第28話 網

新しい市街地に入った俺はリュックをハーメルン・ゾンビから回収した。

ひとまず食糧の入ったリュックを隠して市内を探索する。

早めに大量の食糧と安全な場所を見つけなければならない。

このゾンビスーツはしばらく大丈夫だ。

遊水池で決闘後、新しいゾンビスーツに着替えたばかりだから。

この市街地も多数のゾンビ様御一行が歩いていた。

みなさん朝から晩までゾンビ御苦労様です。

俺なんかフェイクのゾンビスーツでゾンビを装っているだけだ。

ゾンビの皮をかぶって真面目なゾンビの皆さんをダマしている。

ゾンビの皆さんが休まず歩いている深夜に俺は寝たりしている。

このゾンビ世界が生きづらいことを言い訳に自分を偽っている。


中心部の大きな交差点で一体の男ゾンビが近づいてきた。

そのゾンビは小柄な中年男性タイプでグイグイとこちらに歩いてくる。

もしかして俺の人間臭が漏れているのか?

いやスーツは新品だしそれはありえない。

もし穴でも開いていれば昨夜カンカンしてハーメルン出来なかったはず。

直線的に近づいてくる中年ゾンビは歩道の段差をヒョイと上がってきた。

俺は万が一の場合に備えて歩道の上を歩くようにしている。

もしもゾンビが俺の臭いを嗅ぎつけた場合でも段差を上がれないように。

少しでも時間が稼げれば逃げることもできるからだ。

目の前の小柄な中年ゾンビは歩道の段差を上がって俺の目前まで来た。

なぜだ。

ゾンビは階段の一段が上がれないのだから、ありえない。

すると中年ゾンビは手に持っていた網をバサッと投げてきた。

俺はもがいたが足が網にもつれて倒れてしまった。

立ち上がろうとしても網がからんでうまく動けない。

中年男ゾンビは自分自身のアゴの下に手を入れて皮をめくった。

頭部の皮をパーカーのフードのように後ろにめくると中身が見えた。

美しい顔と長い黒髪がファサっと見えて声がした。


「おい、そこの皮男かわおとこ。」


オ、オ、オ、オンナー?!!!中年男ゾンビかと思って警戒していたら中身は女!たしかに俺はよしおで男でゾンビ皮を着ているから皮男かわおとこで間違いないが短縮しすぎだし貴女だって皮女かわおんなではあるまいか?そんなタイトにゾンビスーツを着こなすなんて予想外だからパーカーのように頭の皮を後ろに開けれるということは頭蓋骨も抜いているのだろう凄い技術だから、女がスーツァー出来るなんて聞いてないから強烈な焼きナッツ臭に耐えられる才能があれば可能なのか、いや、そもそも男より女の方がスーツァーとして有利かもしれない、男はゾンビスーツを作るにしても大男ゾンビを選んで捕獲しなければサイズ的に無理だけれど小柄な女スーツァーであれば単に男ゾンビを捕獲すればゾンビスーツは作れるから作り放題だから重い荷物を運ぶ時もハーメルン方式なら男女のパワー差は関係無いから皮女がこのゾンビ世界で有利なのは不公平だけれど、皮良いは正義。


皮女かわおんなが命を取る気ならすでに俺はナイフでブッスリやられている。

あえて俺を生きたまま網で捕獲した意図は何だ?

女スーツァーなら俺の食糧を奪わなくてもいくらでも探し出せるだろう。

スーツァーの特技はゾンビがウヨウヨしている場所の食糧も探せることだ。

ビル内をひと部屋づつ開けて調べるのにもゾンビを恐れる必要がない。

まあ人間が室内に隠れていた場合に勘違いされて戦闘になる可能性はあるが。

そんな時はダブルピースで人間アピだが俺は失敗してるのでオススメしない。

俺が無言で考えていると、しびれを切らせた女が再び口を開いた。


「おい、そこの皮男かわおとこ子種こだねをよこせ。」


なんだ。


やぶからぼうに。




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ゾンビスーツ・よしお おてて @hand

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