【文フリ東京29】 SWEET SWEET SWEET 【試し読み】【五分間TSF】

春義久志

【文フリ東京29】 SWEET SWEET SWEET 【試し読み】【五分間TSF】

なんてこった。まさか、突如として雷に打たれコブラに噛まれお寺の階段を一緒に転げ落ちるうちに、クラスメイトの百井ももいさんと身体が入れ替わってしまうだなんて。

 幸いにも科学部謹製の不思議なマシンが完成すれば、すぐにもとに戻れるらしい。かがくのちからってすごい。

 安心さえ得られれば人間現金なもので、こんな機会二度とないのだし、お互いの身体でやってみたいことを叶えようということになった。主として百井さんの主張により。

 「ただし、えっちなことだけは無しだかんね」

 百井さんは釘を差してくる。

 「もしやろうとしたら?」

 「全裸に靴下一丁で全校走り回ってあげる」

 その目は本気だった。

 「善処します」

 

 約束の日曜日。待ち合わせ場所に向かうと、百井さんはすでに到着していた。

 「女の子を待たせるわけにはいかないからね」

 「僕は男です」

 訂正しつつ頬と鼻の穴を膨らませるその行動自体が女子じみているということに気付いたときにはもう遅く、鼻息を荒くした百井さんが、僕の手を取って駅ビルのそばまで連れて行く。よく磨かれた窓ガラスに映るのは、一組の男女。

 「こんな可愛い子が、男の子のハズ無いだろ?」

 腰と肩にいやらしく手を回しながら、百井さんが僕の耳元でそう囁く。顔が、ものすごく近い。

 ガラスには、フリフリのワンピースに、肩掛けのポーチを身に着けた女子が顔を真赤にして映っていた。

 「自分で選んだんだ」

 「百井さんに恥かかせたくなかったから」

 姿見とにらめっこをしながら、一番かわいい自分彼女を選んだ。

 「似合ってるよ」

 生まれて初めて容姿を褒められた嬉しさと、意中の人がすぐ側にいる緊張と、顔を真赤にして恥じらっているその人の身体を動かしているのが自分自身だという現実とが合わさり、全身が未だかつてないほど熱くなる。

 「日差しも強いし、そろそろ行こっか」

 ジーンズのポケットからハンカチを出して僕に渡してきた。アイロンが掛けられきっちり折り目の付いたそれを受け取り、今まで知らなかった彼女の一面を知ることができたと内心喜んでしまう自身の単純さが恨めしい。

 僕の右手を引く百井さんに歩いてついていく。僕が三歩かける距離を彼女は二歩で歩いてしまう。そんな歩幅の違いに、今の自分の身体が小柄な女性であることを痛感した。


 「たーんとお食べ。今日は、俺がごちそうするから」

 「僕の財布ですよね」

 「良いじゃない、減るもんじゃないし」

 「百井さんの財布はそりゃ減らんでしょう」

 行き着いたのはスイーツバイキング。百井さんがやりたいこととは、大きな胃袋でもって、大好きなスイーツを思う存分食べることらしい。

 「男子なら、いくらでも食べれるハズ」

 「人の胃袋をブラックホールみたいに」

 「俺の胃袋は小宇宙だ」

 「食べすぎてお腹壊さないでくださいよ」



※試し読みはここまでとなります。

 この続きは、本誌にて。

 よろしくお願いいたします。

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【文フリ東京29】 SWEET SWEET SWEET 【試し読み】【五分間TSF】 春義久志 @kikuhal

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