第5話「お父ちゃん」

「ペコ!」


 起き上がるとそこは自室のベッドの上だった。あれ、まさか夢? と周囲を見れば部屋の隅で丸まって寝ているペコと、椅子に座ったお父ちゃんが居た。


「起きたかパム。無茶しやがって。丸一日寝てたぞ」

「あれ、冒険者は?」

「あんな奴ぁ追い出した」

「えぇ!?」


 腕を組んだお父ちゃんは大声をあげた私を睨みつけて来る。丸一日、ということはお父ちゃんすぐ帰って来たんだ。


「あったりめぇだ。浄化不十分の魔石なんて使わせやがって、下手したら店の認可も取り上げられる所だぞ! 勝手なことを!」

「あ、う。ごめんお父ちゃん。でも」


「事情は聞いた。確かに、俺がいつ戻るかわかんねぇなら手を打たなきゃ素体は持たなかったんだろうよ。実際通達がなきゃもう数日は戻らん予定だったしな」


 お父ちゃんは首をふりながら語る。やばい説教だ。怒られる。


「やらなきゃいけねぇ時はある。あるが、パムよ。未熟な技でそれをするのは危険な事だ。モンスター化のことじゃない。時に誰かの命を預かる道具なんだ。家族でもある精霊の依り代だ。半端は駄目だ」


「……うん。でも。あの素体は? どうなったの?」


 自分たちが無事だったと安堵してから。私は、あの芸術品のような素体のことが気になってしまった。何よりあそこまでの品を台無しにしてしまったのが悲しい。


「完全に破壊されてたよ」

「そっか……。あれね、凄い凄い綺麗で見事な品だったんだ。あれだけの技をやれる人も発想も、全てが凄かった。私のせいで、壊れちゃったのかな」


「いいや、それは違う」

「お父ちゃん?」


 何故かお父ちゃんはその手を伸ばし、私の頭の上に置いていた。


「冒険者から聞いた。品も見た。不格好な核だが、よくやったなパム。あれだけの品の命を繋いだのは、間違いなくお前の技だ。流石俺の娘だ」

「お、とうちゃ……ん」


 あれ、なんだろう。おかしいな。優しく撫でるお父ちゃんの手が妙に温かくて。何だか涙が止まらなかった。


「あれは浄化を半端で済ませた冒険者が悪い。それと、お前に浄化の目利きを教えなかった俺も悪かった」

「……お父ちゃん?」


「だから、これからは修行期間だ。みっちりしごいてやる」

「本当!?」

「ああ。守巫屋かみふやの娘が浄化の目利きも出来ないなんて言われちゃ困るからな」


 私は思わずお父ちゃんの手を払いのけて身を乗り出してしまう。お父ちゃんはビックリしていたけど、バランスを崩しそうになった私を支えてくれた。


「継いで良いの!?」

「馬鹿言え、そんな簡単にいくか。みっちり俺が教えるのもそうだが、一度お前は他で。特に水と土の技を持つ師匠の元へ行かんと駄目だ」


 そう言われて考える。いや、考えるまでもない。あの土と水の見事な素体が、どうしたって忘れられない。


「なら私、王都へ行きたい。あの素体をつくった人が、王都に居るんだって」

「そのつもりなら、一年で俺の基礎を学び切れ」

「うん!」


「おう。っと、そうと決まれば飯にしよう。俺もずっと食べてないんだ」

「良し、じゃぁお父ちゃんも手伝って」

「なんだと?」

「だって私が王都行ったら、その間一人でどうすんの。お父ちゃんも修行期間だよ。ペコ、行こう」


 私がベッドから抜け出すと、ペコもきゅい! と鳴きながらついてきた。お父ちゃんは嫌そうな顔しているけど、みっちり鍛えないと。何せ昨日言っておいた洗濯つけ置きもやれてなかったし。


 ふと、後ろのペコを振り返った。繋がっているからわかる。私をかばった傷も問題ないみたい。最初は、水と土でどうなるかと思ったけど。


「これから宜しくねペコ」


 私の小さな呼びかけに、ペコはきゅい! と前脚を上げるのだった。

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守巫屋のパムと、カワウソのペコ 草詩 @sousinagi

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