誰かを守るために

なみ

第1話 仕事ってめんどくさいな

 カタカタカタ………

 PCのキーボードを叩く音が、部屋の静寂さに彩りをもたらす。

  

 僕は基本的に外出はあまりしない。

 出かけるとしたら、まあ仕事関連か、或いは日常に必要な用事のみだ。

 だからと言っても、別に部屋に居るのが楽しいわけでもなく、外に出て他者の会話を耳にするのが嫌なだけ。

 この部屋では心がとても落ち着くし、気楽に過ごせる。

 PCで仕事をこなしつつ、息抜きに掲示板でたわいも無い会話をしたり。

 あとはコーヒーをいれたり、パスタを茹でたり。

 決まり切った動作を、日々こなしていく。

 そんな毎日が、続くと思っていた。


 そんなある日のこと。

 仕事の都合上、外出する予定ができた。

 しかも相手は女性の社長。

 ……はあ。

 きっと。

 まあ、憶測だけれども。

 言葉を弾丸のように放つ、バリバリのキャリアウーマンなんじゃないのか?

  

 ああ、だから女性は苦手だ。

 何でもかんでも感情論で物を言うから。

  

 その点、機械はとても有り難い。

 ちゃんとこちらの意図を汲み取ってくれるし、操作方法さえ間違えなければ、きちんと応えてくれる。

 それに比べて、ヒトを含む動物は、予期せぬ行動をとる。

 こちらのことなど、お構いなしに。

 僕はPCでの作業の合間に、掲示板で知り合った知人にメールで相談した。

『トモ、困ったことになった。今度、女性の社長と仕事の打ち合わせをする予定ができたんだ』

 トモはその知人のハンドルネーム。

 とりあえずメールは簡潔に書いた、トモはとても気さくな人間だからだ。

 すると、向こうも時間が空いていたのだろうか、すぐに返信がきた。

『ミライ、大丈夫か?お前、女性が苦手じゃなかったのか?』

 ミライは僕のハンドルネーム。

『ああ、物凄く苦手だよ』

  

『その案件、断れないのか?』

  『いや、無理なんだ。やっぱり仕事関係のことは無下にできない』

  『それじゃあ仕方がないか』

  『だよな。すまない、忙しい時に連絡して』

  『いや、俺も休憩中だったから大丈夫。それよりミライの体調が心配だよ』

  『心配してくれて、ありがとう』

  『そりゃあ、誰だって心配するさ』

  まあ僕には両親と親戚がいない、ということは、トモも知っているから。

  だから余計に、心配してくれるんだろうな。

  

『だからさ。まあ、断れないのなら。お守りがわりに、何か無いのか?』

  『お守り?』

  ……あ。

  『それなら生前に、母が作ってくれたブレスレットがあるよ。数珠みたいなものが』

  『おお!なんかそれ、効果ありそう!それ着けて行ったらどうだ?』

  怪しまれないか?と思いつつ、

  『ありがとう、トモ。そうしてみるよ』

  トモの時間を割きたくないので、受諾することにした。

  

 そうして、メールでの会話を終えて。

 僕は数珠みたいな物を腕に着けてみる。

  「これで上手く事が運べばいいんだけどな……」

 僕はひとつ、ため息をついた。

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