第25話:発動!違法パーツ『アンダーソウル』

『全員で行けぇ! あんな子供に負けんなよ!!』


『だとよ、どうする?』


『ほっとけ、荒井なんて。アイツに従う理由はない。ただの勘違いの馬鹿だ』


 ミッド・シェルターは荒井からの指示を完全無視し、それぞれバイク形態と人型形態に分かれアキ達へ攻撃を開始した。


『人型でも戦い方はあるんだぜ!』


 アキの目の前にいた夜鷹よだかは右腕に装着されたホイールを、紅葉目掛けて振り上げた。

 するとホイールは右腕から離れ、ビームを展開しながら高速回転で紅葉へ迫る。


「甘い!」


 アキは咄嗟にリンドウでビームホイールを撃ち、少し回転が乱れた所を炎を纏った炎刀『加具土命』で弾いた。

 だがアキは気付いた。そのホイールは有線式で、夜鷹の腕に繋がっていた事に。


「有線武装!?」


『ヨーヨーって認識って良いぜ!!』


『援護するぜ!』


 そこに人型形態で装甲の厚い山斬ザンギが現れ、左腕部のホイールを投擲せずにそのまま高速回転させた。

 そして紅葉へ向けるとバルカン砲の様に弾幕が放たれる。


「今度は射撃!? あのタイヤすっごい厄介!」


 見た目は殆ど同じだが、用途が色々とあってアキは混乱しそうになるを必死に抑えた。

 あれは接近戦か、射撃兵装か、そんな事を考えれば混乱する。だから本能に従う事を選ぶ。


「その程度で! 私と紅葉を落とせると思うな!!」


 アキは素早くコントロールレバーを操作する。

 すると紅葉は背部と足下のスラスターを吹かし、地面スレスレを高速で移動してバルカンを避けると、再び有線ビームホイールが迫った。


『タイヤは怖いんだぜ!!』


「でしょうね!!」

 

