吸血鬼、悪を倒す

@gokurakugo

第1話 吸血鬼、現る。

 関西随一の繁華街、御堂筋。

 かつて栄華を極めた関西最大の暴力団「上野組」が三つに分裂した。

 それがきっかけで繁華街には小規模の暴力団、いわゆる「半グレ」が町を荒らし回っていた。

 彼らを隠れ蓑にするために暴力団が暴利をすうためであった。


 その中でも有名な「ボッタクリBAR」経営グループ「MOON」が動かすバー「SEED]では今日も一人の男がひっかかっていた。

 男を引っ掛けていた女が叫んだ。


「お兄さんさぁ、30万もはらえないっておかしいんとちゃうの!?」


「払えないものは払えないなあ・・・。」


「ありえへん、マスター!よんできて!」


 女の声で裏にいた男たちが5名ほど出てきた。

 どれも立派な体格をした男たちばかりだった。


「お客さん、払えないってのはどういうことですか。」


「払えないから払えないっていったんだよ。」


 よれよれのスーツをきて、白い肌をした20代後半~30代前半の若い男はスタッフにおじけつがずにそういった。

 スタッフは怒りのあまり、顔を真っ赤にした。


「お兄ちゃん、痛い思いしたいんやろ?」


 大きなバットを持った若い男の一人はそういった。

 だが、飲んでいた男は冷静そのものでつぶやいた。


「俺は3杯飲んだだけだ、普通考えて30万円はないだろう。」


 若い男はそれをさえぎるように叫んだ。


「それがここのルールなんや!」



 すると、男の声に反応するかのように奥の部屋からひときわ大きな大男がやってきた。


 獅子尾陽一、御堂筋では一番危険な男である。


 元格闘家の経歴をいかして、ヤクザであろうと外人であろうと飛びつくその男は「御堂筋のライオンキング」といわれていた。


 190cm100kgある巨体をした獅子尾は、かつてはさまざまな格闘技団体で活躍していた猛者だった。


 ムエタイ使い、100kg以上あるロシア人、空手の黒帯、あらゆるものを倒してきた。


 だが、ある日自分よりはるかに大きい210cm 140kgある「テキサスの暴君竜」ことレックス・ティラーに秒速でダウンしてからは彼の名声は地に落ちた。


 勝敗に納得いかず、東京のホテルで止まっていたレックスを闇討ちしたがこれにもまたかなわなかった。


 やがて、週刊誌にとりあげられ業界の笑いものになったレックス。


 今は落ちぶれ、このようにボッタクリBARの経営者兼用心棒として働いていた。


「払うもんはらえんなら、痛い思いしてもらうで。」


 獅子尾は大きく振りかぶりながら、リーチ180cmの腕から繰り出す大きなパンチを繰り出した。

 彼は以前、これでブロックを砕いたことがある。


 だが、今カウンターで酒を飲んでいた男は大きな口をあけると男の腕を飲み込むように噛み付いた。


「・・・・・!???なんや、こいつ!??」


 おかしい、そんなことはない。


 俺はヘビー級ボクサーでさえパンチで静めた。

 こんなやつに負けるわけがないだろう。


 獅子尾の腕はまるで、ワニに食われた鹿のように微動だにしなかった。


 男の目は不気味に微笑むと、獅子尾の腕に噛み付いていたあごの力をさらに強くした。


 べきっ。


 簡単な音だった。

 非常に簡単でシンプルな音だった。


「ぎにゃああああああ!!!」


 獅子尾は悲鳴をあげながら地面に倒れた。

 そして、ようやく気がついた。

 自分の腕がなくなっていたことに・・・。

 血は噴水のように噴出し、バーカウンターを赤く染め上げていった。


「食いちぎった!!!こいつぅううう食いちぎりやがったああああああああ!!」


 獅子尾は悲鳴を上げのたうちまわった。


 カウンターにいた男は獅子尾の腕をつかみ、そこから滴り落ちる血をなめながらおいしそうに実に実に美味しそうにその味を堪能していた。


 獅子尾の舎弟たちは一瞬の出来事に呆然としていた。


「実に美味しい、よく運動された格闘家の血だ。俺の大好物なんだよ。」


 獅子尾は気を失いそうになりながらも、その姿をみつめた。

 男の目は赤く光り、口からは大きな犬歯が生えていた。


「きゅ・・・・吸血鬼!?」


「ビンゴ!大正解!」


 男は獅子尾の腕をほうり捨てると、彼の舎弟に向き直った。


「生かして帰さないよ。」


 舎弟たちは逃げようと一目散にドアにかけこんだ。

 だが、おかしいことにドアは開かなかった。


「なんでだ!?」

「なんであかへんねん!」


 よくみると、男の姿はなくなっていた。

 そして、窓が開いていた。

 窓から逃げたのだろうか。


