第76話 少女の決断

 ――何の音だろう……


 私は大きな爆発した様な音で目が覚めた。そして立ち上がろう思ったが、起き上がれない。

 何でだろうと思い、右手でシーツを払い除けると、そこにある筈の手足が無い事に気が付いた。


 そして私は思い出した。あの時、私はリザード達から怖くて逃げだした。

 そうしたらリザードが何体か付いて来て、必死に逃げていたんだけど、追い付かれて左手足を噛みつかれ、そのまま食べられたんだった。


 私は呆然と体の左側を見る。左手は二の腕の真ん中あたりから下が無く、左足も太ももの真ん中から下がない。

 一応断面のところに包帯が巻かれ、断面図が見えない様になっているが、私は左腕の包帯部分をしばらく呆然と見つめていた。


 ――バタン!――


「――まだ誰かいるか! って嬢ちゃんか! くそ! 置いていかれてたか……」


 いきなりドアを開けられ、少し強面のおじさんが入ってきた。


「目覚めてたか! 良かった――今町に避難勧告が出ている。だから一緒に逃げるぞ! ちょっとすまんな――」


 そう言っておじさんは、私を肩に担ぐように持ち上げた。


「結構揺れて痛いかもしれねーが我慢しろよ!」


 おじさんは最低限の持つを持って、この部屋から出た。部屋の外に出ると、張り紙とかを見てここが病院とわかった。

 おじさんは更に他の部屋を見て回って、私みたいに置いていかれた人がいないかを見て回るみたいだった。


「――よし、他の部屋は誰もいないな――嬢ちゃん済まないな。このまま外に出るぞ」


 おじさんと一緒に外に出た。そうしたら周りの家が燃えている。その熱気に当てられていると、どうしても思い出してしまう。

 リザードマンたちに家族と一緒に攫われた事。そして――


「済まんな嬢ちゃん。もう少しだけ我慢してくれ」


 おじさんが一生懸命私を担いだまま走っている。そして走りながらもずっと私に気を使ってくれている。

「大丈夫だ」とか「もう少しだ」とか……その気遣いのおかげで嫌な事を思い出す前に何度も現実に戻してくれた。


 ***


 しばらくして沢山の人が集まっている場所に着いた。

 冒険者の人達や指示を出している人達は一生懸命皆に声を出している。

 そして町の人達は皆呆然と燃えている町の方を見ている。


 私はどうして避難が必要なのか、どうして誰も火を消そうとしないのか疑問に思っていたけど、突然熱風が私の肌を襲った。

 いや私だけじゃなく、この場にいる人達全員を襲ったと言った方がいいかもしれない。


 いきなりの熱風に咄嗟に右手で顔を覆ったが、少しだけ肌がヒリヒリする。

 熱風が通り過ぎたので風が来た方向を向くと、そっちにはドラゴンがいた。


「――ッヒ!」


 私達を攫ったドラゴン。その姿を見て私は叫びそうになった。

 しかし、そのドラゴンの前に一人戦っている人がいる事に気が付いた。


 その人はドラゴンを前にして、一人で対峙している。ドラゴンが翼をはためかせる度に熱風が此処まで届く。

 それをその人は一生懸命避けている。


「あいつがお前たちを救った奴だ」


 未だに私を担いでいるおじさんが教えてくれた。

 今戦っている人が私達をあのリザードの群れから助けてくれた人らしい。

 そして今も私達を守るためにあのドラゴンと対峙している。


「俺達も応援に駆け付けたいんだが、完全に足手まといになる。あいつはすげーよ」


 確かに凄いと思うけど、全然攻撃していない。避けてばっかりだ。もしかして倒せないんじゃ?

 そう思っていると、なんだか偉そうな人がこっちに来た。


「ここにいたかバンバ! これで残っている冒険者は全員だな。という事は町の住民の避難もこれで完了か」

「ギルマス! そうか、この嬢ちゃんで最後だったか」

「良かった。病院の奴らがこの子を忘れていたって報告があったから、どうなるかと思ったが、無事だったか」


 詳しく聞くと、どうやら病院でも避難の際に混乱があり、寝ていてた私を忘れていた様だ。

 そして避難先で私がいない事がわかり、病院の方々はさらにパニックになって私を探してほしいとギルマスに申請したらしい。


「さて、問題はあのドラゴンだ。どうやら奴は赤竜だな」

「どうするよギルマス? さすがにあの坊主でも荷が重いみたいだぞ?」

「此処まで熱波が届いたという事は、中心地に近いあ奴のところはもっと熱い筈だ」


 ここにいるだけでも肌がピりピリするほど熱いのに、もっと熱い場所にいるなんて……


「せめてこれを持っていれば、勝機は見出せるかもしれないが……」


 ギルマスは袋を取り出した。それが何になるんだろう?