 アキは同じ様にビームホイールをリンドウで撃ち、怯んだ回転を加具土命で弾いた。

 だが今度は、その隙を突いて薙刀『不知火』を取り出し、それを夜鷹へと投げた。


『なにっ!!』


 夜鷹のPはホイールの操作に意識を削がれ、それにより咄嗟に機体操作が遅れる。

 そのまま不知火は夜鷹を貫き、すぐに紅葉は不知火を遠隔回収すると夜鷹は腹部から完全に破損し、その崩れ落ちた。


『なにっ! くそっ! なら!!』


 夜鷹が撃破されると山斬はバルカンホイールを撃ちながら、右腕でグリップ式のビーム刃を抜いた。

 そしてホバー移動の様に滑らかに動き、射撃と共に紅葉へ迫った。


「嘗めるな! 接近戦なら負ける気なし!!」


 アキは今度は一気にスラスターを噴出させ、一気に山斬へ真っ正面から受けて立った。

 多少の被弾にも怯まずに迫る紅葉に、山斬も射撃は邪魔だとビーム刃一本で向かって行く。

 だが接近戦はアキの距離だ。春夜から背面斬りを学んだ時の様に、確実に向上させた接近戦に山斬のPには太刀打ちできなかった。


『うおっ!!――つえぇな嬢ちゃん達』


 山斬がビーム刃は振った時には紅葉は既に背後にいた。

 そして山斬の上半身と下半身に線が入り、静かに地面へと沈んだ。


「アナタ達も強かった。あんな奴との戦いじゃなかったら、私達にも学べる事が多かったと思う」


『そいつは……すまねぇな……言い訳だが、俺等馬鹿だからよ。居場所もねぇし、金も稼ぎ方も知らねぇんだ……だから間違ってると思っても……荒井なんかに――』


 そう言って山斬のPは『LOST』表示され、モニターから消えた。


「やっぱり何か変……この人達も何かあるんだ。――けど今は!」


 アキはすぐに余計な事を考える事を止めた。

 そしてスラスターを吹かし続け、そのまま真っ正面へ突き進む。

 その先にいたのは部員達と戦うミッド・シェルターのEA――夜鷹・山斬の小隊。


「このまま突き進む!!」


 アキが春夜から背面斬り、そこから学んだのはスラスターの使い方だと思っていた。 

 半端な動きするな。無駄にエネルギーを使い、オーバーヒートを招くなら、何かを為せと。一度吹かせば、敵機を撃破する事を確実にしろと。


「加具土命・スキル発動――炎臨えんりん!!」


 加具土命のESが発動し、その炎が紅葉を包み、機体に積まれた炎属性のパーツを活性化させた。

 そして速度も刀身の焔も更に上がり、一気に間合いへと入る。


『なっ! いつの間にこんな所へ!』


『マジか! バイク形態の速度に付いて来るのか!?』


「うおぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 ミッド・シェルターのP達も気付いたがもう遅かった。

