歩行者専用道路の標識

須戸

都市伝説

「歩行者専用道路の標識あるじゃん。男の人と女の子が手を繋いでいるやつ」

 オカルト好きの友人の言葉。そんなこと急に言われても。

「どんなんだったっけ」

「いや、目の前見ろよ」

 ああ、確かに。

「あれってさ、誘拐をイメージしてるんだって」

「あり得ねえ」

「ほら、よく見てみろ。女の子嫌がっているように見えないか?」

「うーん」

 言われてみれば見えるような、見えないような。

「ちなみに、犯人の名前はな……」

 いつだったかテレビで聞いたことがある。でも、まさかな。


 帰宅。あいつが言ってたこと、なんとなく気になる。とりあえずネットで調べてみるか。

 あの噂、本当にあったんだな。だが、噂は噂だろ。

 ほら、やっぱり。標識が作られた時期って、あの誘拐事件があった年よりも前じゃないか。くだんねえ。

 明日あいつに会ったら言ってやる。


「おはよう」

「お前、昨日の話、ガセだったじゃねえか」

「バレたか」

「知ってたのかよ。じゃあなんで言ったんだよ」

「どんな反応するのかと思って」

「楽しめたか?」

「全然。あまり反応ないし、つまんねえ。話す相手間違えた」

 そうだろうな。まあ、誘拐をイメージしているものではないってことは、良いことだ。


 当たり前だけど昨日と同じ場所にある。歩行者専用道路の標識。交通安全のために設置されているものだから、これからはもっと意識しても良いかもしれない。しばし目に焼き付けておこうか。

「危ないっ」

「は?」

 声がした方を振り返ろうとしたのに、耳元がうるさい。何の音だ。

「え」

 なんでここに。こんなところにいるのはおかしい。

 標識を無視して猛スピードで突っ込んでくる自動車が。

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歩行者専用道路の標識 須戸 @su-do

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