第2話 三つ巴の始まり。
御堂筋でおきたバー炎上事件から数時間後
複数の警察関係者があたりを検視していた。
燃え広がった火の手は幸い、関係者以外の死傷者はでなかったといわれている。
大阪府警本部が誇る、対組織暴力課のエリート刑事である熊山正和はその土地に降り立った。
鬼熊は柔道でつぶれた耳、失った左目、そして180cm 130㎏の巨体をしたまさしく熊のような巨漢だった。
「愛知の阿修羅」と呼ばれた名古屋の大物暴力団組長が泣いて逃げ出すことから「鬼熊」といわれ、周囲からは畏怖の対象でみられていた。
彼も鬼熊といわれることを心の奥底から快感を覚えていた。
58歳の鬼熊は1970年代の大阪で起きた暴力団抗争事件で両親を失ってからは以降、必死に暴力団を専門に活躍してきた、事実上「組織犯罪のエリート」であった。
「まいど。」
鬼熊はぶっきらぼうにそういった。
辺りは火で包まれ黒焦げになっていた。
「鬼熊さん、ずいぶんと久しぶりですね。これ捜査資料です。」
旧知の鑑識である鹿野から鬼熊にある資料が渡された。
「被害者は9名、全員頭をつぶされた上で焼き殺された・・・か。」
「はい、全員半グレだったそうです。」
「これで半グレがヤられてまうのは、今月に入って3件目やな。」
鬼熊はそういった。
以前にも、京橋・天王寺で同様のぼったくりバーが襲撃にあい総勢20人が死んでいる。
これが今回の事件で29人に更新された。
巣鴨という名札をした若い刑事が入ってきた。
「鬼熊さん、近所で若い男がこの店に入るのをみた人がいます。」
鬼熊は顎をさすると、巣鴨の話を聞いた。
「若い男は、年齢は20代もしくは30台。目立った格好はない中肉中背だったそうです。」
「情報が薄いのぉ、もっと調べてきれくれや。」
鬼熊は不機嫌そうに言った。
「はい、ところで鬼熊さん。今回の事件は何だと思います。上野組の分裂や最近の半グレたちの躍進と何か関係があるんじゃ・・・。」
鬼熊はふと周囲を見回した。
そして、こういった。
「半グレ同士の抗争やヤクザの恫喝なら普通9人も殺しはしない。殺すにしても死体をもっと隠すはずや。それに、そこまで殺したら『特定抗争指定暴力団』になるやろ。ここまでやるのは激しい怒りを抱えた一個人や。」
鬼熊は非常に冷静な分析をした。
「1人で9人も殺しますかね。」
「わからん、まあ俺がいったのはあくまで予測よ。それを知るためにも聞き込みいってくれや。」
鬼熊は巣鴨にそういうと、すぐに事件を探らせた。
すると、巣鴨が去ると代わりの警官が入ってきた。
「鬼熊さん!お客さんがきてます!」
鬼熊は巨体をゆらしながらビルから降りて来客対応に向かった。
そこには金髪蒼眼をした美青年の白人がたっていた。
「あ、なんや・・・英語しゃべられへんで。アイキャントスピークイングリッシュや。」
青年は笑うとすぐさま、バッジをみせた。
そこには英語音痴の彼でもわかる「FBI」の文字があった。
「え!?えふびーあい!?」
「申し遅れました、私の名前はリチャード・W・シェパード。FBI特別捜査官です。」
「な、なんやねん。日本語しゃべれるんかい!!」
「熊山さん、おかしいと思いませんでしたか?被害者は全員頭を破壊されている。これは同様の事件がアメリカで以前おきたことがあります。」
鬼熊は自体が呑み込めないでいた。
さすがに刑事人生23年の彼でもFBIは生れて始めてあう存在だった。
「アメリカでは以前、イタリア系マフィアが同様の事件にあい幹部だったドン・ペロシの一味が殺されました。被害者は総勢100名を超えました。なお、その中にはアメリカの上院議員もいたといわれております。日本で相次ぐ事件と何か因果関係がないかということで私が派遣されました。」
「あー、知らん知らん。捜査資料送りますからはよ、お帰りください。」
熊山は邪見にしようとすると、シェパードはこういった。
「そのイタリアマフィアの殺害事件の被疑者、日本人なんですよ。」
「え?」
熊山は振り向いた。
シェパードは微笑みながらいたずらにいった。
「正確にいえば、日本人という目撃証言があった・・・ですがね。」
そして、シェパードは近づくと熊山に耳打ちした。
「放っておくと被害者が増えますよ。」
熊山は少し顔がこわばった。
確かにそうだ、このまま放っておけば被害者は増える。
ここで事件を食い止めないと、大変なことになる。
「わかった。手を貸そう。」
そんな彼らのやり取りを遠巻きでみつめる男がいた。
スマホ越しにスキンヘッドのうつろな目をした大男はこういった。
「FBIか、厄介なことになったな。」
男の名前は鰐淵幸助、近畿に本部を置く上野組とは全く別の暴力団の構成員だったが、組織とは別にフリーでほかの暴力団に頼まれ『殺し屋』をしている悪質な男だった。
彼が上野組から頼まれているのは大阪を最近騒がせている通称「半グレハンター」をしとめることだった。
『FBI、おもしれェじゃねえか。鰐ちゃん・・・。FBIも半グレハンターもまとめて地獄生きにしてやろォよ!!!』
声の主は全力で楽しむようにそういった。
「あんなことができるのは『人間』なんかじゃない化け物だ。さしずめ桃太郎の鬼退治だな。」
鰐淵はそういうと微笑んだ。
実は彼は見ていたのだ。
一人の男が出入りした後、火災がおきていたことを・・・。
あれは人間ではない、化け物だ。
顔も覚えている。
絶対に逃がさない。
「化け物狩りはさぞや楽しいだろうよ!サメちゃんよ!」
同じころ、大阪某所
暗がりに包まれた部屋の中で寂しく棺のみが置かれていた。
中で眠っていたのは吸血鬼の吹田一、別名イチだった。
イチは気だるそうに棺を開けた。
「ああ・・・のどが渇いちゃったなァ・・・・。」
イチは冷蔵庫に手を伸ばした。
そこには本物の生首があった。
眼は白目をむき、口を開けたまま絶命していたそれは特殊メイクか何かにみえた。
イチは生首をつかむと、首の先から流れている血をポトポトと味わいながら恍惚に震えた。
「今日はこれでおしまい。」
警備の仕事のあと、襲ったボッタクリバーで大量のチンピラを皆殺した彼は返す刀で近所の暴走族リーダーの自宅を襲った。
トイレで大きめの便をしていたところを強襲し、悲鳴を上げる間もなく頭部を引き裂くと、胴体を川に捨て頭部だけを持ち帰りその血を吸いながら保存食にしていたのだ。
彼は寝ながら、また考えた。
「今日はどこで暴れようか・・・・。」
吹田はそう考えると、わくわくしながら再び眠りの世界へ入っていった。
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