 背後からの人型のEAを斬って、バイク形態の夜鷹を真っ正面から両断し、真っ正面に立つEA2機を横薙ぎで斬り捨てた。

――系4機が、紅葉の前に一瞬にして沈む。


『なんだと……! あんな簡単にやられたのか!』


『なんて奴だ! 火属性に弱い風属性パーツ部を的確に狙いやがった!』 


「あらぁ~アキちゃんばかりに意識を向けるなんて、寂しいわぁ~」


 アキの動きにミッド・シェルター達が驚いていると、いつの間にか背後にはムラサキEA――花鳥風月がいた。


『なっ!』


『うおっ!』


 両機は咄嗟にホイールをシールドの様に構えたが、ムラサキの目を開いており、完全に見切っていた。

 まずホイール外の脚部を斬り、バランスを崩した所をEC目掛けて突き刺して沈める。

 そしてもう一機へ、その勢いよく薙刀を振ってホイールへぶつけると、ホイールはその勢いに負けて破損した。


『ヤバい!』


 相手はすぐに可変して距離を取ろうしたが、破損したホイールによってバランス崩した。


「逃がさないわぁ――覚悟!」


 ムラサキの瞳がカッと開き、倒れたEAを薙刀で両断する。

 そして撃破した事で再びいつもの表情は浮かべ、一斉に仲間へ通信を送った。


「皆ぁ~どうやらタイヤが破損したら可変は無理みたいよぉ~相手は武装に使うけど、容赦なく攻撃してぇ~」


「了解っす!」


「分かりました!」


 ムラサキの連絡によってEAW部の動きが完全に変わった。

 徹底的にタイヤを狙い、バズーカやグレネードで破損させ、中に一気に接近戦に持って行き破損させていった。

 それによって次々と人型形態での戦闘を余儀なくされ、次々と接戦になってきた。


 それを見ていた荒井は流石に表情を歪ませた。


『あぁぁ……!! マジかよ! ちゃんとやれや!! すぅぅ……はぁぁぁ!――おい、増援来いよ』


 荒井は煙草を吸いながらフロアの奥に声を掛けると、扉が開き、ミッド・シェルターのPの増援が現れる。


「あらぁ~お代わりよアキちゃん。まだまだ遊べるわねぇ~」


「えぇ、でも弱点は分かったわ! 何人でも来なさい! やるわよ皆!!」


「「はい!」」


 アキの言葉に部員達の士気も高まっていたが、それを見ていた荒井は心底つまらなそうだった。


『すぅぅ……はぁぁぁ! マジで嘗めてる。おい、お前等……FD後、すぐに使


『お前の言う事聞く気はねぇよ。でもそれしか勝てねぇし、取れねぇか。――おい、やるぞ!!』


『『おう!!』』


 荒井の言葉を無視し、一人のPが号令に新たな入って来たP達も応える様に叫んだ。

 そして、その異変は起こる。機体は同じく夜鷹・山斬だが、一斉に動きを止めたと思いきや胸にある小さなパーツが禍々しく光った。

――瞬間、閃光弾の様に弾け、一気にその光はミッド・シェルターのEA達を包み込む。


「なにっすか!?」


「禍々しい光? もしかして違法パーツ!」


 アキ達も身構え、態勢を整えて別れていた者達もアキを中心に集まった。 

 けれど光がEAを包み込む。それだけで終わらなかった。


『うおぉぉぉぉぉ……! 壊せ……壊せ……戦え!!』


『殲滅だぁ!!』


 突如としてミッド・シェルターのP達の様子が一変する。

 いきなり叫び、何やら威圧、好戦的な言動を発した。

 更に異変はEAにも及んだ。ミッド・シェルターのEAは禍々しい光に包まれながら、腕部や脚部等、一部一部のパーツが変異したのだ。

 荒々しく、歪みを具現化したような姿となり、アキ達の前と現れる。


「何よ、コイツ等!? EAのEMが変形……違う変異してるの?」


「アキちゃん……気を抜いては駄目。何かおかしいわ」


 ムラサキの口調も変わる。その瞳も開き、完全に闘志を出して花鳥風月の操作へと入る。

 そんな時だ。二人の部員が飛び出した。


「先手必勝だ!」


「タイヤを狙えば!!」


 飛び出したのは部員が駆るEA――タイタン系・センテツ系が飛び出し、バズーカ砲を撃ち、刀剣でも飛び掛かった。

 

「待って! 様子見ないと!」


 アキの言葉も虚しく、バズーカ砲は山斬に直撃して爆風を巻き上げた。

 そこにスラスターを吹かして突撃するセンテツは、そこにいるであろう相手へ刀剣を振り下ろした。

――瞬間、山斬に接触した刀剣は折れた。


「噓っ!?」 


「バズーカだって直撃した筈だ! なのになんであんな軽微なダメージだけなんだ!?」


『ウオォォォォォッ!!』

  

 怯んだ部員達を一切意識に入れず、変異し、ノコギリの様な刃を得たビールホイールが彼等のEAを襲う。

 武装や装甲で防御態勢を取ったが、そのままズタズタに裂かれて地面へと沈む。


「コイツ等、なんて力! Eが異常活性してる」


「普通の出力じゃないっす! まるでEODっすよ!」


「それにPの様子も違うわ。まるででもされたかの様。――アキちゃんは自由に! それ以外、腕に自信のない者は後方援護!」


 アキは自由にさせた方が良い。そう判断したムラサキが指示を飛ばす。

 それと同時に一斉に掛かってくるミッド・シェルターへ、アキ達も動き出し、時雨のナックルレオは目の前の山斬へと突っ込んだ。


「喰らえっす! ビームヘアー!」

 

