第1話!
具足ががちゃがちゃ鳴る。楯の乙女の祈りが込められた鎧と剣を纏って、『おれ』は真っ暗なお城の中を走っている。
石造りの壁には、同じ刺繍の赤い垂れ幕がかかっている。黒い馬と交差する剣の模様は、憎くて憎くてたまらない『あの男』のもの。
『おれ』の頭の中にあるのは、冷たい殺意と、
広間に出る。ひときわ立派な垂れ幕がかかっている。金と宝石で飾られた玉座がある。
その前に『男』は、背中を向けて立っていた。
『おれ』は立ち止まって息を吸う。
「……我が名は戦士ヴァルド! 盟友テュールの助太刀によりはせ参じた! そなたは闇に呑まれし賢者、魔王ヴォーダンで相違ないか!」
「……いかにも我が名は、隻眼のヴォーダン」
男は、ゆっくりと振り返った。
「歓迎しよう……勇者ヴァルドよ」
――――
★☆★
あたしは、ひんやりとした布団の中にいる。
保健室みたいなリネンのシーツ。お腹にかけられたタオルケット。芳香剤の中に混じる微かな煙草の……嗅ぎ慣れない『よその家』のにおい。
「――――……ああ! ばかやろう! ばかやろう! ばかやろう!」
男の怒鳴り声が聞こえた。
男が「ばかやろう」を繰り返すたびに、「ひゃんっ」と鳴き声がするので、小犬のいたずらでも叱っているのかもしれない。
こめかみの上あたりがズキズキしていた。
『ここはどこ? あたしはだぁれ?』なんてならないまま、ぼんやりと瞼を開いて、おでこに大きな絆創膏がぺたっと貼られているのを確認する。
アルミサッシにはまったレトロなすりガラスの窓がひとつ見えた。
あとには、これぞ事務机。ついでに事務所の部屋と壁と天井です。というような、見覚えが無いのに見覚えがあるような気がしてくる数々が目に入る。
広さはだいたい六畳くらいだと思う。
入口は一つ。ドアのかわりに、厚手のカーテンがかかっていて、声がしているのはそっちのほうからだ。
頭がふわふわしたまま、よろよろとベッドから下りて、カーテンをめくって、ぺたぺた見知らぬ廊下を歩く。
古い雑居ビルみたいだ。そう長くない廊下には、ドアノブが三つ並んでいる。
「だからいつも―――――」
そこから先ほどから響く男の声がしていた。
ノック三回。ためらうように遅れて、内側から開く。
カチャリ。
「あれま」
厚い黒ぶち眼鏡の奥の眼を丸くして出てきたのは、大学生みたいなお姉さんだった。
「あの……あたし」
控えめな化粧に大ぶりのイヤリングをしたお姉さんは、目をぱちくりさせると「起きたのね、良かった」とニッコリした。
「どうぞ~。入って入って。むさくるしいところだけど」
有無をいわさず招き入れられたそこは、先ほどの部屋を二倍グレードアップしたような内装をしている。入口から中が見えないように置いてある
雑多な室内は、同じ衝立を壁代わりに、いくつかのエリアに分かれているようだ。
うちの一つ、応接セットらしき校長室にありそうな黒いソファに、ちんまりとした見慣れた姿がある。
見たところ怪我はなさそうだなと、あたしはぎゅうぎゅうに抱きしめられながら思った。(あの俊敏な足さばきは健康そのものだ)
よしよしよ~し。(※いつもより多めに撫でております)
胸に顔をうずめる頭を抱えながらソファに座ると、お姉さんがお茶をスタンバイ。
「どうぞ~」
「あ、どうも……」
「お菓子も出すからね~。甘いのがいい? しょっぱいの? う~ん、どっちも食べたいから両方出しちゃお!」
お姉さんはホワホワ(概念)している。お姉さんがホワホワ(概念)してるのは素敵だ。
うん。美女が淹れたお茶は美味しい。
あたしは現実逃避した。
「おまえ仕事なめてんのかー! 」
「ひゃーん! ごめんなさぁああああい! 」
女の子の泣き声が響く。
(やっぱりあれ子犬じゃないよ鳴き声じゃなくて泣き声だよ! これ絶対やくざ屋さんの事務所だよ!道端に落ちてたJKを
お姉さんは向かいで力強くコンソメパンチの袋を開けながら、「支部長(しぶちょ~)、お客さまが起きましたよ~」と、ホワホワ言う。
「なんだとっ! 」どたばたガラガラぴしゃん!
(ぎゃぁあああああああぁああ!! ま、まだいろんな準備が出来てないんですけど! ?)
魔法少女☆サーガ!! 陸一 じゅん @rikuiti-june
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