怖い話26【必ず殺す】1400字以内

雨間一晴

必ず殺す

(あれ?もう帰ってきたのかな?)


 エレベーターに誰かが乗っていた。二つの窓の間で、ちょうど顔だけが見えなかったが、私の家によく遊びに来ている彼氏だと思った。ちょうど二人とも別々に仕事帰りだろうし、よくあることだった。


 今は彼は実家住まいの半同棲だけど、少し落ち着いたら、同棲するつもりだった。


 そのままエレベーターは、私達だけが住む四階で止まったのが、ボタンの上のランプで分かった。


 四階には部屋が二つあるが、隣は空き部屋なので、四階には私か彼しか止まらない。


 一応、彼氏に確認をとってみよう。私はメールを送った。


『今さ、うちに来てる?』


 すぐに返信が来た。


『なんで分かったの?もう着くよ。そっちがもうすぐ帰るなら、鍵開けとこうか?』


『うん、ありがと』


 さっきのは、やっぱり彼だったんだと思って、私はエレベーターに乗った。エレベーターの中が何だか獣臭くて、上の階の人が犬の散歩にでも行ったのかと思いながら、揺れる地面に身を預けていた。


「ただいまー開けといてくれて、ありがとう。なに食べたい?」


 玄関を開けるとメールが来た。彼からだった。


『ごめん!忘れてた、今日さ、鍵落としちゃって、開けれないんだった。そっちが帰るの玄関の前で待ってるよ』


「……え?」


 彼の鍵には、場所を間違えないように、マンション名と、何棟の何階か分かるように、書かれているストラップが付いていたはず……


 台所の方で何かが崩れ落ちる音、皿が割れる高い音の後に、微かな足音。それは、すぐにドタドタと駆け寄る音になり、近づいてきた。


(やばい!)


 私は急いで玄関を開けると、まだエレベーターはそこに居てくれたので、すぐに乗る事が出来た。


 突き指しそうなほど一階を押して、閉じるボタンを押しまくった。閉まりかけたドアの向こうで、私の家のドアが開き、中から包丁を持った男が出てきた。


 目が合ってしまった。私の彼氏と同じ坊主頭だったが、眉毛が嫌に細く消えかかっており、右目だけは、どこか違う方向を見ながら口を開けて笑顔を作っていた。


 男が急いでボタンを押したが、すでに下降し始めていた、上からエレベーターのドアを蹴る音が響く。


 一階に着き、飛び出すようにエレベーターを出ると、彼氏がちょうど視界に入ってきた。


「あれ?どうしたの?」


「早く!いいから!出て!やばいのが来てる!早く!」


 彼を引きずるように、その場を離れて、隣接している駐車場にある車の後ろに隠れた。目だけを出すように様子を見る。


「どうしたの?」


「静かにして!包丁持った男がいる、待って、来た」


 エレベーターが降りてきて、男が駐車場に出てきた、手には包丁を持ったままだ。


「おい!どこ行ったあ!」


 怖すぎて体が動かせないのに、震えが止まらない。彼も同じようだった。


 男がゆっくりと、こちらに近づいてきていた。


「伏せて!」


 小声で彼に伝えて、私達はバックナンバーに頭を付けるように身を縮めた。


 男は私達の隠れる車の、すぐ横まで来ていた。車の下から見える足元が小刻みに揺れている。


「くそ!逃げやがった!顔見られちまった!今度見つけたら殺す!必ず殺す」


 そう言いながら、私達の隠れている車に乗り込み、私達に気づくことなく闇の中へ消えていった。


 私達は、すぐに警察に連絡して引っ越したが、未だに、あの男は捕まっていない。

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怖い話26【必ず殺す】1400字以内 雨間一晴 @AmemaHitoharu

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