第26話:決着! そして第三との戦いへ

「ほぉら! お前等! 始まりの覇王のチーム<朔望月>! その強さ! 思い知らせてやろうぜ!!」


 時織の号令に次々とFDしていく朔望月のメンバー達。

 アキもつい癖で彼等の情報を確認すると、時織・染森・鳥杉の三人のランクに驚いた。


『時織 本樹――ランク<黄金の騎士ゴールド>』


『染森 カナデ――ランク<黄金の騎士ゴールド>』


『鳥杉 マジオ――ランク<黄金の騎士ゴールド>』


「うそっ! 時織さん達って<黄金>クラスだったんですか!?」


「あれ? 言ってなかったか?」


 一度も聞いてない。アキは内心で普通は言うだろうと怒りを覚えたが、驚きの感情が強すぎて怒りは消えた。

 この数十万はいるEAW人口で、黄金クラスは間違いなく上位Pだ。

 驚かない方がおかしい。


「まっ、そんな驚く事じゃねぇさ。朔望月には銅・銀クラスもいるが、それ以下のランクもいるが腕は高いぜ。だからランクだけで侮るなよ」


 そう言ってアキの隣に時織の機体が舞い降りた。

 千石社製なのか、所々に和風の感じや千石社特有のパーツが目立つ。

 全体的に翡翠色が強い時織の機体。目立つのは右腕部だ。右腕部はやけに強固にカスタマイズされていた。

 右手持ちの武器も、身の丈以上もある巨大な火縄銃型のライフル――<朧>を持ち、それ以外は腰に小太刀が数本あるぐらい。


「コイツが俺の愛機<繊月>だ。ベース機は――内緒だ」


 そう言って時織は朧を構え、敵EA目掛けて狙撃するかのようにビームを放ち、そのまま違法強化状態の夜鷹の腹部を貫いた。


「えっ!?」 


 それを見てアキは驚いた。一体、どんな出力をしているのかと。 

 あの違法パーツで強化したEAの硬さは知っている。なのに狙撃とはいえ一撃で。


「ちゃんと狙えばこんなもんだぞ? 確かに連中の装甲も強化されているが、初戦は違法強化だ。結局、時間経てば機体への負担が増えて、最後は自滅する」


「……えっとつまり?」


「不安定なんだ、連中のEAは。だから下手に真正面で鍔迫り合いするぐらいなら、強い一撃で沈める方が良い。――ってな訳で、一気に決めるか! 染森! 鳥杉! 前線突破急げよ!」


「はいはい! 全く、もう――じゃあやるよ! <ミラージュ・エグジス>!」


 染森の声にアキがそちらへカメラを切り替えた。

 そこには多種多様なパーツを身に付け、尋常ない運動性能を駆使し、高機動で山斬を翻弄する染森の愛機――<ミラージュ・エグジス>の姿があった。


「さぁて……今の私は?」


 染森は意地が悪い様に笑うと、その表情が変わる。

 氷の様に感情が消えた表情。そう、まるでそれは数日前に春夜が戦った相手、第二の覇王――


「ティアさんの動き!?」


 アキは我が目は疑った。

 まるでフィギュアスケーターの様な美しく、ティアの様に素早く過激な攻撃。

 それをティアの動きそのものだった。

 最後は脚部にブレードを瞬時に取りつけ、アナスタシアの動きを再現する様に山斬を貫いた。


「やっぱり覇王クラスの動きはすっごい……こっちも疲れるし、機体の負担も馬鹿にならないわよ」


 再現するだけでも凄いのだが、染森は満足してないという感じで自身の演技に不満を漏らす。


「染森は役者志望だからな。覇王を演じるのも何とか出来るらしい……まっ、現実はあんな感じで満足いってない様だがな」


「それでもあんな……ティアさんの動きを再現するなんて」


 練度は勿論、ティアには程遠い。だがそれでも形はなっているのが驚愕に価する。

 アキが染森の動きに驚いていると、今度は少し離れた所で大きな爆発や銃器の音が響く。


「なに!?」


「おぉ、今度は鳥杉達が仕事してんな」


 時織が見た方向、その上空に浮かぶ存在にアキも気付いた。


「あれって……ネムレスERエアレイド・ガルーダⅣ・スコーピオン・ガーゴイル・山茶花! 代表的な空戦型のEAばっかり! でも真ん中の中型のEAは何? 鳥型のEA……?」


