第2話 あれ?脳内データと違う?
ついに、その女社長との打ち合わせの日がやってきた。
正直言って行きたくない。
でも。
送られてきたメールを見た限りでは、丁寧な文章だった。
……僕も、過剰反応しすぎかな。
もう少し、安心して良いのかもしれない。
身だしなみを、鏡で確認した後。
僕は、ドアを開けた。
春先だからかな、少し肌寒い。
薄手のマフラーか何か、巻いてくればよかった。
とりあえず、人と出くわさないような道を通って、愛車に乗った。
そして待ち合わせ場所の喫茶店へと向かう。
本当に、機械は助かる。
バグでも発生しない限り、緻密に動いてくれる、期待通りに。
相反して人は、期待通りには動いてはくれない。
まあ、だからこそ、期待できないからこその曖昧さが、人の良いところでもあるのかな。
そうこう考えているうちに、喫茶店にたどり着いた。
そして駐車場に車を停めて。
僕は喫茶店の扉を開いた。
カランコロン、というドアベルの音色と共に、店員がやってきた。
「ようこそ、空いているお好きな席に」
決まりきった言葉と笑みで、案内された。
えーと。
確かメールでは、ピンク色のコサージュを着けている、と書いてあったんだが。
そして、客全体を見渡す。
……え?
あれ?
もしかして、あの人か?
熱心に本を読んでいる、薄手のベージュのカーディガンに、花柄のスカート。
ショートカットの黒髪に、つぶらな瞳。
なんだか、とても、可愛らしくて。
思わず、立ち尽くしてしまった。
その女性は僕の視線に気がついたようで、本をテーブルの上に置いて、こちらに視線を向けた。
「貴方が、柏崎さんですか?」
暫くの間、僕は無言のままでいたが、ハッと我に返った。
「は、はい!僕が柏崎翔です。貴女が先日メールを送ってくださった、増井……洋子さん、ですね?」
「ええ、そうです。業務提携の件に関して、メールを送らせていただきました。私は古本を販売していますが、なかなか良いデザインのサイトを作ることが出来なくて……」
「なるほど、メールをサッと拝読しましたが。その辺りでお困りなのですね?」
「は、はい」
「任せてください、できる限りの事は致します。古本は老若男女が読むものだと僕は思っています、ですから世代を問わず、且つ顧客がお目当の本を見つけ易いようなデザインを、考案してみましょう」
「ありがとうございます……!」
瞳を輝かせながら、その女性……洋子さんは、僕を見つめた。
思わず、釘付けになる。
「あ、何かおかしな事を申し上げましたでしょうか……?」
洋子さんは、キョトンとした。
僕は慌ててかぶりを振って、誤魔化した。
「いや、その……コーヒーでも頼みたいな、と」
「あ、そうですね!私も丁度、何か飲みたいと思っていたところです」
「じゃあ、翡翠の雫というコーヒーにでもしましょうか。この店一押しのコーヒーです」
「まあ、素敵な名前ですね……!私もそれにします!」
洋子さんの笑顔が、とても素敵だ。
それは脳内に留めておいて、僕はチャイムを鳴らた。
そしてやってきた店員に、注文を取ってもらった。
誰かを守るために なみ @deoxyribose73
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