第4話

 ニコラスは決断してくれました。

 父も決断してくれました。

 ニコラスが歴史に汚名を残す覚悟で、私との愛を貫いてくれた事で、父も汚名を歴史に残す決断をしてくれました。


「ぐぎゃあぁぁぁ!

 何故じゃ!

 何故父を殺す!

 儂は、お前を王にしてやりたかった。

 誰に何と言われようと、どれほど罵られようと、お前を王に……

 グレイスか?

 グレイスに誑かされたのか⁈

 おのれ、売女め!

 ニコラスを誑かしおって!

 殺しておくべきだった!」


「父上、御免!」


 最初に決断してくれたのは、ニコラス様でした。

 愛する私のために、父殺しの汚名を着てくれました。

 そして派閥の全貴族を集め、父が病死したので自分が領袖になると宣言されました。


「おのれ!

 よくも今まで忠臣ズラして余に仕えておったな!

 おのれのような汚い人間は聞いた事がないわ!

 呪われよ!

 エヴァ侯爵家の血を呪ってくれる。

 末代まで呪ってくれるぞ!」


 ニコラス様の決断を受けて、父も決断してくれました。

 残りの人生を汚辱に塗れたモノにしてでも、私を王妃にしようとしてくれました。

 ニコラス様に王位を与えてくれました。

 この国の民を、内乱からも他国の侵攻からも守ってくれました。


 父上には色々な選択肢がありました。

 国王陛下に忠誠を誓う忠勇兼備の悲運の名将として、死して後世に名を残す事。

 父親を殺したニコラス様を非難して討伐軍を起こし、内乱でニコラス様に討たれても、ニコラス様を討ってから、侵攻する隣国軍に討たれても、英雄として史書に名を残し、吟遊詩人に歌い続けられたでしょう。


 父の本当の望みは、国王陛下に忠義を尽くし、自分個人の名誉はもちろん、エヴァ侯爵家の名誉と誇りを守る事でした。

 ですが、私の説得で父親を殺したニコラス様には、もう戻る道はありません。

 国王陛下にどれほど忠誠を誓おうと、隙を見せたら家を潰されてしまうでしょう。

 私は気がついていませんでしたが、国王陛下のクルー侯爵への恨みと憎しみは、取り返しのつかないレベルだったのです。


 今日私はニコラス国王陛下に嫁ぎます。

 公爵家に陞爵されたエヴァ家の令嬢として、正妃となるのです。


 歴史家は私を稀代の悪女と書き残すでしょう。

 ニコラス様との婚約中に平民と情を通じ、ニコラス様を誑かしてニコラス様に父殺しを犯させ、自分の父親も誑かして主殺し王殺しを行わせた。

 市井では、殺されたジェームズ王はもちろん、ニコラス様の父親とも情を通じていたと噂されています。


 これから他にも色々と醜聞を広められるでしょう。

 稀代の悪女と史書に残され、吟遊詩人に歌い継がるでしょう。

 父とセットで罵られる事でしょう。

 それでも構いません。

 ニコラス様と結ばれるのなら、それで私は幸せです。

 

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デビュタントボールで集団婚約破棄 克全 @dokatu

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