「あれが朔望月の諜報サークル兼、空戦部隊のメンバー達だ。主に鳥杉達が主力をしてくれている。そして見覚えのない鳥型EAが鳥杉の機体だ」


「ヌフフフフ!! さぁ行きますぞぉ!!」


 鳥杉の号令に次々とミサイルやビーム、機関砲を撃っていくメンバー達。

 その中で鳥杉の通常のEAよりも一回り大きい機体――巨大な翼を持つ鳥型に変形できる可変機『アルバトロス』が空中で可変する。


『馬鹿が! 可変機の弱点は無防備になる可変時だ!』


『一気に撃ち落とせ!!』


 地上から人型に可変するアルバトロスへ一斉に射撃放たれる。

 その射撃に対して他のメンバー達はアルバトロスを援護はせず、そのまま回避する。

 だが別に不仲とかではない。単純にする必要がないからだ。


「賢い拙者は考えました。可変時に撃たれるなら、別に撃たれても良いじゃないかと。――拙者のアルバトロスの防御力! 特と見ろや!!」


 撃たれてもビクともせず、悠々と人型へ可変したアルバトロス。

 背部には巨大な翼を広げ、その翼を大きく羽ばたかせる。

 そして沢山の羽がミッド・シェルターのEAへと降り注がれる。


『チッ! 邪魔な羽だ!』


『所詮は妨害だ! 無視して弾幕を張れ!!!』


「鳥の羽……甘く見てはいけませんぞ?」


 鳥杉はそう言うとメンバー達を引き連れて次のポイントへ向かう。

 それを逃がすかとミッド・シェルターのEAが撃ち続けるが、その時に落ちて来た羽が光った。

――そして大きな爆発が彼等のEAを包み込む。


「フェザーボム。相変わらず良い火力ですぞ」


 羽根型の爆弾を大量に落とした鳥杉は他の仲間の援護へと向かう。

 次々と違法強化されたEAを撃破し、流れは完全にアキ達にあり、レーダーを見てもサークル長以外の朔望月メンバーも続々と撃破していっていた。


「凄い、完全に押してる」


「まぁな、春夜と普段からEAWやってるし、何より好きに自由にやれてるのが強さの秘訣だ。無駄に背負うもんがねぇからな」


 そう言って時織は気さくに笑った。

 アキもその言葉の意味を理解出来た気がした。純粋に楽しいのだろうと。

 EAWをするのは好きだから。スポンサーにスカウトされるとか、プロ目指すとか、余計な力を入れずにただEAWをプレイしている。


 始まりの覇王のチーム。だが彼等はエンジョイ勢だ。最高最強の。


「ってあれ、そう言えばアイツ……荒井の機体の姿が全然見ない気が?」


 ふと、アキは荒井の存在を思い出す。

 朔望月の登場で次々と違法強化EAは撃破され、時間切れなのか強化が切れて倒れる敵EAも出ている。

 なのに荒井の存在が一向に見えないのにアキは思い出し、アキと時織はレーダーで確認するが混戦故に見づらい。


「こりゃ分かりずらいな。――鳥杉! リーダーの野郎がいねぇんだ! 空から何か見えないか!」

 

「ちょいとお待ちを――あぁ、いましたね。何やらフィールド外、リタイアゾーンに逃げているカスタム機が1機。あれがリーダー機でしょうな」


 鳥杉はそう言って二人へ映像を共有して見せた。

 片腕が無くなったカスタムされたEA・夜鷹改。間違いなく荒井だった。


「リタイアゾーン? そうか、この少し旧式フィールドだからリタイアゾーンへの逃亡で黙って抜けられるんだ!」


「って事はあの野郎、黙って逃げる気だな。どうもさっきから連中は時間を気にしてやがるから、何かあると見た。しかも律儀に機体を回収しようとしてるのも怪しい。逃がすのはヤバいと見たぞ」


