5章 八津坂と共犯者(完)


 朝川からの報告を受け、八津坂は馴染の処理会社へと連絡をした。

「さて、と──」

 タブレットに保存されている、報告書をひとつ開く。顔写真や氏名、年齢、住所に身長体重、生まれた病院に至るまで事細かに記されている。

「流石相武さんだ。よく調べてる。ふーん、芳野花っていうのは偽名なのか。本名は随分と可憐だなあ……」

 それはある探偵会社に調べさせた芳野の調査書類。本来ならば、芳野を雇い入れる前に手に入るはずだった物だが、彼女の復帰が予想以上に早かったため、届いたのが試験の後になってしまった。

 きれいに整えられたまつ毛の下で、眼球が忙しなく左右に動く。一字一句見逃さず、頭に刻み付けていく。そんな中、経歴の項目で彼の目が止まった。芳野の短い高校生活における、唯一の友人の名前を見つける。

「ああ、噂は本当だったみたいだね。やっと尻尾を捉えたよ」

 やはり芳野を雇い入れたのは正解だった。ペットボトルのコーラを一気に飲み干して、八津坂は笑う。人前で見せるような快活な笑い方ではなく、僅かに唇を上げるだけの怜悧な笑顔だった。 

「八津坂、あの子は危険よ。あの子には枷がない。命じられれば誰だって躊躇いなく殺すでしょう。何をしでかすか……とにかく、近くに置いておかない方がいい。あの子、怖いわ」

 先程電話で聞いた言葉が脳裏に蘇る。そんなもの、百も承知だ。それでも芳野は使い続けると、八津坂は決意していた。

「朝川ちゃんには分からないさ。手放すものかよ。彼女は僕の唯一の同志なんだから」

 

(了)


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晴れた日にレインコートを 堺栄路 @sakai_age

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