第77話 事後処理の行方

 僕は少女を隠した半壊した建物の場所まで戻ってきた。

 少女は僕を見つけると、建物から出て来る。

 左脇に杖を挟み、右足と棒で器用にバランスを取りながら、僕の傍まで歩いて来た。


「ありがとう。君のおかげで何とか勝てたよ」

「いえ、こっちこそありがとうございます。あのドラゴンを倒してくれて」


 彼女は気様に僕に頭を下げてきた。

 僕はそれを素直に受け止め、そこらへんに座り、さっそく質問をする事にした。


「どうして君が来たの? 他の大人は? ていうかどうやって?」

「あ、あの……その……ごめんなさい!」


 僕が思わず問い詰めるから、少女も一緒にテンパってしまった。

 そこで僕は一旦落ち着き、一つずつ確認する事にした。


 彼女の名前はフィフィ。帝国に属する小国の小さな村に住んでいたそうだ。

 そこの村で唯一の魔法使い一家として暮らしていたが、ある日大量のリザードマンやリザード達が村を襲ったらしい。

 そして多くの人が攫われ、あの山に連れていかれたとの事だ。


 しかも彼女の村だけではなく、周りの国の村からも多くの人を攫ったらしい。

 そして僕が目にした通り、多くの大人たちが食べられ、子ども達だけ残ったという訳か。


「……あの時はごめんなさい。あの灰竜を見てたら力の差が分かっちゃって……」

「自分の実力差が分かってしまったから、思わずパニックになって逃げちゃったと……そういう事?」

「はい……」


 それは仕方がないな。僕のいう事を素直に聞いていた子ども達は、恐らく戦いを知らない子ども達だったのだろう。

 でもフィフィは違う。彼女は魔法使いだ。恐らく灰竜の魔力が分かってしまったせいでパニックになり、あんな行動になったんだろう。


「……ごめんね。僕にもう少し力があれば……」

「お兄さんのせいじゃありません! 私が悪いんです。私があの時パニックにならなければ……」


 そのまま約10回ほどお互いがお互いを謝る行為をしてしまった。

 途中で結論が出ないので、今回の事は両方悪かったとして処理しようという事になった。


「ところで、なんでこっちに来たの? ここは危険だったから皆が止めるでしょ?」


 なんでもマスターが僕の魔法具を持っていて、その中に灰竜の皮があると知り、僕の助けになるならと多少無理矢理奪いさり、そのまま魔法を使って来たとの事だ。

 ――うん、何でマスターが僕の道具を持っていたかは後で本人に聞くとして、どうしてフィフィはこっちに来たのかはまだ話していない。


「何でフィフィが来たのかな? 大人たちが沢山いたでしょ? その人たちは?」

「誰がお兄さんにこの袋を渡しに行くかを相談するって言ってた。そんな時間が無いと思ったから、私が魔法で来たの……」


 この子は自分の体の事をわかっているのかな?


