第14話 アイランドストーム作戦
統一歴176年6月31日
信濃ブリーフィングルーム内
アドリアンの命で第34技術試験隊の各々が集められた。
「皆、急な呼び出しで済まないが、単刀直入に言う...。本当に急な話だが、明日地球に降りるぞ」
それを聞いた各隊員達はそれはそれは喜んだ。なぜなら、ほとんどの隊員は2年ぶりの地球だからだ。星空も例外ではなく、約2年半ぶりだ。
「やったね星空、久しぶりの地球だよ」
鈴も嬉しそうに星空に話しかける。
アドリアンが周りをなだめるように手を動かしたので、皆一斉に静まり返る。静かになったのを確認したアドリアンはこう続けた。
地球協商軍は先日海上で戦闘を行った際に鹵獲した敵機体のパイロットの捕縛に成功した。しかし、パイロットは一切の情報を話そうとはしなかった。この情報を聞いた宇宙軍の官僚達は情報提供に積極的な帝国パイロットである。フレッチャー・バークを地球に下ろすことが可決された。
定められた戦闘宙域に居らず、常に様々な宙域を転々としている部隊である。第34技術試験隊、星空たちの部隊が選ばれフレッチャーの護送を行うこととなった。そして、地球へ降りた星空達はフレッチャーを所定ポイントである日本管轄の横須賀基地に護送した後そのまま地球であの、大型航空戦艦の撃沈作戦「アイランドストーム作戦」と言う大型反攻作戦への参加が要請されている。アドリアンと艦長はすぐに要請を了承した、との事だった。
「質問は......
「護送する艦ふねはどうするんですか」
「本艦が行うことになっている。信濃は大気圏突入可能な艦だからな」
地上での着陸は無理だが、水上への着水なら可能なので大きな港である横須賀を選んだのだ。
「他に質問は...無さそうだな、では解散」
これにて緊急招集は終了し各隊員達は地球へ降りるための準備にかかった。
統一歴176年7月1日
そして、翌日結果だけを言うと地球への降下そして要人であるフレッチャーを日本海上防衛隊横須賀基地へ送り届ける任務は無事完了した。そして信濃艦長であるエリカの計らいもあり、5日後に控える大規模反攻作戦への準備のため艦内の人間ほぼ全てに対して1日の休日が与えられた。
星空にとって休暇と言っても特にこれといってやることがない。強いて言うなら仕事を忘れて自分の好きな本を読んだりそこらを散歩する程度だ。休暇は1人で過ごすのが好きだ、実家に帰ると言う手段もあるが、星空の実家はカナダにあり帰るには相当の時間がかかる。
そんなこんなでいつも休暇は1人で過ごす星空だが、今回はそうではなかった。
統一歴176年7月2日
星空はその休日を使い基地から外出をして横須賀の町を散策していた。1人ではなくとある人を連れて。
「で、なんで着いてきたんだ...」
と、星空は質問する。それを聞いた着いてきた人は、
「え、ダメだった?どうせ『ばかなた』は1人で暇してるだろうと思って私が相手しようと思っただけよ」
着いてきたのは鈴だ、いつもどうり星空に対して毒を吐きながら答える。
「おいおい、いつまでその『ばかなた』言い続けるつもりだよ」
「さぁ、私の気分次第じゃない、(まあどうせ無理だけど...)」
星空は耳がいい方なので何を言ったかはっきりと聞こえたが、さっきの言葉に関して聞き返そうとはしなかった。
「そうかじゃあ、なかなか難しそうだな」
「なっ、諦めるの!?」
彼方の言葉を聞いて急に慌て出す。
「諦めるとは言ってない」
と、言うと鈴は「はぁ〜...」と大きなため息を吐いた。それに続けてこう話した。
「まあいいわ、星空アンタ日本出身よね何かいい観光スポット的なのない?」
「いや、俺は日本生まれのカナダ育ちだぞ。日本なんてほとんどわからん」
「え、名前は日本人の名前じゃん」
「父さんは日本人、母さんはカナダと日本のハーフなんだよ」
星空の名前は確かに日本人の名前のように全て漢字を使った名前だ。だが、星空の祖父はカナダ人で。その娘すなわち、星空の母親に当たる人がカナダ人と日本人のハーフになる。
それを聞いた鈴は。
「なんかその...めんどくさい家系ね」
「失礼なやつだな、お前」
なんだかんだあったが結局星空と、鈴の2人で横須賀の町や、少し遠出して江ノ島などを見て回った。水族館などにも行き、色んな魚を見た。星空は魚を知ることが新しい趣味になる予感がした。それと同時にこんな平和な国が本当は戦争をしているとは到底思えなかった。しかし、今もこの海と空の向こうでは同胞たちが戦闘をしているのかもしれない。そして自分も数時間後には...
