐい来ていたおかげ(?)かそんなことは無かった。


 むしろ逆にみんな、遠くから眺めるように、見守るように生温かな視線を送っていたような気もするんだけど……。うん、嘲笑とか蔑むような視線じゃないだけありがたいね。


 それにしても風花さんが僕の彼女になってから判明したことだけど、まさか彼女が『天使』って呼ばれていることに初めから気が付いていただなんて一切思わなかったよ……。


 いやそりゃよくよく考えてみると『天使』って呼ばれてること本人の耳に入らない訳がないんだよね!

 これまでを振り返ってみると、僕ってば何故か『風花さん自身が天使と呼ばれている事に気付いている筈がないだろう』って全部自己完結していただけだったからなぁ。

 ……はぁ、コミュ不足である陰キャ特有の思い込みは良くない(断言)。


 まぁ風花さんとはこれからどんどん会話を重ねて想いを伝えあっていくつもりなんですけどねっ!!


 さて、今僕たちが何をしているのかというと……。



「―――ねぇ来人くん、本当に彼女とお話するの・・・・・・・・?」

「……うん。もう、僕ってばどうしようもなく鈍感で馬鹿で視野が狭い最低陰キャ野郎だったんだなって痛感してる。なにせこの一年間、僕とあの子・・・が同じクラスだったことにまったく気が付かなかったんだから」

「………………」



 僕と風花さんは高校の玄関前でとある人物が出てくるのを待っていた。


 僕がその子のことを思い出したきっかけは、風花さんに中学の頃の出来事を話しているとき。風花さんにもそのことを確認してみたら、やはりその考えに間違いは無かった。

 風花さんによると彼女・・は僕と同じく文芸部に所属しており、幽霊部員であるとのこと。だから、きっと何事も無ければ彼女は自宅に帰る為にもうすぐここから出てくる頃合いだろう。


 現在は午前十一時の昼の時間帯。本日は三学期初めの始業式と掃除だけだったので早く帰宅できる日なのだけど……あの子・・・のことを思い出した今、出来るだけ彼女とは早めにどこか落ち着ける場所で話をしたかった。

 もちろん風花さんも一緒に、ね。


 そうしてあの子が玄関から出てくるのを二人で待っていると、やがて窓越しに彼女らしきシルエットが見えた。

 よくよく観察すると、彼女と双子なので・・・・・・・・本当に仕草などが似ていた。彼女が出てくるタイミングを見計らいながら僕は近づきゆっくりと、だけどしっかりとした声で言葉を紡いだ。

 


逢沢さん・・・・

「…………っ!」

「今まで気が付かなくてごめん。これから時間があればいろいろ話したいことがあるんだけど、良いかな? ―――"逢沢あいざわ今宵こよい"さん」

「…………うん、阿久津くん」



 結衣さんの双子の妹、今宵さんは僕の問い掛けにこくりと頷いた。








「それではごゆっくりどうぞー」

「どうもですぅ」

「………………」

「………………」


 

 それから僕と風花さん、そして今宵さんは喫茶店の中に入って奥のテーブルが並んでいる一席に座っていた。僕と風花さんの目の前には、コートを脱いだ制服姿の今宵さんが背に寄り掛かりながら椅子に座っている。


 僕はそんな彼女の様子を観察するようにじっと見つめる。


 現在の彼女の容姿は中学の頃と比べてだいぶ大人しく地味めだ。中学の図書室や自宅で会った当時は大人し目でありながら清楚感や小動物感が滲め出ていたのだが、今の彼女はこれでもかという程の瓶底眼鏡を掛けており、ストレートだった黒髪も二房に分けている状態。


 言っておくけど、今宵さんは結衣さんとは双子なので素材的には間違いなく美少女にカテゴリされる。


 しかし現在の彼女は、正しい表現とはいえないだろうけど……なんとなく僕の目には、まるで日陰を好み目立つことを避けているように思えた。

 なんとなく、だけど。


 僕が今宵さんを見つめていると、彼女はその眼鏡をゆっくりと外しだす。結衣さんと同じ、その鳶色とびに輝く瞳が現れて僕を穏やかに射抜いた。


 そして、その小さな口を開く。



「―――このまま、気付かないのかなって思ってた。……ううん、違うな。このまま気付かないで欲しいって、最近じゃそう願ってた」

「え…………?」

「だって阿久津くん―――今、とっても幸せそうなんだもん。阿久津くんが三上さんと一緒に私に話しかけてきたってことはもう大丈夫ってことなんだよね。……ね、三上さん?」

「うん! 今まで見守ってくれてありがとぉ、今宵ちゃんっ!」



 僕の横にいる風花さんを見てみると、いつも通りのにへらっとした笑みを浮かべていた。風花さんの明るい返事に今宵さんが目を細めながら顔をふいっと横に逸らす。



「……言っておくけど、貴方の為なんかじゃないから。三上さんの方が、彼の近くにいるのがふさわしいって思っただけ」

「もぅ、今宵ちゃんってば冷たいなぁ。あのとき屋上で仲良く話し合った仲じゃぁん。今宵ちゃんが来人くんの中学の頃の話をしてくれたおかげで今があるんだよぉ?」

「………。はいはいそうですね。自分だけ・・・・阿久津くんと仲を深めることが出来て良かったですね、『天使』さん?」



 『だからあのとき言ったのにぃ』と風花さんは言葉を続けて横で微笑み、一瞬だけムッとした表情になった今宵さんは風花さんを睨み付けるようにしている。

 "自分だけ"という部分を強調する彼女の言葉が気になったが、僕はこの二人の温度差にどう対応すればいいのか分からず、とりあえず声を出した。


 

「あーっ、え、っと……もしかして二人って仲が良いの?」

「うん、いいよぉ」

「全然良くないから」



 ぴしゃりと二人から同時に返事された。うん、女性との会話に男が唐突に会話を挟んじゃいけないってはっきりわかんだね。



「それで阿久津くん、いつ私のことに気が付いたの? 体育祭のとき? それとも白亜祭のとき一緒にゴミ捨てに行ったとき? ……違うか。ま、そもそも一年近く一緒のクラスにいて名前で気が付かない方が珍しいと思うんだけどさ?」

「うっ、それについては本当にごめんなさい……。思い出したのは、冬休み前に風花さんに中学の出来事を話したときだよ。無気力で、周りに興味を持とうとしなかった僕が悪かったです……」

「そっか……。でも、仕方がないよ。中学の頃、あんな酷い環境にいれば誰でもそうなる。……私も、あそこは居心地が悪かった」



 そう言って今宵さんは先程注文したオレンジジュースのストローに口を付ける。きっと、彼女も当時僕が想像出来ないような様々な思いを抱えて生きてきたんだろう。だからこそ中学校にもあまり行かず、自分だけの世界にいたのだと思う。


 何故今まで彼女が今宵さん自身だと僕に黙っていたのか。どうして僕がいると結衣さんから聞いて知っている筈の白亜高校に入学してきたのか。―――あれから光輝達はどうなったのか。色々聞きたいことはたくさんあったけど、一番気になっていることに付いて僕は訊ねた。



「―――結衣さんは、今元気にしてる?」

「……うん。一応、ね」



 それから今宵さんは、中学を卒業した後の結衣さんたち・・の状況を話しだした。






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