新しい日

 クララは王城の裏口から、表に出た。

 すでに陽の光は浴びていたが、それでも外に出ると眩しい。

 手で庇を作る。

 空から降り注ぐ当たり前の光が眩しいのが、妙に可笑しくて、笑った。

 わたし、変になったのかな。

 陽の光の下、草木が揺れる。

 春の希望を含んだ匂いがする温かい風が、気持ちいい。

 花の香りがする。

 鳥が、平和を告げる。

 正門へ。

 門の内側には、置いた荷物がそのままになっていた。

 荷物の上には、1冊の本が置いてあった。

 表紙の金の刺繍が、春の光でキラキラと上品に輝いている。

 クララは膝を着き、本の表紙に手を滑らせた。

 表紙をめくる。

 「クララのために」

 筆記体で書かれた文字をなぞる。

 これから始まるわたしの旅は、わたしが書かなくちゃ。

 クララは置かれた荷物と本を持ち、立ち上がると、日差しの中へ歩き始めた。


fin

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クララのために  市川冬朗 @mifuyu_ichikawa

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