引越しするくらいなら退職しますし、愛犬に近づく駄犬を避ける為なら転職します!
@Da1kichi
第1話 突然の事例と移転
「転勤? 嫌です」
「辞令だから!」
「じゃあ退職します」
「…どうして、そんなに転勤が嫌なの?」
「家が好きだから」
「引っ越し先に社宅を用意するし!」
「いま住んでいる家がいいので」
「家ごと転勤なら?」
「そんなことが出来るの?」
「出来る……」
―― 出来るのか。言ってみるものだな。
リプレイスという魔道具が存在するらしい。
祖父から相続した家は、防音バッチリで日当たり最高、仕事場は最高に使い易い。収納スペースが多くてキッチンが広々。庭の柿と柚子とイチジクは毎年たっぷり実るし、俺のライフワークである立派な家庭菜園もある。
リプレイスは国が管理する魔道具で、個人が所有することはできないが、ちゃんと申請すれば問題なく許可されるらしい。
とんとん拍子で進み、いよいよ今日リプレイスだ。
「ちょうど良いリプレイス先があって良かったですね! 写真で見ましたけど良い環境みたいですし。住宅街ってほど隣近所が近くないけど不便じゃない絶妙なバランスの地域ですよ!」
「そのようですねえ」
不動産屋のリプレイス担当は人懐っこくてお喋りだった。ちなみにリプレイス先の土地は買った。トキオの価格に慣れていたので安くて驚いた。
「向こうも準備が整ったようですね。この魔道具は人間と動物は移動出来ないので、家を追いかけて人と動物は移動してもらうことになります。じゃ、やりますよー!」
……ボボボボボン!
「はーい、大成功でーす! お疲れさまでしたー!」
一瞬で敷地内が空っぽになり、不動産屋は帰っていった。
「さて、俺たちも行くか」
愛犬のララとザザを車に乗せて走り出した。
不動産屋が言っていた通り、新しい土地は悪くなかった。いや、むしろ良い。最高だ。
適度に近所と距離があるところが特に良い。
車があれば全然困らない。
気候も良い。さすがイズ地方、地中海か瀬戸内海かってくらい穏やかだ。
しかも海に近い田舎なので美味しいものが安くて最高だ。…問題は近所付き合いだが、これは最初が肝心だ。意識していつも以上に無愛想に振る舞おう。
車から降りたザザとララが伸びをして振り返る。水入れに新しい水をいれてやるとガブガブ飲んでから庭を駆け回る。車の移動がストレスだったようだ。
細くしなやかな身体を黒く短い毛皮で包んだザザは優美で美しく、小さなララは茶色くてモコモコ。魔犬の子犬は成長が遅いので、まだしばらくは小さなララを愛玩できるだろう。
鍵を開けて家に入り、一通り見て回るが問題なし。リプレイスという魔道具はすごいな。
庭に戻るとザザとララが駆け寄る。可愛い。
「明日はこっちの薬剤師ギルドに初出勤だ。良い子にしろよ」
祖父の愛犬だった魔犬のザザとララは家と一緒に祖父から相続した。2匹とも祖父の家に入り浸っていた俺に懐いていたし、俺たちは問題なく家族になった。
俺は薬剤師の仕事も祖父から引き継いだ。祖父の得意ジャンルは鎮痛剤だったが、俺が得意とするのは麻酔薬だ。
麻酔薬の原料は収穫から6時間で薬効がダメになってしまうため、原料となるケシカインの産地に転勤させられた。ちなみに加工後の使用に時間制限はない。
ザザとララを庭でたっぷりと遊ばせて夕飯、─ 魔犬のザザとララは人間と同じものを食べる─ 夕飯とお風呂の後は寝るだけだ。今日はたっぷり運転して疲れた。
ベッドに入るとザザが寄り添って横になる。
ザザと俺の間に小さなララが身体をねじ込むように横たわる。小さくて可愛い。
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