 ナックルレオは頭部にあるビームの鬣を大きく展開し、頭部を振って山斬へ浴びせる。

 そして全身をビームで焼き、怯んだところへ拳を放った。


「ES発動――ショットガンナックル!!」


『ガアァァァァ!!』


 ナックルレオの一撃はタイヤ毎、山斬の左腕部を吹き飛ばす。

 するとまるで自身の痛みの様に山斬のPは叫び、時雨は思わず驚いたが、それでも敵機体の耐久性に驚いた。


「固いっす! タイタン系の装甲も貫いたのに……!」


 前回、EAWスタジアムで取り巻きのタイタンを蜂の巣にした一撃。

 それが相手の片腕を持って行くだけで精一杯だった。


「……<疾風兼光>ES発動――天波遊ぎあまなみおよ


 これ程の相手にムラサキもやや本気を出していた。

 自身の愛機・花鳥風月の持つ、もう一刀の薙刀――<疾風兼光>のスキルを発動し、一振りで強風を呼び、相手を浮かす。

 そして僅かな時間で薙刀を振り終えた頃には、敵EA――違法強化夜鷹は音も無く機体が分かれ、そのまま沈む。


「流石、ムラサキ!」


「ありがとうぉ~でも固いわアキちゃん。下手に出し惜しみは止めた方が良いかもぉ~?」


「そうみたいね」


『喰らえヤァッ!!!』


 ムラサキと話していた所へ、違法強化された山斬が両腕のビームホイールを回転させながら迫って来る。

 それを紅葉は加具土命で受け止めたが、その一撃は先程よりも遥かに重かった。


「いくらなんでも、EOD以外でここまで突然強化なんか出来ない! やっぱり違法パーツ使ってるわね!」


『すぅぅ……はぁぁぁ! あぁ……すぅぅ……はぁぁぁ。別に良いだろ、年下が年上に説教すんなみっともねぇ』

 

 アキの怒りに、荒井の機体――夜鷹改は山斬の背後で佇んでいた。

 本人も紙タバコと電子タバコを両方吸いながら静観し、アキの言葉に鬱陶しそうに、そして反省の色もなくそう言った。

 それがアキの怒りに火が付いた。


「ふざ……けんなぁ!! EAWをお前の好きにさせない!――紅葉! EOD発動!」


『了解――EODスタンバイ。EOD『秋宵紅姫しゅうしょうべにひめ炎紅葉えんもみじ』発動!』


 EYEの認証と共に紅葉を焔が包み込む。

 そして炎の着物を身に纏った様に、周囲へ火の紅葉を降らす。

 

「お前は私が――討つ!」


 EODした紅葉は一振りで違法強化した山斬を両断した。

 その光景にようやく荒井もタバコを吸うのを止める。


『……が負けた? 他の機体よりも善戦もしてねぇ。本物のEODには勝てねぇのか』


 予定が狂ったのか、荒井の額から汗が流れ、露骨に目が泳ぎ出す。

 そしてすぐに後方へ飛ぼうとしたが、それよりも速く紅葉が現れて夜鷹改の右腕部を斬り落とす。


『早っ! ヤバい……!!』


 荒井は機体の損傷無視で後方へ跳んだ。 

 同時に夜鷹改を自動操縦に切り替え、急いで別室へ連絡を取る。


『緊急! すぐ来い! 来ないなら金出さねぇぞ!』


 そう言って数秒後、勢いよくフロアへの扉が開いた。

 そこからミッド・シェルターのP達が続々と現れ、フィールドへ機体をセットし始める。


「うそっ! まだいるの!?」


「さ、流石にやばいです部長!」


「諦めたくないっす! けど、戦力差が……!」


 他の部員から弱音が届き、あの諦めの悪い時雨も苦戦を知らされる。

 どうするべきか。荒井を叩いても後何人いるか分からない中、更に援軍がいれば負ける。

 アキがそう思った時だった。アキ達が入って来た背後の扉が勢いよく開かれる。


「間に合ったみたいだなぁ。こぉ~ら、このじゃじゃ馬達、まだ無事か!」


「時織さん!」


 入って来たのは時織達――<朔望月>だった。

 時織・染森・鳥杉を筆頭に、全員が揃っていて数もミッド・シェルターを上回った。


「遅れてごめんね! こっちも援軍が来るわ来るわ、しつこくてさ」


「しかも平然と違法パーツ使ってきますからな。面倒でしたが、こちらも援軍が着たので速攻で片付けて来ましたぞ」


「よう! お前が荒井だな! 既にEPも向かってる。良い加減に観念しろよ小物が」


『ハァ? 何お前等……いきなり来てなんだよ。説教とか恥ずかしく――』


「関係ねぇよ。そんな言い訳でテメェの罪は消えねぇぞ。――お前等、やるぞ!」


「「「おう!!」」」


 時織達参戦。朔望月の登場により、戦況は一気に変わろうとしていた。


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