第49話

 増美と金太がリビングに行くと、父親と母親が歌番組を観ているところだった。

 ふたりが姿を見せると、

「どうしたの? ふたり揃って」

 母親は珍しい光景に愕いたようにいった。その声に父親も咥えタバコのまま振り返った。

「あのさァ、きょう金太がお爺ちゃんにもらって来たこれなんだけどさァ」

 増美は持っていたドリームキャッチャーをふたりの前に差し出した。

「なんだ、このクモの巣みたいなの」

 父親はタバコを揉み消したあと、手にとってまじまじと眺める。

「お父さん知らないの? これは……」

 金太はアイコに教えてもらったとおりのことを父親に説明した。

「ふうん」

「これがどうかしたの?」

「金太がこれを私にくれるっていうんだけど、私だけ倖せになっても意味ないし。だったらみんなに倖せが来るように、あの掛時計の横にぶら下げたらどうかなと思ったの」

 増美はちょっと笑顔になりながらいった。

「そうね。あんたも金太も受験が近づいてるもんね。ねえ、お父さんそんなに縁起がいい飾り物だったらどう?」

 母親はすでに願いが叶ったような顔を見せている。

「それは別に構わんよ。金太もそれでいいのか?」

「いい」

 金太はようやく増美の考えていたことを理解できた。普段から口数の少ない姉はあまり多くを語らない。なにか考えてるということはわかっていたが、まさかこんな思索あるとは想像もしなかった。

 父親が物入れから釘と金槌を持って来た。テレビからは女性グループが流行の歌を熱唱している。それも部屋中に響く金槌の音に掻き消されてしまった。

「これでいいか?」

「お父さんちょっとゆがんでるんじゃない」

 母親にいわれてふたたび踏み台に乗った父親は、首を傾げながら何度もみんなのお守りを調整した。

「まだだめか?」

「ちょっとどいて。私がなおすから」

 痺れを切らした増美が、父親を押し退けて踏み台に上がった。

 突然母親が見上げたまま手を叩きはじめる。それにつられて増美も金太も叩く。まるで誕生日のケーキについているロウソクを吹き消したときのような光景だった。

「これでいいわ。さあ、お茶でも淹れようか」

 いい残して母親はキッチンに向かった。

 テレビからはコブクロの奇麗なハーモニーが流れていた。


             ( 了 )

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『ロビン秘密結社』の仲間たち [Ⅲ] - 夏休みの約束 - zizi @4787167

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