『並行世界』を垣間見たことがある人は、実はいくらでもいるのではないでしょうか。
多くの人が、その事を認識するきっかけが無かったり、気のせいだと視なかったことにしたりするだけで。
視たいものを視て、信じたいものを信じる。
人がこのような傾向にあることは、皆薄々気付いているでしょう。
こちらの作品に足を踏み入れた時、『知っているけれど知らない世界』に来てしまった様な不安を覚えます。しかし暫く過ごす内に、その世界の風景に慣れたり、そこに居る人達を知ることで、自分もその世界の一員になったように錯覚する。
まさに、この作中の人達のように。
世界の構造が見えだす頃、そこが改めて迷宮のように見えて、『タイトル』を二度見することもあるでしょう。
読者の立場としても、『まさか自分のいる世界も、この世界の一部ではないだろうね?』とそういう気持ちになってしまいます。
作中の情景描写や心理描写は、その時々や場合によって、『写真的』であったり『印象的』であったり、素晴らしく巧みに表現されており、いつの間にかその世界に引き込まれてしまいます。
キャッチコピーにある『なくしたもの』は、行方不明になった人のことではありますが、読み解く内にそれを基点とした広がりがあることに気付いてハッとします。
よく解らない物事って、ちょっと怖いでしょう?
だから人は、恐怖を拭う為に知ろうとするんです。
知らないままでいいですか?
ここにはそんな心に寄り添って『出口』を見つける手伝いをしてくれる人達がいます。
『なくしたもの』なんて無いつもりでいる貴方も、良かったら会いに行ってみませんか?
熊谷ユキは、この世界が怖くてたまらない。
明日の天気も、ドアの防犯レンズも、雨上がりの空と無邪気な歓声をあげる子どもを映す水たまりも、何もかも。
しかしユキは決して心を病んでいるわけではない。
彼女の異様な恐怖には、それだけの理由がある。
昔懐かしい探偵事務所を彷彿とさせる雰囲気のNPO法人『come back home』を舞台にしたほんわかしたストーリーから、シームレスに展開する緊張感や薄気味悪さ、
芝生の庭にぽつんと残されたビニールプール、今では見ることも少なくなった古い型のポスト、人一人入り込む幅もないブロック塀の隙間、といった文章から浮き上がるビジュアルが秀逸です。
強力な磁場のように、これらの世界を調整して不気味なつじつま合わせを行う意思は誰のものなのか?
物語はまだ序盤ですが、続きが楽しみです。
秀逸でございますッ!! 秀逸でございますぞぉぉぉぉぅッ!!(早馬で駆けながら
ねえどうして すごくすごく凄かこと ただ伝えたいだけなのに
ことばが 天保っぽくなっちゃうんだろう……(知 る か
本作は、事件性の見られない行方不明者の捜索を主たる活動とするNPO法人「come back home」の面々の織りなす、オカルティックホラー! 深紅の並行世界伝説である……(もぉー真面目にやろうか?
頼れる(はずの)チーフ、倉部を中心に、軽薄そうでいて実は空気読みまくりの鬼海、常人には見えない「入り口」が見えてしまう、どこか陰をまとったかに見える熊谷ユキ……そして自らの兄を幼い頃に「見失った」、絶対なる記憶能力「カメラ・アイ」を持つ新人、久原龍之介……
この四人が、何気ないような普段の風景に開いた、不可思議な「入り口」から8つの並行世界を探索し、呑み込まれた不明者の救出に向かうというのが大筋なのですが、
何より、描写の細やかさ、心情の掘り下げ方、一流映画のカメラアングルと評してもいいくらいの自然な、しかして非常に叙情的な三人称視点がこう……来るわけですよ、こう、ぬこっとね、ぬこっと……(語★彙★力
文体全体を通しての引き込まれ感に、先の読めなさ/先を読みたさが相まって、拙僧はもう、御成が如くに全・頭皮の毛根が死滅してしまいそうなほど身もだえるのじょのいこ……(毛根が死滅しているわけじゃないし、その語尾は御成じゃなくてえなり
と、とにかく全カクヨム民たち、この才能に刮目しながらとくと読みなさいなんだからねっ!!(凍★土