見えるは青空⑩
「あれが戦術機……」
その影は数十メートル上空より青白い光を下の辺りの各部から青白い光を吹き出しながら地面へ下降しそれは地に降り立った。土煙が立つが、青白い光はそれを貫通してこちらに届く。
「あれはどこの所属かはわからないけど、あれが基本的な戦術機だよ。(………見たところ、旧式みたいだね。中から重量級だ)」
「うーん、戦術機ってなに?」
「正式名称は『複数状況下安定戦闘可能汎用戦闘機』よ。内部に動力機としてE-apacを搭載して、擬似二脚を用いた高機動性と耐久性を両立している個人が持てる切り札ね。あとは都市国家の庇護にある栄えてる街とかにいけばその都市国家所属の戦術機が直接守っているからそこに住む子供たちの憧れにもなったりするわ。確かどこかに専門の学校もあったはずよ(………そうね。旧式の戦術機で中から重量級なら……フィオナ、調べてみて)」
セレンとフィオナが戦術機についての説明を重ねていく。そして、彼女らが小声で話している内容はラピスを除くこの場の全員に共有される。あの戦術機がどこの所属かはそれほどまでに重要な事柄なのだ。
それはそうと……戦術機が子供たちの憧れってのはなんか複雑だけどな。一応たった今目の前で街を破壊したわけだし。
「セレンの言った擬似二脚っていうのは通常時は四脚、格納時や飛行時は二脚状態に移行するまさに擬似的な二脚を持つ機体のことだよ。でも今は逆に擬似二脚じゃないのは居ないんだ。フレームなんかが自重に耐えられないからね。平時の機動は重さを分散させるんだ(………わかった。でも少し時間が掛かるよ。候補が多すぎる)」
擬似二脚を付けた戦術機は前から見たら人型だ。その前にある脚が最も堅牢で耐久性の高い部分となる。自重のかなりの部分がそこに集中するからだ。
足の位置は人間のように腰の真下じゃなくて腰よりも少し前の位置にある。上半身があって、腰の部分に前後に少し大きめの腰部パーツがある。その前部分に前脚があるため前傾姿勢でなら立つことが可能なのだ。そして四脚の時の後ろ足部分。これはメインスラスターと兼用の脚部。移動用に特化させてるので耐久性もあるが、前脚に比べたら弱い。位置的には臀部に当たり、飛行時は真後ろに伸ばしてスラスターとして展開するが、脚部として使う時は真ん中辺りから膝のように折れて先端も脚のように開いて着地する。胴体は各機体で性能に差はあるが、腕部と脚部、頭部メインカメラなどを統括するコンピュータを搭載していて、さらにはそれぞれと接続するための機器が密集していることもあって胴体は総じて装甲が厚い。
腕部は基本肘に当たる部分に火砲などの武装を搭載しているため前腕部がそもそも無いが、一部の機体は手首よりも先の人の手形のマニピュレータを有している。戦術機が搭載する武装は全て電気信号などで動作するため、マニピュレータは武装を保持している前腕部から外れないよう補助する役目しか無いと言っていい。一応、土木工事にも使えるよう五指を有しているそうな。
頭部のメインカメラは周囲のレーダーも兼ねていて、レーダーを機能させるために機体の中で最も高いところに位置できるよう頭部という形で搭載されている。
そうして、各部位の装甲の分厚さやE-apacの出力量などによって大まかに軽量級から重量級まで存在するのである。
「そもそも戦術機の原型は宇宙空間で活動する大型の人型ロボットなんだ。月なんかで施設を作ったり宇宙ステーションの建築などに使われていたそうだよ。機械が人を襲い始めた頃よりも前には開発されて、使用されていたもののAIの暴走の後、人工衛星などが乗っ取られると同時に宇宙空間に存在していた数機は乗っ取られたままらしいね。そこで現在の地上では大型の土木工事機械の開発のノウハウを活かして中型の物を作り出したんだ。それも今は中型戦術機として扱われているけどね」
「ロボットなのに、人型?」
「ああ、ごめんよ。ボクが昨日話したことと矛盾してしまうね。機械とロボットは同じということは昨日話したし、様々な物を生産するためにロボットは使われる。そして物を生産するならば汎用性の高い人型などの複数機能を有するものじゃなくて一つの動作や物事を実行することに特化させた方が効率がいい。でも戦術機、元は土木機械だけど、宇宙空間ではあまり多くの物資を打ち上げることは出来ない。最低限しか打ち上げないんだ。でもその最低限を一つにまとめた物を設置してしまえば汎用性が高いから後々の作業の労力が大きく軽減される。そうして生まれたのが戦術機の原型になるんだ」
