嘆きの調理部

あわやまたな

料理に命を懸けた部長

 俺の名前は数野かずの一二三ひふみ

猿山さるやま高校の一年生だ。

察しの通り眉目秀麗、文武両道の完璧な存在である。


【ここから読み飛ばしてOK】

しかし料理が壊滅的に出来なかった。

例えばカップラーメン。

必ず伸びる。


将来一人暮らしさえ出来ないと悟った俺は入学式直後に早速調理部を探した。


家庭科室の引き戸をガラガラと開ける。

しかし中はガラガラだった。


「あれ誰もいないのか?

叫ぼう!

わああああああああああぎゃああああああああ」


「うるせええええええええええ」

返事が返って来た。


!?


家庭科準備室の奥から美少女が出て来た。

「誰です」

問う。

「部長だ。蟹場かにば莉鈴りずよ」

即答。


「他の部員は?」

「いないわ」

「どうして」

「私が料理して食べたわ!」

「えええええええええええ!?」


「…嘘よ」

「はあ」

「私以外は幽霊部員よ。

掛け持ちだったり飽きて来なくなったりと理由は色々」


「へぇ」


出会いはそんな感じだった。


結局部員は来ることがなく彼女と2人で活動を続けた。


入部して2ヶ月、俺はある事に気がついた。

「レシピを見ればちゃんと作れる」という事だ。

カップラーメンもよく見たら3分と書かれていた。

他の人から見れば「何を今更」なのだろうが俺にとっては大きな進歩だ。

馬鹿にするな殺すぞ。


「レシピを完全再現出来るのは流石ね。しかも電子天秤を使わずに目測。凄いわ!

アレンジの才能は壊滅的みたいだけど」


-そして7月下旬

「8月の全日本高校調理大会に参加するわ」

部長は言った。

全日本高校調理大会とはその名の通り全国の高校生が料理の腕を競う大会だ。


「あなたは渡されたレシピを目測だけで完璧に再現出来る。

つまり最強の私の指示に従えばあなたも最強だという事よ。

最強で最速の私達に敵無しだわ!」


そして大会予選は難なく勝ち上がった。

準々決勝、準決勝も勝ち残る。

指示された料理をアレンジする内容だった為、比較的簡単だったのだ。

【読み飛ばしていいのはここまで】


ここまでのあらすじ:

俺、数野かずの一二三ひふみと調理部部長の蟹場かにば莉鈴りずは全国の高校生が料理の腕を競う全日本高校調理大会に参加する。

順調に勝ち進みいよいよ決勝だ。


「作るメニューは自由、か。

何を作るんです?」

決勝だけは作る料理が自由なのだ。


「相手の帝変ていへん高校はこの大会で10回連続優勝をしている。

食べた料理は全て病みつきになるほど美味しいらしいわ。

こっちにも秘策がある。作る料理はカレーライスよ」



先攻は帝変高校。料理はシチューだった。

料理が審査員の前に並べられた。

「いただきます。うむ、味は普通。でも病みつきになる味だもっとくれくれくれくれくれくれくれくれ」

「私も」

「俺も!」


「何て事だ!審査員みんながおかわりをしまくってる!まるで麻薬に依存してる人みたいだ!」

「噂は本当だったようね。

違法薬物を料理に混ぜる事で病みつきにさせて審査員の腹を満たす。

お腹一杯になった状態で次の高校の料理を食べても美味しいわけがない。

自動的に帝変高校の優勝ってワケ」

「じゃあどうすれば!?」

「秘策があるって言ったでしょう?」

秘策って何なんだろう?


俺は部長の指示に従いつつ料理を作った。

キノコカレーライスだ。

カレーを審査員の前に並べる。

審査員どもはいかにも食べたくなさそうな顔で料理を睨む。

「いただき…ます。

!!!!???これは美味い!満点だ!

優勝は猿山高校!!!!!」

審査員が一斉に叫んだ。


「ハア、ハア、私達の…実力を…舐めないで!」


ワアアアアアアアアアアアアアと会場は拍手喝采。



-大会終了後


「やりましたね!」

「え、ええ…」

部長は少し疲れているのか苦しそうだ。



「ところで部長、優勝出来たのはどういう…」

「イボテン酸よ。あの…カレーに入ってるキノコは…ベニテングタケ…よ」

「イボテン酸は強い旨味成分と毒性を持っている…

そうか!審査員の評価を得て優勝できさえすればその後の審査員の命なんてどうでもいい!大会中に生きてれば問題ない!」

「その…通り…よ!うう」

「…部長?」


部長は床にうずくまった。

「私の…命もここ…までね。優勝できて嬉しかったわ」

「まさか先輩をしたんですか!?」

「その…まさかよ。味見をしないと美味しい料理が作れないもの…」

「毒が毒が回って」

「ありがとう数野くんあなたと半年過ごした日々は楽しかったわ。ずうっと独りだった私に仲間が出来たんだもの。ありがとう。好きよ」

そう言って先輩は息を引き取った。


先輩は料理を命を懸ける本物の料理人だった。

料理に生き料理で死んだのだ。

悲しい。


ハッピーエンド

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