小説というゲーム、その戦略

 RPG的設定、ステータスを持ち込んだ異世界転生――この形式を採用するメリットとしてまず、単純な分かりやすさが挙げられると思います。ゲームに親しんだ世代であれば容易にその世界観を理解し、作品に没入できる。説明に煩わされず、キャラクターやストーリーをたっぷり楽しめる。読み手に余計な負担を強いず、娯楽に徹することのできるジャンルである、と言えることでしょう。

 しかしそれは同時に、「未知の世界を描き出すことで想像力を刺激する」という古くからのファンタジーの楽しみを損なうことでもあります。ゲーム知識を前提とした大胆な省略は、下手をすれば「テンプレ」と揶揄されかねません。いわゆる「チート」の設定が加わればなおのことで、類型的な「異世界」での願望充足に終始した作品が溢れかえっている、と感じる向きもあるかもしれません。

 この作品がそうした領域を抜け、特別なものとなっている要因のひとつに、主人公の能力と世界観とのマッチングの巧みさがあります。「対象の能力を覗き見る」「相手の能力を奪う」「自分の能力を付与する」といったバトルものでの定番の能力を、「コピー&ペースト」と一括する。このスキルが存在するからこそ、ステータスを初めとするゲーム的描写が意味を持ってくる。きわめて自覚的に導入されたに違いない設定であり、それはこの作品の根幹をなすものになっているのです。小説というゲームを有利に進めるべく考え抜かれ、採用された、ひとつの戦略なのだと想像します。

 むろん娯楽的な読み物としての見どころも満載で、活劇あり、頭脳プレーあり、サービスシーンもありと、大盤振る舞いを見せてくれます。頭から終わりまで意識の行き届いたエンターテイメントが、ここにはあるのです。