第78話 エクレール家に帰還

 翌日、僕は早めに起き、さっそくギルドマスターの元へ移動した。


「おはようございます。早速ですが魔法具を貰いに来ました」

「おうお前か。結構早かったな。今用意するから少し待ってくれ」


 僕は昨日被害に遭った町を見渡す。

 一部赤竜のブレスで完全に無くなっており、さらに赤竜の羽ばたき熱風のせいで、結構な家が崩れている。

 かなりの被害だが、よく考えたらもうじき鉱山からトカゲ軍団の進行が始まる。

 そうなるとどのみちこの町は壊されてしまっていたと思うと、なんとも言えない気持ちになる。


「待たせたら。今渡せる魔法具はこれだけだ」


 マスターは袋型魔法具を5つ用意してくれた。

 詳しく聞くと、どうやら僕が持っている魔法具と変わらないぐらいの容量らしい。つまり大トカゲ3~5匹分だ。

 それでも複数個袋が手に入ったので、さっそく赤竜の元へ移動し、その死骸の解体を始める事にした。


「一応この袋に赤竜の血を入れてある。感謝しろよ? 職員が昨日寝る間も惜しんで血を採取してたんだ。

 もし今日まで伸ばしてたら、血は全部流れて地面に吸収されているところだぞ?」


 それはありがたかった。たしか竜の血は装備の強化に使ったり、薬や魔法具の道具にもなるって聞くしね。


 僕は急いで赤竜の解体を終わらせ、出来る限りの部位を袋に詰めた。


「マスター? ドラゴンの肉がかなり余りますが、食べます?」

「バカ言うな。こんな肉食の魔物の肉なんか食えるかよ。臭いし、固いし、とても食えたもんじゃないぞ?」


 ドラゴンステーキとか結構有名だけど、この世界では食べないのかな?