「君は今手と足が無い。なのに無理矢理こんな危険なところまで来たら、周りの人達がまた心配しちゃうよ。だから戻ったら謝らないとね?」

「……はい。わかりました」


「でも君のおかげで勝てたのは事実だよ。本当に来てくれてありがとう」


 ***


「戻ったか! まさか本当に勝つなんて思わなかったぞ!」


 僕がフィフィを連れて戻ってくると、マスターを始め多くの冒険者や町の人が集まってきた。


「何とか勝てました。結構辛勝になりましたけどね」


 そう言うと、マスター達は僕の右腕を見た。

 肩から下が完全に火傷をしており、皮膚は焼かれ肉が見えている状態といえる。

 そんな僕の腕の状況を見て、マスターは済まなそうに言った。


「済まんが、その腕を治すポーションは此処には置いておらん。だから此処での治療は無理だ」


 そうか……残念だ。出来ればこの町にいる間に治療したかったけど、無理なら仕方がない。


「じゃあ僕は帝都に戻りますよ。そこでなら伝手がありますので治療できるかもしれませんしね」

「そうか……済まんな。せっかくこの町を救ってくれたのに、何も出来る事が無い」


 マスターを始め、多くの町の人達が残念そうな表情をしている。

 だから僕はちょっと考えていたことをお願いしてみた。


「ではできればなんですけど、収納型魔法具をくれません?僕の袋に入っていた灰竜の皮は殆ど無くなりましたが、今度は赤竜がいます。

 その赤竜の素材を帝都に持っていきたいんですけど、袋が無くて……」

「なるほど、赤竜の素材か。ならば余っている袋がいくらかある。それを渡そう」

「ありがとうございます。これで恐らく治療分の対価になると思いますので」


 流石にこの怪我を治療するのにタダで行えるとは思っていない。

 なので、僕が色竜を倒せる存在だとアピールする必要がある。

 一応皇帝やガストンさんは信じてくれると思うけど、他の人にも信用されるためにも赤竜の素材は必要だしね。


「あとこの子も連れて行きます」


 僕はフィフィの手をつかんだ。

 そんな僕の言葉にフィフィが驚いている。


「おい坊主! ギルマスが言ってただろう? 一時の感情で――」

「彼女に僕は借りが出来ました。だから借りを返したいと思います」

「借り?」

「ええ。彼女のおかげで赤竜に勝てました。彼女がいなければ、もしかしたら負けていた可能性もあります。だから僕は彼女に借りを返すために帝都に連れて行きます」


 僕の宣言にギルマスが声を掛ける。


「たしかに気持ちはわかる。が、いいのか? この子の今後はどうする気だ?」

「彼女は希少な魔法使いです。であれば国がしっかりと保護してくれる可能性が高いです。

 しかも、既に実践を経験している魔法使いですし、更に僕は魔法部隊に伝手があります。ある意味かなりの幸運ですよね? 彼女。まあ手足が無くなったので、トントンな感じですが……」


 ギルドマスターは「なるほどな」と呟き、強面の冒険者は「やっぱり魔法使いだったのか!?」と驚いていた。


「それなら納得だ。嬢ちゃんの魔法を直接見たが、あんな短時間で詠唱ができて、尚且つ結構な距離を飛んでったんだ。なかなかの才能だと思う」


 ギルドマスターに認められたので、僕はフィフィに向かい事情を説明する。

 最初は遠慮していたが、僕が魔法部隊の人の家にお世話になっている事、そして魔法使いは数が少ないので、頑張り次第では治療が出来る可能性がある事を告げる。


「わかりました。私の命もお兄さんに助けられたんです。だからお兄さんを信じます」

「ありがとう。明日の朝にはこの町を出るけど、それでいい?」

「はい、大丈夫です。特に荷物とかもないですから」

「そういえば、知り合いとかは?」

「……全員食べられました、あのリザード達に。私の村には他にも子どもはいたんですけど、みんな……」

「そうか……わかった」


 どうやら竜達は回数を分けてあの行為を行っていたらしい。最初に大人を、そして散々怖がらせた後に子どもを食べる。

 何故そんな行為をしたのかは不明だが、何か考えがあるのだろうか?


「とりあえず今日はもう休もう。僕ももう疲れたから眠たいしね? マスター、この子の寝床をお願いしますね?」

「おう、無事な建物がまだいくつかあるから、怪我人とか子ども優先で寝かせる予定だ。その子の事は任せろ」

「ありがとうございます。じゃあフィフィ、また明日ね」

「はい、また明日よろしくお願いします」


 そうして僕達は別れた。ちなみに僕や冒険者達、そして大人の男達は外で眠る。

 流石に全員が寝泊まり出来るほど無事な建物は残っておらず、自然にそうなった感じだ。


「それにしても坊主、お前スゲーな!? ほとんど1人で色竜を倒すなんて」

「だな。この事を他のやつらに話しても、絶対に信じないぞ。むしろ嘘つくなって怒鳴られる案件だぜ」

「だなだな。本当に出鱈目な強さだ。お前のおかげで助かったぜ。ありがとな」


 僕は眠る場所を確保しようとしたところ、山を一緒に下山した冒険者達に捕まった。

 そしてそのまま始まる賞賛タイム。嬉しいけれど、正直もう眠りたい。


「おいお前等! 気持ちはわかるがそれぐらいにしておけ。坊主の右手は酷い怪我だし、戦闘で疲れてるだろうよ。寝かせてやれ」


 リーダー格の強面おっさんがそう言ってくれたおかげで、最後に一言ずつお礼を言われ皆去っていった。


「済まなかったな。皆嬉しくてな。今生きていられる事が」

「ええ、わかりますよ。皆さん本当に嬉しそうでしたから」

「明日は朝早くから帝都に向かうんだろ? 俺達は町の中から食料や必要道具を揃えて、昼にでも出発する予定だ。お互い道中気を付けような」

「そうですね。皆さんの方が大変でしょうけど、頑張ってください」


 強面おっさんも離れ、僕は眠りにつく。右腕に巻かれた包帯の感触が少しくすぐったいが、我慢して眠ろう。

 今日は本当に疲れた。まさか竜と2戦するなんて思いもよらなかった。

 でも結果的に敵の最大戦力を2体も減らしたと考えたら、これはこれで良かったのかな?

 そんな事を思いながら、僕は夢の中へ旅立つのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る