転向
確か、この娘……。
「酒、呑めないの? よく居酒屋なんかきたよね」
「私、飲み会の雰囲気が好きにゃんです――」
あ、その言い方。
サクラやってた女も言ってたゾォ。
こいつもどうせ、腹の中で男をバカにして嗤っているんだろう。
「自分、ロリコンじゃないんで……」
気なんか、ユルさないんだもんね。
「貴方って他の人と違うのね」
五分後、ミキオはラブホテルで脱がされていた。
「やっぱり、いい筋肉してる。腹筋もきれい。姿勢がよかったから、そう思ってたんだにゃん」
「ハ!?」
「あぁ……肋骨の上にきたえられたお肉が乗ってるの、初めて生で見たにゃん……」
アカリはハァハァしている。
「ねぇ。おねがい……」
うるんだ目で、いやぎらぎらした目でアカリは言った。
「フィギュアの素体のモデルになって!」
「!?」
ミキオは困った。
「何、アンタ。フィギュアの素体って……」
「私、こういうの作ってるの!」
アカリはカバンをアケて、くるくる丸めたOA用紙の写真を見せた。
ファンタジーな恰好をした細マッチョな男が写っていた。
「あと……まってね……これだにゃん!」
画像を見たら、フィギュアの数々。
「すごいんだな……」
圧倒されていると、あっけらかんと言い放つ。
「でしょ! 話のわかる人なんだにゃん! 同士だにゃん」
「いや、同士っていわれても……」
「報酬に、人気シリーズの妖精フィギュア、あげるにゃん」
「んナ! エ、エルフ!? こ、これか? くれるのかっ」
こくこく。アカリはうなずく。
「ということでいいかにゃん?」
ミキオはOK.した。
この娘、いい趣味をしてる、と思った。
彼女はスケッチブックを取り出して、ソファに腰かけた。
「何? もしかして、将来メーカーとかに勤めて食ってく気?」
「食べてくだけなら、兼業でもいい感じ」
「――そうだよね、大変だと思うし」
「でも経営は勉強してるから、人を集めて起業してもいいにゃん」
「へえ、起業家になるのか。すごいな!」
「ハイ、今度はこれ、羽織ってみようか」
ウッスイ布地でできたコスプレ衣装だった。
「アナタは何、持ち歩いて……別にいいけどさ」
「ハイ、足開いてみようか」
ここまできて、何も言うまいと、ミキオは両足を開いた。
「つかれたにゃんか? 飲み物を飲むにゃ」
それがミキオの運のつきだった。
頭の中がぼやーんとして意識をなくし、縛られて床に転がされていた。
「緊縛中年親父の図。こんどの同人ゲーム即売会に間に合わせるにゃん」
「なぁにぃ――!」
「よかったら会場に来てね。衣装は貸し出すから」
「アナタはいつもこんなことを、男に……」
「してるにゃんよ?」
「一歩間違えば、犯罪だろ!」
「うるさいなぁ」
「くそ、ほどけ!」
「あっ、いいひょうじょう!」
パシャリ!
アカリはゲーム機まで持ち出してきた。
「3D画像も売れるにゃん」
パシャ、パシャッ!
「そんなの、どうやって売るの?」
「裏ルート」
「ほどけぇっ!」
「うるさいなぁ」
アカリは足で、ミキオを蹴り転がす。
「こんの女ァ!」
「あっ、いいひょうじょう!」
ミキオは顔をそむけた。
「その頑として拒絶する感じがまたいいにゃん! いじめたいにゃん」
「Sか! アンタ、こういうのは両者の合意の下でないと、犯罪なんだよ?」
「合意はしたにゃん」
「うそつけ!」
「ホントなんだにゃん」
アカリはICレコーダーをとり出し、ちらつかせた。
「くっそぉぉ――」
「あっ、いいひょうじょう」
ミキオはそれから出家をあきらめ、かわりに美術モデルに転向した。人生、何がどうなってこうなるのか、よくわからないという話。
「無計画でも、いいんだもんね……」
ミキオはツルツルに剃髪し、すっかり開き直ったのだった。
了
愛されたいけど、愛しきれない~将来頭髪がゼロでも愛されたいモテナイくんの恋愛事情~ れなれな(水木レナ) @rena-rena
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