第5話


 空がやや薄く橙色に染まっている。

 駅付近には、忙しそうに耳と肩でスマホを挟み電話するサラリーマンや、楽しそうに笑い合う学生達の声が聞こえてくる。



 「ところで、お前ら何やってんの?」



 章吾が残念な物でも見るかの様な目で見つめる先には、やたらと周りを警戒し、それこそ捜査中の刑事のよう両手に小さい木を持つ三人がいた。



 「ばかお前、そんな堂々とメイトに入っていく所を学校のやつらに見られたら一瞬でオタバレするだろ!?」


 「そうだよ~、ちゃんと目立たないようにしないとね~」


 「全く、これだから章吾はクソね・・・」


 「いや、そこまでするか、普通?」


 「俺らにとってオタバレは死活問題なんだよ! 章吾には分からないだろうがな・・・」


 「オタバレは高校生活終了なのだ~」


 「全く、これだから章吾○ね・・・」


 「はい、紗矢さん、さっきからしれっと悪口言わないでもらえますか?」



 などと、ネタにしてはいるが、事実オタクを隠す学生にとってオタバレはなんとしてでも避けたい事である。


 それが空回りしてむしろ目立っている辺りがオタクっぽくてすごく残念だが。



 こうして騒いでいる間に、周りにはこちらを避けて、ついでに危ない人を見る目を向けて早足で去って行く通行人ばかりになっていた。

 その集団の一角から「あれ? 片野君じゃない?」という声が聞こえた。



 「んむ? 今、片野君って声がしたね~」



 芳実の声に、三人が片野君の方を見ると、モデルの様な姿勢と表情で声の主の少女達に手を振っている片野君がいた。



 「いや、変わり身早すぎでしょ!?」


 「さすがは王子様、ってとこね」



 二人の声は片野君には届いておらず、今なおリア充オーラ全開で愛想を振りまいている。


 すると突然、片野君の動きが止まった。



 「んん? 良太君、どうしたの~?」



 急に様子がおかしくなった片野君に、芳実が声をかけるも反応が無かった。



 「おい、大丈夫か?」



 章吾が声をかけ様子をうかがう。

 片野君の顔をみると真っ青に血の気が引き、それでいて大量の汗をかいていた。



 「おま、顔面真っ青だぞ!?」


 「え、ほんとにどうしたの?」



 心配する三人の声は完全に届いていない。

 片野君の視線の先には、こちらを、いや、片野君をじっと見つめる他校の男女グループがいたのだった。

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片野くんは夢を追う むく @069

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