そんな考えが星空の頭をよぎった。休日なのに仕事のことを考えてしまっていた。その事実に星空は自分にある種の嫌悪感を覚えた。
帰りの電車、車内は仕事で疲れた者、学校での授業で疲れた者など多分もっと他にも理由はあるだろう。見るからに疲れた顔をした人達で埋め尽くされていた。だが、空が暗さを増すうちに車内はほとんど人の気配がないほどスカスカになっていたが、いつの間にか星空と、鈴だけになっていた。
「そういやさ、星空は...その...、気になる人はいるの...?」
不意に鈴が口を開く。顔も耳も真っ赤に染めながら。
「特には、いないかな。鈴はいるのか?」
と、星空が聞き返すと鈴は『ビクッ』と体を動かしたあと、かすれるような声で。
「...い...いる...、いるよ」
尚も顔を赤く染めている。しかも少し声がいつもより高くなっている。
「どんな人なんだ?」
星空は鈴の気になる人と言うのが気になったので聞いてみた。
「私と同じくらいの背で、周りから可愛い顔だと言われてよく怒ってる人...そんで外ではひねくれてるけど、根っこのとこは優しくて...いいやつ」
聞く限りでは、完全に星空のことを指しているようにしか思えない説明だった。だが、星空は『俺以外にも同じような目にあってる人がいるんだなぁ』と、思うだけだった。あえてそうしていた。
「鈴が気に入ると言うことは、そいつは良い奴なんだな」
それを踏まえた上で、星空は率直な感想を述べた。
「まあ、鈍感なのがしんどいけどね」
急にイライラしたオーラをまとい始めた鈴、それもそうだあれだけ「あなたのことですよ」と言っているセリフを吐いたのに星空が気づくような素振りを一切示さないからだった。
「鈴に好意を寄せて貰える奴だなんてそいつは幸せ者だな」
「あんたそれわざと?それともほんとに気づいてないの?」
と言われたが、星空自身なんのことだかさっぱりなので肩をすくめる。
その行為が完全に鈴の地雷を踏んだらしく、完全にご機嫌ななめな状態になった。このあとは特に何も話さずに横須賀基地の兵舎まで鈴を送ったあと自分の兵舎へと向かった。その途中ハインツ・アインホルンに会った。「今日は何をしたんだ」と聞かれたので、今日は鈴と江ノ島とかに行ったこと、さっきの電車内での会話を話すと、「はぁ〜」と大きなため息を着いて「鈴も大変だな」と言っていた。
戦争にそんなものを持ってくるといつかその身を滅ぼす。そんなことをどこかで聞いたことがある。
統一歴176年7月3日ファイヤーストーム作戦当日 横須賀基地
星空達の機体であるクノイチは宇宙戦をメインに設計されているので地上戦や水中戦では不利なのだ。それ故に別に最近量産が開始された新型機 が支給された。新型機なだけありコックピットはクノイチと同系統の操作系なのでなんの問題もなく操縦できた。だがこの機体は腰部に着いたホバー推進装置がメインの推力なため、これが壊れると撤退しなければならないという弱点もある。作戦までの短い期間であったが何度か試運転をしてみたが、さすがホバー推進の性能は聞いていたものよりも予想以上の性能だった。試運転最終日には星空のクノイチに搭載されていた戦闘用コンピュータ、マザーコンピュータのデータの移植も完了し、チューニングも終了していたので、星空の動きを事前に予測した起動補助をしてくれるようになっていた。
作戦開始まで残り数時間...
