進化の石(オマケ)

 私は古生物学者だ。幼い時に博物館で見た巨大恐竜に憧れて学者になった。私の仕事は、他人が見たらおおよそ生産性の欠落した非効率極まりないものに見えるだろう。


 毎日、人里離れた山奥に出かけては露出した断層を見て回る。土を削り、ハンマーで岩を割る。のん気な仕事に見えるが私は大まじめだ。化石は人類へとつながる悠久の時を記録したロマンなのだから。同じ思いを持つ助手と二人、今日も岩と戦っていた。


「博士、今日も何も出ませんかね」


「小林くん。今日一日、探して何も出ないようなら、この断層はあきらめよう。最後の一日だ気合を入れるぞ」


「そうですね」


 トン、キン、カン。


 トッ、テン、カン。


 岩を砕く音が山の中を木霊する。セミの声が忙しい。太陽の光に照らされてほんのりと首筋に汗が浮きかけた時のことだった。


「はっ、博士!恐竜の化石ではありませんがこんなものが」


 助手は手の平にのるくらいの黒い石を持っていた。


「・・・?中生代の地層から出たとは思えんな」


「ええ、何でしょう。これ」


「完全な球体に見えるが。人為的に作り出されたとしか思えんな」


「そうですね。偶然にできた物ではないですよね」


「問題は、なぜ、それが中生代の地層に埋まっていたかだ」


「材質も良くわかりません。石のようにも見えますが、金属のようにも、ガラスのようにも見えます。陽にかざして覗き込んでいると吸い込まれそうな・・・。うわっ!」


 突然、助手の手に持った球体が輝き出した。彼の体がどんどん小さくなっていく。


「小林くん。大丈夫か!」


 危険を感じた私は、思わず宙に浮いた球体を掴んで投げ捨てようとした。


「うわーーーーーーーー」


 気がつくと私たちは、六十センチにも満たない銀色の体をした目の大きな生物になっていた。その姿は縄文時代の土偶にも似ている。


「博士・・・。博士の姿がグレイ型宇宙人に見えます」


「小林くん。私の目にもキミの姿がそのように映る」


「がんだぽっぴぇ」


「小林くん。何か言ったか?」


「がんだぽっぴぇ」


「『がんだぽっぴぇ』とは何だ。意味が、わからんぞ」


 ぐはっ!


 頭の中に、人類が未だ知らない大量の知識が流れ込んでくる・・・。そうか、そういう事だったのか。なんてことだ。恐竜たちは滅んだんじゃなくて、進化したのか。我々のように・・・。がんだぽっぴぇ。


「小林くん。言葉も時間も空間も意味が無いんだな。行こうか」


「はい、博士。『がんだぽっぴぇ』です。この言葉には意味がありません。全てが無意味で、全てに価値があります」


 私たちはテントウムシほどのサイズに体を小さくした。宙に浮いたテニスボールほどの黒い球体。そこから黄色い光が伸びて私たちの小さな体を包み込む。体が透明なエレベーターにでも乗っているかのように引き上げられていく。


 くぽっ!


 小さくなった二人は球体に飲み込まれて消えた。黒い球体は垂直に上昇し、宇宙の彼方、銀河も星も何もない空間へと向かった。その夜、新しい宇宙が一つ誕生した。






おしまい。

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小説が書けない! 坂井ひいろ @hiirosakai

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