しばもふ異世界
朝霧 陽月
犬好きには天国です
ごく普通の犬好き高校生、
「な、なんだ!?」
剛が眩しさに思わずつぶった目を開けると、そこには視界一面のもふもふが広がっていた。
「えっこれは柴犬!?」
そう、剛は大量の柴犬に取り囲まれていたのだった。
「しょうかん、成功したよ~」
「わーい、本物の人間さんだ~」
しかもその柴犬たちの見た目は普通の柴犬だが、どうやら言葉を喋れるようだった。
「か、可愛い……!!」
剛は大の犬好きのうえに名字が犬飼のせいで勘違いされるが、別に犬を飼っているわけではなかった。 だから沢山の柴犬に囲まれている状況に大歓喜した。その喜びようは犬が喋っている不自然な状況すらどうでもよくなる程だった。
「それじゃあ、あれ言わないと~」
「そうだね、お願いしないとね~」
「えっお願いだって?」
柴犬たちの言葉を聞き流していた剛だったが、お願いという単語にはじめて反応した。
だがしかし当然のように犬が喋っていることには疑問など抱かない。
「そうなの~」
「人間さんにしか頼めないの~」
「こんな愛らしい生物に頼まれたら、なんでもしちゃうぞ!!」
「よかった~」
「これで死ななくて済むね~」
「死ぬ!?」
のんびりとした口調で語られた物騒な単語に剛は
「実はボクたち、みんな病気なんだ~」
「人間さんにナデナデして貰わないと死んじゃう病気なの~」
「そ、そんな……」
可愛い生物が死の
「でもこの世界には人間さんがいなかったの~」
「だから人間さんを呼んだの、助けて欲しいんだ~」
「もちろんだ!! むしろキミたちを見捨てられるわけないだろ……!!」
「よかった~」
「嬉しいね~」
柴犬たちが尻尾を振りながらピョンピョンと剛の周りを飛び跳ねる。そんな光景に剛は感情が高ぶって思わず涙目になっていた。
柴犬が思う存分飛び跳ねた後、剛は沢山いる柴犬たちをゆっくり時間を掛けながらもふもふナデナデしたのだった。
柴犬の毛は柔らかくて温かく、手を動かす度に心地よい感触が返ってきた。沢山いるから大変かと思いきや、
「ありがとう~」
「気持ちよかったよ~」
「こちらこそ、物凄く幸せだったぜ」
剛をもとの世界に返すということで、一部の柴犬は何やらせわしく動きまわっている。 そんな中、数匹の柴犬たちが何やら大きく膨らんだ
「お礼にこれあげるね~」
「帰ったら見てね~」
「おお、ありがとうな」
剛が袋を受けとると、それは大きさに反してずいぶんと軽く感じた。
「準備できたよ~」
「もう送り送り返すよ~」
「バイバイ~」
あっという間に光に包まれて剛は再び目をつぶった。 そして目を開いた時には見慣れた自宅の玄関にいたのだった。
「夢じゃないよな」
その手には確かにさっき柴犬から受け取った布袋がある。
「開けてみるか……」
袋を開けるとそこには大量の毛が詰まっていた。どうみても柴犬の毛だった。袋がまん丸に膨れあがるほどに詰まった毛を目にした剛は思わず吹き出した。
「ははっ、記念にこれを詰めたクッションでも作るかな」
冗談めかしてそういった剛だったが後日、本当にクッションを作り上げて自室に置いていた。
「思えばアレって
そんなことを呟きながら、剛は今日も自作の
しばもふ異世界 朝霧 陽月 @asagiri-tuyu
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