ファーストコンタクト~異星人からの贈り物~

寝る犬

異星人からの贈り物

 われわれ人類と異星人との接触は、きわめて友好的に始まった。


「こんにちは。地球の皆さん」


 世界中の主な言語、約千五百種類で送られて来たメッセージは、時差に合わせ、各地の午後一時ぴったりに響き渡った。

 各国首脳との綿密な事前会談が行われた末に、異星人はついにシンガポールにあるチャンギ国際空港へと降り立つ。

 古いマンガに出てくるような丸いUFOから現れたその姿は、驚いたことに人間とまったく変わらなかった。


「皆さんとの友好のあかしに、ささやかな贈り物を差し上げたい」


 そう言って彼が主要二十カ国の首脳へと手渡したのは、二十個のソフトボール大の機械だった。


「これは、わかりやすく言えば『完璧なクリーナー』です。使い方は簡単、クリーナーの表面に手を載せ、浄化したいものや人、動物の名前を口にすれば、ほんのわずかな時間で浄化は終わります」


 クリーナーは操作する人間の思考を完全に理解し、対象となるものから不要なものを取り除いて、最高のコンディションへと浄化する。

 ためしにアメリカ大統領が浄化したボールペンは、一瞬で表面の細かな傷や汚れが消え、減っていたインクすら元に戻った。


「これを使ってよりよい世界を築いてください」


 そう言い残し、異星人は何の名残も惜しまず、来た時と同じように去っていった。

 各国の首脳も口々に異星人との友好関係を喧伝しながら、自国へと去ってゆく。

 しかし、一般の人々に完璧なクリーナーの存在はひた隠しにされていた。


 ◇ ◇ ◇


 異星人とのファーストコンタクトから数ヶ月。


 贈り物である「完璧なクリーナー」の存在は未だ秘密のままであったが、それはもう公然の秘密と言ってもよかった。

 なにしろ各国の首脳や政府高官が、次々に二十代の若さを取り戻し、病気や怪我なども全快していたのだ。

 政府の所有する建物や軍事施設なども、一晩で改修が行われる。

 それが終わると、一部の富豪たちもまた、次第に若返り、精強だったころの姿を取り戻していった。


 一般市民は怒り、クリーナーを一般にも使用することを求め、各地でデモやクーデターが発生する。

 その波は瞬く間に世界中へと広がり、地球全体が戦争状態に陥った。


「大統領、自国民との戦いは無益です。クリーナーを一般にも開放しましょう」


「バカかお前は。今世界中に人間が何人いると思っている。百億人近い人間が、無限の健康と命を手にしたら、地球はおしまいだ」


 忠言を発するものの言葉は届かず、戦争は拡大の一途を辿る。

 それでも、どんな負傷をしても、たとえ体の一部分しか残らないほどにずたずたにされても権力者の一言で復活する兵士を持つ国軍に、反乱軍が勝てるはずもなかった。


 核施設の爆破や禁止されているBC兵器まで使用された世界は焦土と化す。

 焼け野原に、小数の腹心と共に立つ権力者が満足げに笑う。


「これで、不要な人間は間引くことが出来た」


 クリーナーに手を載せ、権力者は口を開く。


「地球」


 その瞬間、地球上の全ての人間は消え去り、焦土と化した地球は、緑豊かな世界へと姿を変えた。


――了

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