 舎弟たちはテーブル席の奥にある窓をみていた。


「どこだ」

「どこだよ。」

「逃げた。」


 彼らはすっかり、ドアのことを忘れていた。

 すると、床がきしむ音が聞こえた。


「待て。」

「なんだ。」


 床がきしむ音はしだいにちかくなっていた。

 そして、男たちの一人が気がついた。


「ドアが開いてる。」


 吸血鬼はずっとドアの前にいたんだ。

 たった一瞬で動いてドアをふさいだのか。

 化け物め。


 彼がそういったその瞬間だった。

 まるでそれは、台風の風のようだった。

 大きな突風とともに、何かがとびついてきた。


 男は悲鳴を上げる瞬間もなかった。

 気がつけば底には先ほどの吸血鬼がいた。


 吸血鬼は男の首にがっつりと噛み付くと、音をたてながら男の血を数秒で飲み上げていった。

 先ほどまで血色がよかった男は一瞬で心臓も止まるほどの血をすわれ、やがてしわしわの姿になり骨と皮だけの存在になっていった。


 そして、吸血鬼は立ち上がると男の顔をその足で踏み潰した。


「中途半端にやらないとゾンビになっちゃうからなぁ・・・・。」


 気がついた生き残りの男たちは顔を青ざめて震え上がっていた。



「ああああ・・・。」


 ようやく騒ぎに気がついた女たちはスタッフルームから顔を出すと悲鳴をあげた。


「ひ、ヒィええええええええええええええええええあああああああっぁぁぁ!!!」


 女の顔を吸血鬼はつかむと、まるでテレビで握力自慢の芸人がりんごをつぶすように女の顔を握りつぶしてしまった。


 女の顔だったものからは脳味噌や歯、目玉の残存物が飛び散った。


 手についた血をなめると吸血鬼はにんまりと微笑んだ。


「女の血は不味い。」


 血まみれになったバーカウンターによじ登り座るとテキーラの瓶を空け、飲みながら吸血鬼の男は生き残った数名の男にこういった。


「命がおしいか?」


「はい。」


「生きたいか?」


「じゃあ、お前らのケツモチを教えろ。」


「上野組・河内極道会の松本さんです。」


「わかった、お前らのスマホをよこせ。」


 男たちは吸血鬼にスマホを渡すために近寄った。

 その手は震えていた。

 小便だってもらしている。

 そして、小さい声で聞いてみた。


「僕たちかえってもいいかな?」


 すると吸血鬼は冷たく言った。


「だめだ。」


 すると、吸血鬼は指をのばすと二人の首に突き刺し一気に血を飲み干していった。

 先ほどの男のようにミイラ姿になると、吸血鬼に頭をつぶされていった。


 獅子尾はまだ生きていた。


「てめえ、こんなことしてただで済むおもうなよ。ゼッテー殺す!!!」


「いや、お前が死ぬんだよ。」


 テキーラの瓶を割ると、男は簡単な刃物に変えた。

 そして、獅子尾に近づいていった。


「じ、地獄へ落ち・・・。」


「吸血鬼にな、地獄なんてねェんだよ。」


 吸血鬼の男は獅子尾の体に飛び乗ると彼の腹部を切り裂いていった。


「うぎゃあああああああああああああ・・・・ああああああああああああああああああああ!!!!!!」


 切り裂かれた腹部からに手を出した吸血鬼は彼の腸をつかむと思いっきり引っ張った。


「おい、食ってみろ美味しいぞ。」


 腸を獅子尾の口に無理矢理くわえさせた吸血鬼は立ちあがると、上機嫌に鼻歌を歌いながらズボンのファスナーを開くと小便をあたりにかけた。


「おいらァの小便は火がつくんだおおおお~~~~~~~~っと!」


 まだぎりぎり生きていた獅子尾は小さくつぶやいた。


「やめろ・・・・。」


 吸血鬼は残酷な微笑みを浮かべると彼に聞いた。


「くやちいでちゅか???」


 獅子尾の目には涙が浮かんでいた。


「くやしいかあ~~~~~じゃあ死のうね!」


 吸血鬼は持っていた割れた瓶で獅子尾の顔をめったざしにした。

 あたりは血であふれ獅子尾は後悔の中で死んでいった。


 彼の死を確認した吸血鬼は何かに気がついた。


 まだ生き残りがいる。


 彼は奥の部屋へすすんだ。

 そこにはほかの女たちが震え上がって隠れていた。


「お前ら、生かしておくわけにはおかないなァ~~~~!!!」


 そして、奥の部屋にいた生き残りの女たちを両腕両足を引きちぎり皆殺しにするとその血を啜り満足した。


 やがて、虐殺に飽きた吸血鬼は戻ってくると小便をかけたところに火をつけた。


 火は一瞬で燃え上がり、半グレたちの死体を焼きながら御堂筋の町を紅く紅蓮に染め上げていった。






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