「そんな事させない!!」


 アキは紅葉のスラスターを全力で入れる。

 まだEODも終わっていない。このまま行けば間に合うと、急いで夜鷹改へと向かって行く。

 時織の繊月も援護する為、狙撃で周囲の敵EAを撃ちながら仲間へも声をかける。


「全員! 嬢ちゃんを援護だ! 敵のリーダーが逃げる!――岩倉いわくらいるか! いたらアキの嬢ちゃんを援護してやってくれ!」


「あいよ了解!」


 時織がそう言った直後、周囲に援護されながら荒井へ近付いていたアキの目の前に三機の敵EAが現れる。

 アキは面倒なと、そう思ったが、その直後に地面からドリルが次々と生えて二機を易々と貫いた。


 残った一機はすぐに下がったが、二機が倒れたと同時に地面から一機のEAが姿を現す。

 頭部と両手に巨大なドリルを持ち、単眼式のセンサーカメラと浅黄色の装甲を持つEA――<ドリエル>が姿を見せる。


「よっ! オレっちは岩倉! 愛機は<ドリエル>! 朔望月の地下番長だ、宜しく!!」


 岩倉はアキへそう紹介すると、片方の腕のドリルを逃げたEAへ向けると、そのドリルが回転後、ビームのドリルを敵目掛けて放った。


『ドリルからビーム砲だと!?』

 

 敵は咄嗟にホイールをシールド代わりにするが直撃後、数秒耐えてそのままビームドリルに貫かれて爆散した。


「ほれ、先急げ!」


「ありがとうございます!!」


 岩倉へ礼を言って紅葉は、そのまま通り過ぎて荒井を追う。

 

『チッ……あぁうざ』


 追われている事に荒井も気付いている。

 だが機体だけでも回収しないといけない事が、その足を引っ張る。

 古いフィールドだから即回収が出来ない。面倒だと思いながらも、そこは間もなくだ。


「絶対に逃がさない!」


 アキは必死に追って行く。

 だが荒井の夜鷹改の方がリタイアゾーンへ、迫ろうとした時だった。


『新たな機体の反応を確認。前方へ注意してください』


「えっ、なに!?」


 紅葉が夜鷹改の背中が見えた時だった。

 EYEからの言葉を受け、リタイアゾーンの方を見てみると、丁度、夜鷹改の前に降りて来る二機の機体がいた。


 一機は剛々しい程に重武装の甲冑と、巨大な一本槍を持った和風の機体。

 もう一機は、他の機体の様にバイクをモデルとした機体だった。


 それを見てアキは嫌な予感を抱き、急いで画面をP視点にすると、そこに写った二人を見て驚いた。


 その二人は鳥杉に見せてもらった、まさにこのパーツ狩りの主要人。

 リーダーの<本多ほんだ ただし>と、副リーダーの<藤原ふじわら 真次しんじ>だったからだ。


「マズイ! こんなタイミングでリーダー格とだなんて!」


 荒井に逃げられる。

 そう思ったアキはどうしようかと思いっていたが、何やら荒井の様子は違った。


『あ、あぁ……リーダー、副リーダー』


『観念しろ……荒井』


『もう終わりだ』


 そんな会話をした直後、和風のEAの槍が、荒井の夜鷹改を貫いた。


「えっ! ちょっとどういう事よ!? アンタ達、パーツ狩りのリーダー達でしょ!」


『……うむぅ』


『……やっぱり誤解されておりますね』


「誤解って何よ!」


 何やら本多達の様子がおかしかった。

 困惑した様子で、アキに対しても怯んでいる。

 そこへアキが更に問い質そうとした時だった。


「決着が着いたって事さ、アキちゃん」


「えっ! 春夜さん!?」


 そこへ春夜の戦護村正もフィールドへ舞い降り、本多達の機体の傍に降りた。


「春夜さん! これって一体――」


『全員動くな! EPだ!――全く、こちらも暇じゃないんだぞ!』


「ごめんってサツキちゃん。でも必要な事の筈だろ。連中の違法パーツは」 


 そこへEPも乱入してくる。

 その事態にもうアキ達もコントローラーから手を放すしかなかった。


「もう! 本当に何なのよ!」


 アキの何とも言えない声だけが、周囲に木霊するのだった。


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