同日太平洋
攻撃艦隊の旗艦である大和から全艦隊に対して作戦開始の言葉が発せられた。
「コチラ旗艦大和、我レ、コレヨリ海戦ノ火蓋ヲ開カン」
それと同時に大和は自慢の主砲46サンチ三連装砲を鳴らした。
このセリフが後に「トラトラトラ」や「帝国ノ荒廃コノ一戦ニアリ各員一層奮励努力セヨ」と並ぶ海軍の名言になった。
その大和の咆哮に続いて各国の戦艦達も続けて砲撃を浴びせた。
日本は旗艦大和、武蔵、信濃、紀伊。アメリカからはアイオワ、ミズーリ、ケンタッキー。イギリスからはプリンス・オブ・ウェールズ、クイーン・エリザベス、キング・ジョージ5世。それだけでなくドイツや、イタリア、フランスなどの戦艦達も集まっていた。要は、火力と量で押しつぶすのだ。しかし、敵上空の監視観測を行っていた。旅客機の改造で生まれた哨戒機E-7778Bからは命中弾8、至近弾7、残りは命中なしと打電がった。
そして第二射、第三射と続けざまに撃ち続けるも、決定打にはならなかった。そして10回目の砲撃を行った直後だ。敵艦が砲塔を旋回させ始めたのだ。四連装砲三機十二門が協商海上防衛軍のいる方へと向けられる、そして大きな煙を吐き出すと同時に砲弾を放つ、その音は敵艦の周辺を震わせていた。放たれた砲弾は音よりも早い速度で協商海上防衛軍の日本艦隊へと吸い込まれるようにして直進していた。しかし砲弾は直撃コースを大きくそれ艦隊の頭上を通過するように見えたその時だ、炸裂した。大きな花を咲かせるように炸裂した。砲弾は大量の赤熱化した子爆弾と破片を撒き散らした。破片や爆弾は日本艦隊の戦艦数隻を一気に爆煙包み込んだ。数刻の間日本艦隊の周辺には黒い煙に包まれ姿を確認することは出来なかったが、煙が晴れるとそこには原型を留めていない砲塔や、短くなった艦橋を持つ鉄の塊があった、これが大和だと言っても誰も信じないほどだった。これを見た各国の艦隊は恐怖した。しかし、自分たちのメンツがかかっていることがわかっている以上これで引き下がる訳には行かなかった。そして、敵艦からの第二射が飛んできた。今度はアメリカ艦隊の方角だ。アメリカ艦隊の高速戦艦を持ってしても、これを避けることは出来なかった。アイオワ、ミズーリ、ケンタッキー共に大破へ追い込まれる。そしてついに協商海上防衛軍は攻撃艦隊を撤退させることにした。攻撃された日本艦隊、アメリカ艦隊共に航行可能な艦のみで撤退した。大和もどうにか撤退することが出来た。しかし、護衛に来ていた装甲の薄い駆逐艦や巡洋艦などはほとんどが海底に没した。
戦艦での火力で沈没させるのは不可能とだということがわかった協商海上防衛軍は作戦を第2次フェーズへと移行する。次はBBによる強襲作戦だ、ついに星空達BB部隊の出番というわけだ。
星空達に第2次フェーズへ移行する事が伝わるのにはあまり時間はかからなかった。出撃の準備を済ませておき既にコックピットに入っていた。星空達はすぐさま出撃の最終チェックを行う。
星空の前に並んでいた機体が発艦する。レールカタパルトは発射した時の熱で水蒸気を生み出すので少し周りが煙ったい。打ち出し終わったカタパルトスタンドが戻ってくる。それに自分の機体の足を合わせそして、新型の機体なので各部の確認すべき項目や、計器類を全て確認する。
「全システム正常、各部機体の関節部駆動確認完了、エンジン始動確認、発艦準備完了いつでも行けます」
ガイドルームに発信可能であることを伝えると『発艦どうぞ』と旗が掲げられた。それと同時にスロットルレバーを最大に倒す。それと同時にレールカタパルトが起動し高速で前に押し出される。機体の後部に着いた動力ケーブもソケット部分から切り離される。あとはオートで発信完了だ。
「全計器類、各システム異常なし発艦完了」
『了解、発艦を確認しました。星空さん戦果を期待しています』
「激励感謝する」
そう言い残し星空は先に発艦していた仲間のもとへと向い編隊飛行に参加した。
それに少し遅れてジェイコブやヒョジョン達の第254空間戦闘機隊も出撃した。
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