息を吹き返す

息を吹き返した俺は即座に逃げた。


「「あ、待ちなさい!!」」


「やだ!」


最早これまでの逃亡生活兼魔王討伐生活によって俺の逃げ足は誰よりも早くなっていた。


瞬く間に逃げ切り山の中に小屋を建てた。そして聖剣の擬似的な造り方を記録として残りやすいように布に記した。


それから畑を作り開墾して行った。


三年は経っただろうか。とうとうダークマター製造機とゲテモノ料理製造マシーンが俺の居場所を突き止めた。


「やっと見つけたわ。」


「そうだね、やっと見つけたよ。」


女はおっかねえと改めて思った。人里から百千里は離れたこの場所を見つけるなぞ余程の執念である。まだ魔王を討伐する方が容易かったと思う。


そして俺は再び逃げようと思い足を踏み出そうとした。それより先に口に何か突っ込まれた。


「どう?料理は出来るようになったでしょう。」


セロリのピクルスだ。


「塩が濃い。」


「あのねえ。それくらいいいでしょうが!!」


「ほらほら私のも!」


今度は勇者から口に突っ込まれた。


「どう?宿屋のおばさんの言う通りのことが出来るようになったと思うんだけど。」


「結婚する。」


死者の国の宿屋の店主の作ったものより美味しかった。口の中で柔らかく解かれる握り飯が塩を薄めに入れられていて優しい味がした。


「ちょっと待ちなさいよ!なんで私は駄目なのよ!」


俺は家に入り自家製のセロリのピクルスとチーズを差し出す。


「何食べろって。」


聖女は無言で食べる。そして涙を流す。


「ううああ、なんでアンタがお母さんの味を出せているよう!」


「クスクス。」


勇者は笑いが思わず溢れていた。


「笑うなあ〜!」


勇者を叩く聖女。


「まあまあ。彼女とも結婚してあげようよ。」


勇者は促す。


「名前。」


「おや、私としたことが名前を言うのを忘れていたね。それじゃあ私の名前はアレンさ。君の名前も教えて欲しいな。」


「ラセイ。」


そして俺は泣きじゃくる幼馴染に顔を向ける。そして二つの花を手向けた。


「ラベンダーとワスレナグサの花言葉。」


「私を忘れないで、私はここに居る。」


「そう、パープルの名前の意味。」


そして二人にそっとキスした。


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練磨しろ、たった一太刀しか振れぬ聖剣の贋作を スライム道 @pemupemus

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