「戦術機には当時試作段階だったE-apacが搭載されている事も大きいわね。当時のものは出力のロスは大きくてもそれを搭載したことでミラル粒子の研究も大きく進んだのよ。話を戻すと、その戦術機には人の手のような五指が標準装備として搭載されているわ。でもこれは様々な動作には対応できるけど逆に細かな、精密性を要求される動作には向かないのよ」
「……………そうなの?」
ラピスが自分の手を握って開いて不思議そうに聞く。
「本物の手みたいに機械で出来た手は動かせないのよ。それでもその手の内部には細かな作業に対応したマニピュレータは仕込んであったはずよ。そうよね?」
「うん。戦術機の初期も初期の機体は実はその宇宙空間で使用する機体がそのまま流用されていたからね。現存していればそれぞれの指の先から小型のマニピュレータが展開される。あとは五指ならば素人でもある程度は扱えるから。人材不足と言われていた当時は単純作業ならば専門のマニピュレータを扱える人物なんかを呼ぶ必要が無いからね。だから人の手形のマニピュレータが採用されたんだ」
「へぇー」
戦術機は元々宇宙空間で使用されていた、というのはフィオナの言う通りだ。ここで、戦術機について分かりやすくまとめようと思う。
そもそも戦術機とは「複数状況下安定戦闘可能汎用戦闘機」の略称だ。動力機として
E-apacを搭載。上半身は人型を模しているが、下半身は擬似二脚という特殊な脚部を用いる。飛行時は二脚で後脚はスラスターとして用い、地上での活動時は四脚で、後脚はスラスターから脚へと変化する。
歴史としてはAIの暴走以前より宇宙空間に持ち上げられ、物資の少ない状況下では汎用性の高い土木工事用機械として使用。宇宙ステーションや月面基地などの建設のため数機存在していた。この後、AIの暴走が起きるが当初は宇宙空間に存在していたため影響を受けず。
しかし、AIが宇宙空間の人工衛星をハッキングすると同時にこちらも影響を受け、乗っ取られる。少し後、地上で初めて
機械は人類に対して完全な敵対状態にあったため、発見された土地を支配する国家などは戦車隊など正規軍から野良の武装集団などを派遣する。しかし、不死兵とも称される機械の前では負けざるを得ない。また、人類が設計図のみを残していた無人兵器の中には巨大なものもあり、人類はそれに対しての対抗策が無かった。
具体的には戦車などでちまちま削っている間にこちらがやられるため、最低限それに対抗出来るだけの大きさとそれに見合った武装を搭載した兵器が必要であったためだ。
そこで白羽の矢が立ったのが、宇宙空間で使われていた土木工事用機械の新型だ。組立中であった試作品は大きさと工事用の機材の搭載のためのコネクタによる拡張性共にその場しのぎとしては十分過ぎるほどであったために開発企業より国家は試作品を徴用。
しかし、問題が一つ。どうやって動かすかだ。本来宇宙空間で使用される機械のため地上で移動するなど想定もしていない。宇宙空間では当時最新鋭であった開発直後の
E-apacによるスラスターで移動していた。それでさえ重力の無い宇宙空間で質量的には数十トンはある物体を動かすのがやっとで、地上に降ろしたらピクリとも動かない程度の出力なのだ。そんなものをいったいどうやって重力が存在する地上で動かすというのだ。
「そんな時に使われたのが戦車なんだよ。それなりの耐久性はあるし、当時の戦車は人員が少なくても運用出来るようになっていた。さすがに戦車砲だけは別に人が動かさなければいけないけど、このときに限っては戦車砲は必要無いからね」
「………戦車を使う?」
「そうね、こう言えばいいかしら。戦車を足に変えたのよ」
フィオナとセレンが今言った通りだ。機械一台につき戦車砲を取り外した戦車を四台。それを足として並べたのだ。現在の戦術機が四脚で機能しているのもこれが元だったりする。土木工事用機械の中にあるコックピットと戦車それぞれのエンジンを繋いで、前後に進めて最低限曲がることが出来るようになった。これが史上最初の戦術機となる。
あくまでもその場しのぎなのでこの後すぐの半年後には土木工事用機械の設計図をベースに最初から戦車の足が取り付けられ、余分な戦車砲を武装として搭載したプロトタイプ兼テストタイプの戦術機が誕生。数十機製造され、各地で機械への対抗策として運用されたのだ。
それから数十年かけて戦術機の性能はE-apacの発展と比例するように向上し、さらにはミラルカーボネイトの実用化によって戦術機の黎明期は終わりを告げ、隆盛期へと突入した。
「……とこれがボクの知る限りの戦術機の話さ。いずれラピスも独り立ちする時が来たら目にすることもあるかもね」
「独り立ち?」
「まだまだ先の話さ(セレン、恐らくだけどあれは───)」
