第15話 足元の敵

 統一歴176年7月3日 太平洋




 この日の空は快晴、しかし海は少し大きめのうねりを持っていた。多少機体が波に当たっても大丈夫だが大きな波が来てしまった場合着水してしまう恐れがある。そのため移動はある意味難しい。それに少し悪戦苦闘したがもう少しで作戦目標を目視できる距離に入った。


 星空の率いる1個中隊の仕事は敵艦の前方にあえてレーダーに捕まるようの出て囮になる。そしてそれに食いついた敵が艦載機を出し切った時タイミングをみ測りアドリアンの率いた残りの2個中隊とヒョジョン率いる第254空間戦闘機隊が全力攻撃を行う。そして、完全に攻撃手段を封じるこが本作戦の概要になる。今回はこの攻撃手段を封じることが1番の目標である。撃沈させる訳では無いのだ。


「中隊各員に告ぐ、我々は囮だ敵を殺すことが目的ではないし、死地へは向かうが死ぬためではない。最低限味方の作戦遂行を楽にしてやるだけだ、必ず帰還せよ。では作戦開始」


 と、星空は自分が率いている中隊に対して言い放った。


 それと同時にまず水面ギリギリを移動していた全機が上昇する。確実にレーダーに観測される高さまで上げていく。


 上昇が終了して数秒もしないうちに目標上空の早期警戒機から「敵艦から艦載機の発艦を確認」の一方が届いた。その光景は星空達も目視で確認していた。艦首から数機の機体が太陽からの光を反射しながら発艦していた。その時だった。


 中隊後方右の列の機体から爆破音と共に水しぶきが上がった。星空は一瞬何が起こったわからなかった。しかし脳はすぐにさっきの攻撃が下から、つまり水中からの攻撃であると確信した。


「攻撃は下からだ!全機警戒しろ」


「中隊長、上がった奴らこっちに来てない!」


 味方から通信が入った。


 さっき敵艦から発艦した敵がこっちへ向かって来ないのだ。その言葉が意味することそれは、敵は星空達の中隊は囮であると気づいたのだ。しかしいつどこでバレたのか星空にはわからなかった。だが、今はそんなことを考えている場合ではない。今下にいる得体の知れない敵を最優先で倒さなくてはならないのだ。


「この前確認された水中型か...」


 一番最初に頭に浮かんだのが、先日攻撃を受けたジェラルド・R・フォードの飛行甲板で戦闘していた時の味方のガンカメラのに映っていたあの機体を思い出す。水陸両用に対応した半分人型のような機体が。


 そして、次は別方向でまた大きな水しぶきが上がる。


「誰か殺られたか?」


 咄嗟に、中隊全体へ通信する。「こちら全機健在」と各小隊から通信が入った。今のところ殺られた隊員はいないようだった。


 状況は最悪の状況だった。囮がバレた場合星空が敵艦への攻撃を行う予定だったが、今ここで星空達の中隊が攻撃をしに行くと。今、この下にいる得体の知れない敵もアドリアンの部隊を撃滅しに行くはずだ。攻撃用に重武装化したアドリアンたちの機体では次々に落とされるのが目に見えている。


「仕方ない。下からの攻撃に注意しつつ、敵艦への攻撃を行う全機続け!」


 そう言いながら星空は後ろに着いてきた味方に対して、ハンドサインで『音響探知魚雷を投下せよ』と命令を下す。音響探知魚雷とは敵の出す音に反応してホーミングする魚雷のことだ。星空の命令に従い隊員達はバックパック下部にマウントされている6発のリボルバー式魚雷発射機を用意する。そして、全機が上げていた高度を少しづつ下げていき、また水面ギリギリをホバー移動し始めたのを確認して星空は投下用の信号を全機に通達する。それに合わせて全機がいっせいに音響探知魚雷を投下する。


 魚雷はなにかに反応し右へ大きく逸れた、それと同時に右側でいくつかの水柱が上がる。魚雷が命中したのだ。


 そして、今度は魚雷ではない。それよりもっと大きな水しぶきが起こる。


「おい、あれ」


 数十メートル先にいくつかの黒い影があった。その影は急反転し星空たちの方へと近ずいてきた。その直後その影は消えた。


「...っ、来るぞ回避運動!!!」


 星空の命令に従い中隊全機が回避運動を開始する。


 すると水中からいくつもの光の柱が上がってきた。陽電子砲だ。


 そして、この陽電子砲をくらった1機がバランスを崩し着水した。敵は『待ってました』というようにその落ちてきた機体に群がり、持ち前の大きな爪でズタズタに機体を切り裂いていく。その姿は水面で行われているため星空達にもはっきりと見えた。


 それを見た隊員のひとりが、


「クッソ、ヤローぶっ殺してやる!」


 と悪態をつきながら隊列を離れて突撃を始めた。


「おい、待て!隊列を崩すな!」


 そう叫んだ時には既に手遅れで、群れから剥がれた子供も羊を襲う狼のように、また同じように機体をズタズタにしてゆく。


「各機正面にB機雷を投下体制を立て直す。」


 B機雷とは投下後数秒間水中を漂った後に広範囲に凄まじい音と大量の泡を出す、言わば水中版のチャフのようなものだ。


 各機体の腰にマウントされているB型機雷が水中に投下される。


「全機散開!小隊規模での行動後所定位置にて合流」


『『了解』』


「さぁ、ハズレを引くのはどの小隊だ...」


 ここでのハズレとは、追っ手が付くか、付かないかの差だ。結果として星空の機体のソナーに反応は...あった。


 ハズレを引いたのは星空達の小隊だった。


「お前らお客さんのお出ましだぞ」


 敵からの攻撃が始まった。四方からいくつもの魚雷やミサイルある時は陽電子砲が星空達を襲った。


 その間に4機いたはずの星空の小隊もいつからか、星空だけになっていた。いくつかの敵を星空はっきり葬ったがそれでも後に2~3機ほどまだいるようだ。


「まずい、このままじゃやられる...」


 この時、星空の頭の中に彼女の姿が見えた。エマだ。


 あの星空の下で自分に向かい微笑むエマのあの涙に濡れた笑顔だった。


「ここで死んでたまるかよ...」


 それに答えるように機体のモニターに映し出されていたデジタルメーター、ジェネレーターの出力のメーターが、それが今までに見たことないような数字をたたき出していた。同時に機体のジェネレーターが大きな音を立て始めた。

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ふたつの宇宙(せかい) 三富士 三二 @mihuzi1916

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