第6話

「なんで引っかからないわけー?」

彼女は頬を赤く染めて唇を尖らせ、近くに置いていたティッシュの箱を僕に投げつけた。

ティッシュの箱は僕の身体を擦り抜けて、そのまま後ろの壁へと当たる。それがまた彼女の怒りへと火を着けてしまったようだ。


当たり前だと思う。

この3日間、彼女は毎日1万円札をテレビ台の上に置いてあるのだ。盗ってくださいと言わんばかりに。扉を開けっ放しにして、おばさんが盗った瞬間をスマートフォンで動画撮影をしようと、物陰に隠れて待ち構えている。これが、彼女の作戦だった。

「見え透いているもの」

「じゃあ、他に何かいい案考えなさいよ」

僕は放っておけば良いのに、と思う。そもそも被害者側も不特定多数の人が出入りしている場所で、不用心に財布や時計を置きっぱなしにしているのか悪いのだ。それになんで好き好んでわざわざ巻き込まれなければならないのだ。何故僕が対策を練らなければならないのか、何故彼女の言うことに従わなければならないのか、さっぱり理由がわからない。


「少し考えてくる…」

我ながら気が弱い返答をして、またもや彼女を怒らせたらしい。飲み終わったスポーツドリンクのペットボトルが飛んできた。僕は逃げるように彼女の病室を飛び出した。

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暴君彼女との憂鬱な日常との葛藤 遠谷カナ @spica-kira

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