ラピスはまだ幼い。でもちゃんと物事を聞き、理解するだけの知識があることがわかった。それに加えて彼女は皆とこれだけ仲良くやれてるじゃないか。ラピスと出会って一週間と少し。それだけでも彼女はフィオナと一緒に風呂へ入ったり、オッサンと街で買い食いしたり、セレンと一緒に服を選んだり、ジョシュアと一緒に筋トレしたり、シャミアと一緒に寝たりしたらしい。これだけ皆と溶け込めてるんだ。これほど初めて会う人間と仲良くできるのは人だけだ。もしも人形だとするならば……人形にはここまで出来ない。
そうさ。彼女は『人間』だ。
それでいい。
さて、あとはフィオナが今言った予想が外れることを祈るのみだ。
恩人たるあんただってそれを願うはずだ。
「なぁ、そうだろ?司令官殿」
俺がそっと呟いたそれは誰にも聞かれることなくほんの僅かな切れ目から見える青空へと消えていった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「こちらブラボー。目標を発見出来ず」
「こちらチャーリー。同じく目標を発見出来ず」
「こちらデルタ。街の壊滅を確認。住民は死亡したか逃げ出したものと思われる」
『こちら本部。現時刻をもって街より撤収する。これ以上は他の都市に気取られる可能性がある。……クソッ、しかしあの個体が現れるとしたらこの地域の可能性が最も高い。この街の可能性が高いのだが』
「了解」
「了解」
「了解」
「……こちらアルファ。目標のものと思われる物質を発見。色は青」
『こちら本部。その物質の詳細を求む』
「はっ。色は青。長さは四十センチほど。形状より頭髪と推測」
『ッ!?……アルファに命令。何としてもその物質を持って帰還せよ。万一の際は何としてもその物質だけは奪取されるな。尚、全部隊に告ぐ。街の生存者を確認した場合は、目撃者が居ないよう、射殺せよ』
「「了解」」
その声を最後に彼らは壊滅させ、崩壊した街を進む。瓦礫を踏み、それが生きていれば男、女、子供、老人関係ない。冷たい銃口を押し付け呻き声にも聞こえる命乞いを無視し、黒く光る引き金を引く。音は消され、気づかれない。声も事切れ聞こえない。
彼らは死神。胸に枯木と烏を抱き、それ以外は持たず慈悲などない。
この日、とある街が近辺から湧いて出たハズバンド率いる機械の群体によって壊滅した。しかし、これがある都市国家の一部隊によるものだと言うことを知るものは少ない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
おまけ
今話に登場した量産型戦術機のイメージですが、
上半身のモデルはACVDのブルー○グノリア、腕部がナイ○ボール、前脚がACfaよりスマ○リーの重量級脚部、最後に後脚のスラスター併用の脚部はマクロスFよりメ○イアの脚部の先端(足として前後に開くアレ)を後ろ向きにY(↓こっちが後ろ)の形をとる鳥の脚のような形状となります。
頭部に関しては量産型とはいえ役割によってカメラ性能やメインレーダーの性能が必要スペックに届くよう付け替える場合もある。しかし、中身を変えるだけで見た目は大きく変わらない場合が多い。
今話での量産型戦術機の頭部のモデルはACVDよりHB-141(死○部隊3番機の頭部)です。
カラーはモッズグリーンとベージュをベースとした迷彩色で、荒野戦仕様となります。
武装は右腕に大口径高出力コイルガン、左腕に重機関砲、肩武装として右肩にコイルガン専用コンデンサー、左肩に中距離補助レーダーを搭載。
全高は10メートル程度。
量産型戦術機・機体名■■■■■■
頭:VH-110
胴:VC-210
腕:VA-310
脚:VL-410
武装右:BC-R-240
武装左:MC-L-542
肩右:武装右と同
肩左:SL-L-9
内部
動力機:E-apac
コンピュータ:不明
メインレーダ:不明
量産型戦術機のため、出力性能やカメラ性能などは一律で平均値よりも上の位置するよう設計されている。世界情勢的な意味合いでもかなり安定した設計がなされていて、現状における傑作機として名高い。そのため内部のフレームなどは入れ替えても大きく中身を変えることなどはせず、操作系も開発当時から変わっていない。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
これにて【荒廃と硝煙。そして青空】の第1章前編が終幕です!
第1章後編が完成次第投稿を再開しますのでお楽しみに!
荒廃と硝煙。そして青空 文月 @RingoKitune
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