わたしのしょーとけーき

わらび

わたしのしょーとけーき

……ない

えっ……ない、ない、ない!

わたしのしょーとけーきがない!


れいぞうこのなかをいっぱいさがしても、だいじにとっといたけーきがない!


「わ、わたしのっ…しょーとっ…けーき…っ」

とつぜんいなくなったけーき。ようちえんからはしってわたしがけーきをたべるのたのしみにしてたのをしってるおかあさんは、ぼろぼろなくわたしをみてちょっとこまったかおしてた。


「またかってきてあげるから、なかないの」

そういっておかあさん、あたまなでてくれたけど、わたしはかなしい。

ぜったいわたしのけーきをとってったはんにんはみつけなきゃ。


〜〜〜〜〜


「……ふふはははっ!」

声を出して大笑いしそうになるのを、急いで口を塞いで抑える。

幼稚園から帰ってきて「けーきがない!」と泣いていた娘。2時間以上泣き続けた後、部屋にこもって何かをものすごい勢いで書きとめていたもんだから気になって、夜ぐっすり眠る娘の部屋にそっと入ってみたら、このノートを見つけた。

どうやら、娘には知らぬ間に日記を書くという日課ができていたようで、毎日少しずつ幼稚園の思い出だとかを書きとめてあった。

今日は、「けーきをとってったはんにん」の確保への決意を並々ならぬ思いで書いていたようである。ノートの端には涙が落ちたのだろう、少しふやけて紙がパリパリになった部分も見られた。それにしても全部ひらがなではあるけれど、随分小説のような文体で日記を書くのだなぁと我が娘ながら感心する。


「どうする、うちの子小説家になったら?」

私がくくく、と笑いをこらえながら、後ろで気まずそうに立っている夫に日記を見せると、「けーきをとってったはんにん」は財布を掴んでコンビニに走っていった。


明日のおやつはしょーとけーきかな。

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