ポケモン

「なぁ、お前ポケモンって知ってる?」

「うん。まあ、ちらちら見かける程度だけどね」

 女神先輩とガンダムくんが設置されている踊場には、ちょっと引くくらいの人だかりが出来ていた。

 無論、彼らの目的は女神先輩でもガンダムくんでもない。

「ん? 俺はポケモンやってる人って意味で聞いたんだけど、そっちがちらちら見えてるっての、ポケモンの方だったりする?」

 女神先輩はからかうように言う。

「そんなわけないでしょ。やってる人に決まってるじゃん」

「これ全部ポケモンやってる人だよ」

「……マジすか?」

「マジだよ」

 二人はポケモンGO をやる人々に囲まれていた。

 なんでも伝説のポケモンが出現しているとかなんとか。

 それにしても、だとしても、端から見ればちょっと、いや、結構、異様な光景だった。

 見ると、ポケモンGO をやってないらしい人が通りかかるとき、何事か!? といった風情で振り返っている。

「顔嵌めパネルに集まってるんだったら、わからなくもないんだけど」

「いや……それもなかなか異様じゃない?」

「……まったくだ。俺だったら「お! なんか貰えんの!」とかって思いそうだもん」

「メガセン疲れてる?」

「まあ……そうだね」

 二人は慣れない人混みに完全に酔っていた。普段なら「余裕です」と見栄を張るはずのメガセンは言うに及ばず、聞いたガンダムくんもいつものように、自分の気持ちを他の奴から言わせようとする悪い癖をいかんなく発揮していた。

 つまるところ、二人とも、一応仕事中だが。

 素に戻るくらいに弱っていた。

「ポケモンって進化すんでしょ?」

「そうみたいだね」

「俺らも進化できねーかな」

「……銅像とか?」

「まあ、1回目はそんくらいだな。そんで2回目であれになる」

 言ってメガセンが視線で指し示すは、海岸にそびえ立つ自由の女神像である。

「間違いない」

 ガンダムくんはしっかりと頷いた。ここからは見えないが、プロムナードを渡り、芝生を越えた先、ダイバーシティ東京プラザの正面脇にそびえ立つガンダム像を頭のなかにはっきりとイメージしながら。

「ポケモンってさ、やっぱ進化しないと使えねーらしいのよ」

「うんうん」

 そりゃそうだよね、といった様子でガンダムくんは女神先輩の言葉に同意する。

「そう考えるとさ」

「うん」

「顔嵌めパネルってめっちゃ弱くない?」

「それ」

 各々のスマホに目を落とす人の群れの中で、愉快そうに疲れきった笑い声が響く。

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