第2話

 母さんと二人で馬車乗り場まで来ていた。目の前にはそれなりに大きな商人の馬車がある。

 王都に行くために馬車に乗せてもらうことになったのだ。

「じゃあ行ってきます」

 そう言って母さんに手を振った。母さんも手を振ってくれたのを見た後、馬車に乗った。

 馬車が走り出してからも母さんはその場でこちらを見ていた。そしてしばらく馬車が走ると母さんも町も見えなくなった。




 二日と半日で王都に到着した。

 生まれてこのかた生まれ育った町を出たことがなかったので、正直別世界なんじゃないかと思ってしまうくらい王都は栄えていた。

 建物がびっしりと端から端まで林立しており、目的地に辿り着くまで時間がかかった。

「あった。…ここが冒険者ギルドか」

 辿り着くのに時間はかかったが、道に迷っていただけで決してその建物が目立たなかったわけではない。むしろ王城や貴族の屋敷を除けば、最も大きくて立派なものだった。

 俺の生まれ育った町には冒険者ギルドというものがなかったため、新鮮な気持ちだ。

 まあ、俺は冒険者ではないし、クエストの依頼人というわけでもない。“剣聖アイオンの特別剣術訓練教室”の受付場所がここだからだ。俺は一度深呼吸をして目の前の大きな扉を開けた。

 目の前の広間には沢山のテーブルや椅子が並べられていて、それらがほぼ余すところなく埋まっている。またそれぞれのテーブルから笑い声が聞こえたり、まだ昼間だがテーブルの上にジョッキが置かれていたりするのが見えた。

 正直ギルドの大きさもテンションも予想以上で既に若干気圧されているが、俺は真っ直ぐカウンターへ向かった。

「すいません、受付はここで合ってますか?」

「はい、本日はどのようなご用件でしょうか?」

 受付嬢が笑顔で聞いてくる。名札を見るにアイラさんというらしい。作り笑顔だろうが、嫌な気にはならなかった。俺は母から貰った一枚の紙を取り出して机に置いた。

「これの受付をお願いしたいです」

「剣術訓練教室ですね。この紙には記載されていませんが、剣術訓練教室への入学を希望される方には試験を受けていただくことになっておりますが宜しいでしょうか?」

「すみません…試験とは?」

「実は、受付開始から一週間で既に今回の教室への入学を希望された方が想定を大きく上回る大人数だったので、急遽入学希望者の方同士で一対一で剣術のみの勝負をしてもらうことになったんです。試合はトーナメント式で上位三十名に入学権が与えられ、負ければ不合格ということで残念ですが入学をお断りさせていただきます。また、試験に料金は発生しませんので、試験に合格し、入学を希望される方にのみ、そこに記載されている金額をお支払いいただきます」

 突然試験があると言われたので驚いたが、更なるお金が発生するというわけではないらしいし、俺の気持ちは変わらない。

「分かりました。試験を受けます」

「かしこまりました。それでは受付期間が終了次第試験の日程や場所を決定し、連絡致しますので、こちらに連絡先やお名前のご記入をお願いします」

「はい。…あの、この連絡先の住所というのは下宿の場合、その下宿先の住所を書くことになりますかね?」

「そうですね。そちらに連絡致します」

 数項目の記入を終え、受付嬢に提出した。

「リアム・ガイズさんですね。…はい、登録は完了しました。試験当日、開始時刻に所定場所にいない場合は不合格扱いとなりますのでご注意ください。他の注意事項や詳細につきましては、後日ご連絡させていただきます」

「分かりました。丁寧にありがとうございます、では失礼します」

 こうして俺はギルドを出た。

 とりあえず試験当日までは暇なので、町の観光や剣の練習でもするとしよう。


 それから半月ほどが経ち、ようやく試験の日程などの連絡が来た。

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もう一人の勇者 〜新たに紡がれる神話〜 @santa_0316

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