【異様な声】
*19番目の扉へようこそ*
10年ほど前の体験です。
かなり久しぶりに会った友人Mとカラオケに行こうということになりました。
設備は少し古いですが市内で一番安い店に入り、そこで指定されたカラオケルームは左右に10室ほど並んだ通路の一番奥、突き当たりの個室でした。
入室したあと私はトイレに行きたくなりいったん部屋を出ました。
戻るとMの方は鼻歌交じりにドリンクやサイドメニューを選んでいます。
私も選び注文を済ませ、早速カラオケタイムへ。
そしてお喋りも挟みながら交互に歌い小一時間が過ぎた頃、Mの歌が終わり伴奏の音が小さく消えていくその時、突如どこからか異様な"声"が室内に響きました。
ウウウゥー オオー ウゥゥゥ オオオー
え!? と二人同時に顔を見合せ静かにすると、それはどうやら隣室からのようで、年配の男性のかなり低い声だとわかりました。
「発声練習してんのかな? 気合い入ってるね」
Mがちゃかしたように言い、私も一瞬は(そうなのかな?)とは思いましたが、それにしては発声というより唸り声みたいな・・・・とも感じました。
首を傾げているとMが入れた次の曲が始まり、その声は音楽にかき消され聞こえなくなりました。
「ちょっとトイレ」
歌い終わった途端、Mがそう言って出て行き、そしてだんだん音が小さくなり・・・・するとまた、異様なあの"声"が聞こえてきたのです。
(え?)
何で?? と驚き思わず身を
ンゥウウウー オオオオー ウウゥオオー
いや、これは発声練習なんかじゃない、絶対におかしい、心なしかさっきよりおどろおどろしい感じが強まっている、不気味さが増している──私の中に一気に恐怖心が高まりました。
トイレから戻ったMに私が「また聞こえる」と言うと少し動きを止め、それから何か思い付いたように「ちょっと待ってて」と言い、ふいに部屋を出て行きその後すぐに戻ると少しうわずった声で「変だよ、隣には誰もいない」と真顔で言うのです。
全身に寒気が走りました。
その個室は通路の突き当たりで、トイレが斜め右にあります。
つまり部屋の中から見て右側にはカラオケルームは無く隣室というのは左側にしか無いため、そこに誰もいないのであれば"声"は一体どこから聞こえてくるのか──
「何か変・・・・出ようか?」
「そうだね、出よう」
意見が一致し、まだだいぶ時間は残っていましたが私たちは早々に退室することにしました。
部屋を出てチラッと隣室を見ると確かに真っ暗です。
ゾッとし足早に立ち去り店を出ました。
その後、もともと夕食はカラオケのあとに外で食べる予定だった私たちはファミレスに入りました。
ところがそこでMに異変が起きました。
パスタを食べている時、急にフォークを皿に落とし両手で頭を抱えると顔をしかめ「聞こえる聞こえる」と言い始めたのです。
「え、何!?」 と私が驚くとMは「さっきの声、あの男の!」と言って頭から手を離しません。
急な状態に私もどうしていいか戸惑いましたがとりあえず飲み物を勧めて落ち着くのを待ちました。
しばらくしてようやく顔を上げ頭から両手を離したMに「大丈夫?」と聞くと首を振り、「頭の中であの声がする。気持ちが悪い」と言い、顔色も悪くなっています。
少し様子を見ましたがあまり変化がなかったらため帰宅して休んだ方が良いと思い、ファミレスを出てタクシーで自宅に送って行くことにしました。
翌日、具合はどうかと連絡をしてみると幸いだいぶ落ち着いていて体調も回復したようでしたので、(何だったんだろう・・・・)という疑問は残りましたがまずはホッとしました。
それからはしばらく私も忙しくなりMと会う機会も無く月日が過ぎていたのですが、カラオケの日から2ヶ月ほど経った頃、とあるショッピングモールで偶然Mを見掛けました。
ところが、その姿は以前とはかなり様子が変わっていたのです。
顔色が非常に悪く何だか身体全体が一回り小さくなったようで活気が感じらず、一見して健全な状態には見えません。
Mはちょうど下りのエスカレーターに乗るところで、私は購入品のラッピング待ちでしたのですぐには追えず、品を受け取ってから向かったものの見失ってしまいました。
その日は携帯を家に忘れてきていたため帰宅後に連絡をしたところ、やはり元気がなく、「体調が良くなくて──」と沈んだ声でMは言いました。
少し会話をしましたが身体が辛そうなので「無理はしないでね、お大事に」と電話を切ろうとしたその時、ふいにMがボソッと一言「呪いかなぁ」と呟いたのです。
え!? と思い咄嗟に「どういうこと?」と聞き返しましたがすぐに「あ、何でもない」とかわされてしまい意味はわからずじまい。
触れられたくないような雰囲気が電話の向こうから何となく感じ取れたので、それ以上は私も深入りはしませんでした。
ただ一瞬、(もしかしてあのカラオケの時のあの声が何か関係あるのかな? ひょっとして何かが憑いて来た?)と寒気のする想像が脳裏に浮かびはしましたが・・・・。
それから数年後、Mは亡くなりました。
体調不良が続いた末に難病になり治療はしたものの助からず・・・・でした。
その後しばらくして、ちょっとしたきっかけである人からMについて思いがけず知らされた事実がありました。
そしてそれを聞いた時、驚きとともに私の中であのカラオケ店での"声"と「呪いかなぁ」とあの日Mが呟いた意味とが一本の線で繋がった気がしたのです。
Mには意外な裏の顔がありました。
聞けばそれは確かに"人の恨み"を買ってもおかしくないと思えるようなことで、本人が罪の意識なく自ら進んでしていたのか或いは仕方なくしていたのかはわかりませんが、少なくとも体調の悪化を"呪い"と結び付ける心当りがM自身にあったことは事実と思います。
それを思うとあの時の低音で唸るような呻くような不気味で異様な声は、Mに対する憎悪を抱えた生霊の・・・・だったのではないか、と、話を聞いた私は妙に腑に落ちたのを覚えています。
一説には生霊の
ただ、理由はどうあれ人の恨みを買うような行為行動は避けるべき──それだけは今も脳裏に残るあの"声"の記憶とともに実感しています。
真・実話怪談【闇への扉】 真観谷百乱 @mamiyan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。真・実話怪談【闇への扉】の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます