第3話

 私は戦闘侍女のエメリーを伴い、いつもの場所に参りました。

 と言うか、本当はニコラス様と二人だけで御会いしたいのです。

 ですが護衛のエメリーを撒く事などできません。

 ですから仕方なく侍女付きの逢瀬です。

 でも、場合によれば、最後の逢瀬になるかもしれません。


「ああ!

 エメリー!

 君は何でエヴァなんだ!」


「ああ!

 ニコラス!

 貴男は何でクルーなの!」


 思わず出てしまう何時もの嘆きです。

 愛する人が、いがみ合っている派閥の領袖の息子だなんて……

 こんな廃墟で隠れて会わなければいけないなんて……

 運命を呪います!


「ニコラス。

 ニコラスの力でメイソン卿を説得できませんか?

 同じ国の貴族が争っても、隣国に利するだけです」


「分かってるんだ。

 何度も説得したんだ。

 だが分かってくれないんだ。

 父上は……自分が王に成る野望に囚われてしまっているのだ」


「そんな!

 陛下も私の父も、簡単に降伏したりしません。

 戦いになります。

 陛下も父も勝つために全力を注ぐでしょう。

 長期戦になれば、隣国が攻めてきます。

 メイソン卿はそんなことも分からないのですか?」


「父は三カ国の王を手玉にとれると思っているんだ。

 俺は何度も無理だと言ったんだ。

 兵力がなければ、結局攻め滅ぼされるだけだと言ったんだ。

 だが、欲に囚われて真面の判断ができないのだ」


「ニコラスは王になりたいの?

 ニコラスが王に成りたいと言うのなら、私はついて行くわ」


 不忠なのは分かっています。

 でも、もしニコラスが王に成りたいと言うのなら、父上を説得します。

 歴史に謀叛人の簒奪者と記されても。

 悪女と記録されても。

 ニコラスを王にしてみせます。


 エメリーは全てを聞いています。

 父上に報告するでしょう。

 ニコラスと私の子が王を継ぐのなら、父上も王を裏切ってくれるでしょう。

 父が裏切れば、国王陛下の抗戦する力はりません。

 もうこれしか方法はありません。

 

 父上は頑固ですが、私を愛してくれています。

 メイソン卿は悪党です。

 メイソン卿が王に成ると言うのなら、絶対に味方する事はありません。

 ですがニコラスが王に成ると言うのなら、私が王妃になると言うのなら、愛する私のために歴史に汚名を残してくれるはずです。


 後は、ニコラスが王家の忠臣としてメイソン卿を殺す事です。

 親殺しの不孝者になってしまいます。

 ですが、ニコラスが当主になれば、父も派閥の者達も、メイソン卿の仕出かした事を水に流して、共に王家の盛り立ててくれるはずです!


「それは、まさか、俺に父親を殺せと言っているのか⁈」


 ニコラスは賢明です。

 私の言った意味が分かったのでしょう。

 ニコラスはどっちを選ぶでしょうか?

 私はニコラスがどちらを選ぼうとついて行くだけです!

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