第5話

「あんたは知ってるんでしょ、時計の犯人」

一通り騒いだ男性は看護師に連れられて自分の部屋に戻っていった。看護師は事情を聞いたり宥めたりしているのかなかなか戻っては来ない。なんとなく集まっていた人たちは、そのままぞろぞろとそれぞれの部屋へと戻っていった。

僕は彼女に促されて彼女に着いていく。彼女の部屋は個室だった。昔扉の横に付いていた名前のプレートは、今やタッチパネルになっていて人が通ると部屋番号が表示される。そこを手で触れると名前が確認出来るようになっている。僕は透けていて何かに触れようとしても通り過ぎてしまうので確認は出来なかった。


「多分、掃除のおばさん」

その掃除のおばさんは少し手癖の悪い人で、置いてある財布からお札を一枚抜き取ったりする。少額だから気付かれ難いし、へたすれば取られた人は気付かないまま退院なんてこともあるだろう。そういう場面を何度か見たことを身振り手振りで説明をする、それを彼女は真剣な表情で聞いていた。

「なるほどね、出来心って怖いわね」

「…誰かに報告する?」

誰に伝えるのが良いか頭の中を巡らせる。…あまり思い浮かばない。


「バカね、現行犯じゃないと意味ないわ」

彼女は立ち上がり、 僕を指差した。


「餌を撒くのよ」

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