「ドラゴンの肉は確かに高級品だ。でもな、食べる為じゃなくて薬や錬金術とかの材料としてた。流石に滅多に食う人間はいないだろうよ」


 少し残念。ドラゴンステーキって高級なイメージだったのに、説明を受けたら「確かに」と思っちゃうよね。

 その後、少しだけマスターと雑談した後、僕はフィフィが眠る建物まで移動した。

 すると、既に起きていたのか、フィフィが小さなカバンを肩から掛け、杖を突いてこっちまで歩いて来た。


「あの、おはようございます! 今日からよろしくお願いします!」

「うん、よろしくね?もうすぐ町を出るけど、準備は大丈夫?」

「はい。町の人達からいろいろともらえたので、もう何時でも大丈夫です」


 一晩眠ったためか、フィフィは手足がないというのに全然悲観的な表情を浮かべず、むしろ凄く生気が溢れている様だった。


「気合が入ってるけど、どうしたの?」

「だって、今後の活躍次第では手足が治るんですよね? そう考えたらなんだか頑張ろうって思いまして」


 どうやらこの子はポジティブな子の様だ。よかったよかった。ネガティブの子だったら、励ましながら帝都まで走らないといけなかったからね。


「じゃあ早速出発するよ。ちょっと急ぐからおんぶするね?」


 そう言って僕は無理矢理フィフィをおぶった。最初はいきなりおぶわれた事にフィフィはアワアワしていたが、直ぐに落ち着いた。

 今足が無い状態のため、この方が速く移動できるとすぐに理解できたらしい。


「ごめんなさい。よろしくお願いします」

「うん。任された」


 そうして僕はフィフィをおぶったまま、マスターや冒険者達がいる場所まで移動する。

 そして全員を見つけ別れの挨拶を行った。


「では先に町を出ます。皆さんも気を付けて避難してくださいね」

「おう、坊主。世話になったな。お前に助けられた命だ。無駄に散らす事はしねーよ」

「町の住民たちは俺達に任せろ。必ず無事に避難させるからよ」


 強面おっさんを始め、マスターや他の冒険者にも声を掛け、僕とフィフィは町を出た。

 そして約15分程歩き、周りに誰もいない事を確認する。


「さて、フィフィ。トイレとか大丈夫かな?」

「はい。出る前にちゃんと行きましたので。これから最寄りの町に行って場所を借りるのですか?」

「いや、走るよ」

「……はい?」


 フィフィが背中越しでもわかるぐらい首を傾げた。


「今からかなり早く走るから、フィフィは右手に力を入れて、絶対に離れない様にしがみついて?」

「え?あの……」


 フィフィは戸惑いながらも僕の言う事を聞いてくれて、右手に力を入れた。

 その際に背中にフィフィに体がギュっと密着し、フィフィの重さが伝わってきた。

 ……フィフィは無い乳だ。まだ12歳らしいから、それが普通か。


「じゃあ走るよ! 下噛まない様にね」

「はい! ……ってキャーー!!」


 僕はフィフィの返事を聞き、帝都まで走り出した。

 今回はフィフィがいるため、気を使いながら走っているので、大体夜ぐらいに着くかなと計算している。

 もちろん、途中で何度も馬車を抜き去り、パトロール中の兵士から声を掛けられそうになるが無視し、一直線に帝都を目指す。

 しかし、残念な事にフィフィの腕の力が無くなってきた事が分かったので、一旦下ろした。


「大丈夫?」

「ハァ……ハァ……だい……丈夫……です……」


 大丈夫じゃないみたいだ。故に僕はフィフィが力を入れなくてもいいような持ち方、いわゆるお姫様抱っこをしてまた走り出した。

 ……フィフィはぐったりしていてお姫様抱っこしても何もリアクションしなかったけど、大丈夫だよね?


 ***


 結局帝都に着いたのは夕方頃だった。ちなみにフィフィはお姫様抱っこのまま寝ています。

 少し帝都の位置口で兵士に止められてしまったけど、僕がエクレール家に厄介になっている事を説明すると、一緒についてきた。

 流石に手足が無い子どもを連れている人間が急に来たら、職質するのは当然だと思うしね。

 そのまま僕と兵士さん、そして寝ているフィフィの3人でエクレール家へ向かう。


 一応その間の兵士さんから状況を確認するのも忘れない。

 末端の兵士が何処まで知っているのか、そして今後の動きの指示はどうなっているのかを確認する。

 どうやら兵士の間には情報が結構出回っており、もうじき決戦のため招集が掛かっているらしい。

 でも敵の正体とかの情報は未だにあやふやであり、とりあえず魔物の大軍が来ている事ぐらいしか分からないとの事だ。



 さて、エクレール家に戻ってきたし、さっそく呼び鈴を鳴らす。


 ――ピ~ンポ~ン――


 未だになれない呼び鈴を鳴らすと数秒後にシーラさんの声がした。


『ハイ。どちら様でしょう?』

「僕です。長慶です。ガストンさんからお願いされた任務から帰ってきました」

『ナガヨシ様ですね。少々お待ちください』


 しばらくすると、ガストンさんが直接玄関から現れた。

 その姿を見た兵士は一言挨拶をして持ち場へと戻っていった。


「良く帰った来たなナガヨシ。いきなり出かけると言われてヒヤヒヤしていたが、無事でよかった。ところで、あの兵は?」

「ただいま戻りました。それがですね。訳あってこの子を抱えていたら不審者に思われまして、一応見張りの為に来た感じですかね?」


 ガストンさんは僕が抱えているフィフィを見る。そして手足が無いことに気が付き、悲痛な表情を浮かべた。


「何があったのかの説明を求めるが、今すぐでも大丈夫か?」

「はい。ただフィフィからも話を聞いた方が良いと思いますので、先に僕から話し、起きたらフィフィから話を聞くでいいでしょうか?」

「構わん――シーラ。この子を客間のベットに寝かせてやれ」

「畏まりました」

「あ、僕がそのまま運びますので、運び終わり次第書斎に行きますね」


 そうして僕はフィフィをベットに寝かせ、書斎に移動した。

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出産予定の嫁を助けた引き換えに、異世界に召喚される事になりました あんこうなべ @seiya1027

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