#14

「お世話になりました。」

「元気でね。まだ人生これからなんだから。」

出勤最終日にお局おばちゃんの優しさに気付くなんて。

きっと今だから、優しく感じたのかもしれない。


会社を辞めようと思ったのは、色々と区切りをつけたかったから。

別れを切り出してから、こんなにも時が早く進むなんて思ってなかった。

あれから好孝が居ない時に荷物をまとめ、新しい引っ越し先に向かう。

鍵を閉め、ドアを見つめる。


「おかえり!今日は杏子の好きな物作ったで。」

「大好きやで。杏子。」


ドアを開ければ、またそんな好孝の笑顔と優しい声が戻ってくる気がした。

「・・・・ありがとう、好孝。」

言い聞かせるように呟き、カギをポストに入れた。


歩き始めると公園沿いに出た。

「ここで泣いたな・・・・。」

公園では、子供が楽しそうに遊んでいる。

この中にはベンチに座って仲良さげに話している学生カップルもいた。

ああやってただベンチに座っているだけで幸せだったのにな。

そう思いながら大きい通りに出るところだった。


「杏子!」

振り向くと、そこには低くそれでも力強い、優しい声。

「・・・・・豪くん。」

大きいリュックを背負った豪くんが立っていた。

「どうしたの?そんな大きい荷物抱えて。」

「会社辞めてきた。」

「え・・・。」

戸惑う私を豪くんが抱き締めた。

「言っただろう?今度は俺が杏子の自信になるって。」

「豪くん・・・・。」

「別れてすぐでそんな事考えられないでもいい。杏子の傍に居たい。居させて欲しい。」


私はバカだった。

こんなにも近くにずっと私の事だけを見てくれる人が居たのに。

「私暗いし、取り柄もないよ?」

「そんな杏子をまるごと愛してるんだ。

暗くても、取り柄がなくても。愛してるって言われたら許しちゃう杏子の事も。」

「それ、バカにしてない?」

「あ、すまん、つい。」

ふっと笑ってしまった私に豪くんも微笑みかける。


「それで、返事まだなんだけど。」

「・・・私を豪くんの自信にさせてください。」

「大好きだよ。杏子。」


抱き締められた腕の中は香水の香りなんてしない、男臭い香りがした。.



香水のかほり<完>

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香水のかほり 舞季 @iruma0703

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