第5話 ララの不調とロボ

ララに元気がない。


「食欲が無いのか?」

「…きゅう」


熱はないが元気がない。ララを抱き上げると尻尾がそよそよと動いた。いつもならグルグルとぶん回して喜ぶのに。

ザザも心配そうにララを舐める。


医療ギルド…あそこの雛子ギルマスはロボに熱烈アプローチをしていたらしいな…。

ララはロボが遠くに異動させられた原因だし…。直接行きたくないから豊作ギルマスとマルセルに相談するか。



「ララちゃん…本当に元気がない」

マルセルが心配そうにララをのぞき込む。

「大好物の桃の缶詰を残したんだ。獣医に見せるべきか人間の医者か…そこから分からなくて」


「雛子のところに連れて行こう」

「豊作ギルマス?」

「雛子もギルマスだ。つまらんことで診察を疎かにはしない」



「これは…」

ララを診察した雛子ギルマスが頭を抱える。


「まさか悪い病気じゃあ…。もしも治療に大金が必要なら民間の製薬会社に転職して麻酔薬の価格を吊り上げて高額で販売した利益で必ず払う! ララを治してくれ!」


「ちょっとハヤトさん! 気を確かに!」

焦るマルセルのツッコミが雑だ。


「そうじゃない…これは我々には治せない」

「邪魔してすまなかった、獣医のところに行く!」

「いやいや、そうじゃなくて! これはロボが主張していた症状だよ! 同族にしか治せないやつだ!」

ハヤトとザザとマルセルと豊作が固まった。


雛子が説明するには、ワイハ島の任務を終えてエゾ地方のギルドに異動したロボから雛子宛に何度か連絡があったそうだ。


もしもララを養育する中に同族がいないならララは近いうちに体調を崩すだろう。幼いフェンリルは親から頻繁に免疫を含んだ魔力を供給されなければいけない。

人族の赤ちゃんは出生時にママから受け継いだ免疫があるが、フェンリルの場合は生まれてから親から魔力と一緒に受け継ぐ。ララの場合、生まれてすぐにハヤトの祖父とザザに拾われたので免疫を持っていないらしい。


「あのS級ロリコン変態野郎の体から出る魔力をララに…?」

ハヤトとザザの顔が嫌そうに歪む。


「ハヤトさん、気持ちは分かるけど…」

複雑な表情のマルセル。


「あいつ以外のフェンリルは?」

「国内にはいない…」

「外資系に転職か…」

「ハヤトさん! 外国の製薬会社に転職して外国に移住しようとしてる!?」


「落ち着け! 医師としてこんなに弱ったララちゃんを長距離移動させる許可は出せん。諦めてロボを呼べ」

ララを抱いたハヤトとザザが、がっくりと項垂れる。無念そうだ。


「その魔力供給はどのくらいの頻度でやるんだ? ツキイチとか?」

「ロボによると…3時間おきに必要らしい」


3時間おきだと……!


「そもそもララちゃんが子犬から大きくなれないのは、大人フェンリルの魔力を与えていないことが原因らしいぞ。そういったことを説明したかったらしいが、振る舞いが不審者過ぎて出来なかった。反省しているとも言っていた」


「取り急ぎロボを呼び戻すしかないな」

すぐ後ろで小次郎ギルマスの声が聞こえた。


「出来ますか?」

「ララちゃんの健康に関わることだ。最優先で対応する」


腕の中のララが、ハッハ、ハッハと苦しそうで涙が溢れてきた。もう変態は嫌だと言っていられない。


「すみません…ありがとうございます」

ハヤトとザザが泣きながら小次郎に頭を下げる。


「だが1つ問題がある」

「ララのためなら!」


「ロボはイズ地方でめちゃくちゃ嫌われている。理由は分かるな? SNSだ。いや、あれはあの時必要だった。ララちゃんの保護者として当然のことだ。誰も責めていないぞ。

 ただ、あれから2か月…まだまだ世間の目は厳しい。ロボは家も借りられないだろう」


まさか…


「ハヤト君の家は広くて大きいらしいな?」


まさか…


「3時間おきの魔力供給だというし近い方がいいだろう、ハヤトくんの家にロボを住まわせてやってくれ」


最悪だ…。

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