ゆらゆら、ゆれる。

雨世界

1 ゆらゆら、ゆれる。世界がゆれる。

 ゆらゆら、ゆれる。


 プロローグ


 ゆらゆら、ゆれる。世界がゆれる。


 本編


 揺れているのは世界? ……それとも、私?


 羽根麻衣が、その揺れ、を経験したのは、朝、学校に向かう途中の道の上での出来事だった。

 その揺れは、突然、麻衣を襲った。

 その揺れのせいで、麻衣は突然、一歩も前に歩けなくなって、その場にしゃがみこんで、じっと、自分の中にあるその揺れ、に耐えていた。


 揺れてる?

 揺れているのは、私?

 ……ううん。それとも、揺れているのは、私じゃなくて、世界なのかもしれない。


 麻衣にはもう、そんなこともよくわからない。


 ただわかっているのは、その揺れに襲われてことで、麻衣はもう二度と、みんなのいる学校に、あの輝くように眩しい風景である、きらきらとみんなが輝いている教室の中に、麻衣は戻ることができなくなった、ということだった。


 その証拠に、麻衣の足は、麻衣の体は小さくふるふると震えていた。(冬の捨てられた人間の街の中にいる猫のように。あるいは森の小さな動物たちのように)


「君、大丈夫? 泣いているみたいだけど?」

 そんな(優しい)ことを誰かが麻衣に言ってくれた。

 でも麻衣は、「大丈夫です」と言って、震える足で、震える体で、道の上に立ち上がると、そのまま今歩いて来た道を戻るようにして、自分の家に(そして、自分の部屋に向かって)歩いて言った。


 その人が泣いているみたいだけど? と言ったことで、麻衣は自分が泣いているということに気がついた。(それまで麻衣は、自分が泣いているとはこれっぽっちも思っていはいなかった)


 ……さっきの人、優しかったな。

 

 家までの帰り道で、少し気持ちが落ち着いてきたところで、麻衣はそんなことを思った。でも麻衣は、もうその優しい言葉を麻衣に言ってくれた人の声も、顔も、姿も、なにもかもを、……覚えてはいなかった。(それくらい、麻衣は自分自身のことで、……今日を生きることで、いっぱいいっぱいだった)

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