「これは何だ? ギルマス」

「あ奴の部屋に置かれてた魔法具だ。この中には灰竜の頭が入ってる。もしかしたら皮もあるかもしれない」

「灰竜の皮?」

「ああ。灰竜の皮は耐熱効果が期待できる皮だ。流石に耐寒効果は無いが、今は必要あるまい」

「なるほど。加工はしてなくてもその皮だけで炎を耐えれるかもしれないってやつか」


 問題は誰がこれを届けに行くのか。それを決める為に冒険者達をギルマスは探していたらしい。


「おじさんごめん。そろそろ下ろしてほしいかも」

「おお、すまんな嬢ちゃん。あまりにも軽いんで忘れてたわ」


 おじさんは優しく私を地面に下ろした。しかし片足の為バランスを崩し、おじさんの腰にしがみついてしまう。


「……ごめんなさい。出来れば杖とか欲しい。今は座りたくない」

「そうか――誰か! 杖とか持ってないか? 貸してくれ」


 ギルマスがわざわざ私の為に杖を用意してくれた。左脇にその杖を挟み、歩けるかを少しだけ確認する。

 ……うん。何とか歩けるみたい。後は……精霊もまだ私の体から離れていない。これなら――


「よし、俺らも皆が集まっている場所に移動するぞ――って嬢ちゃん!?」


 私はギルマスから魔法具の袋を咄嗟に奪い、詠唱を始めた。


『お願い精霊達……私をあの場所まで連れてって――【フリーグ】――』


 私は精霊達にお願いし、その場から飛び出した。


 ***


『ヨクゾ我ヲ倒シタ。人間ニシテハヤルデハナイカ……』


 首を斬られたのにまだ喋っている赤竜。

 もしかして竜って首を切断しても死なないのか?


『安心シロ……今ハ残ッタ魔力ヲ使ッテ喋ッテイルノダ。モウジキ死ヌ』


 少しだけ安心した。流石に首を斬っても死なない生物なんて、倒し方を考えるのが面倒過ぎる。


「何とか勝てたよ……流石は色竜。強すぎだよ……」


 今回僕は右手に大きな火傷を作ってしまった。

 しかもこの火傷具合から考えて、持っているポーションでは完治できないぐらいの大火傷だ。


『我ニ勝ッタ貴様ニ褒美ダ。我ガ肉体ヲ好キニ使ウガヨイ』


 言われなくてもそうするつもりだ。当初装備のパワーアップに使う予定をしていた灰竜の皮は、赤竜を倒したと同時に炭になった。灰竜だけに……

 それだけ最後は赤竜も温度を上げていた事になる。よかった間に合って……


『アト1ツ、面白イ事ヲ教エテヤロウ――我々色竜ト言ワレテイル者ハ、皆【ゴルドムラーゼ】様ト繋ガッテイル』

「――どういう事?」

『今回ノ戦イハ、全テ【ゴルドムラーゼ】様ニ情報ガ渡ッテイル状態ダ。無論、貴様ノ弱点モナ』


 なるほど。既に親玉である【ゴルドムラーゼ】は、僕が自然現象を斬れない事を掴んでいるという事か。

 となると【ゴルドムラーゼ】も自然現象を操る竜なの? それは面倒だ。


『残念ダ……貴様ヲ殺シ、【ゴルドムラーゼ】様ト共ニ人間ドモヲ根絶ヤシニシタカッタガ、ソレモ叶ワヌカ……

【ゴルドムラーゼ】様……申シ訳……ゴザイマ……』


 残っていた魔力が完全に無くなり、赤竜は息を引き取った。

 少しずつ温度が下がっていた赤竜の体も、今では少しだけ熱いぐらいの温度になっている。


 僕は1度だけため息をつき、急いであの子の元まで戻った。

 一体何故彼女がココに来たのか。というよりあの体でどうやって来たのかを確認する為に……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る