第23話 遺影



四十九日。母の古くからの友達が、お線香をあげに来てくれました。


「棺におさまったお母さん、すごくきれいだったね」と、遺影を見上げる横顔にはまだ涙が滲んでいます。

小さい頃から親しくしているおばちゃんには、私の素直な気持ちを話しました。

「うん。私、あの人が美人だなんて思ったこと一度も無かった。死んでから、みんなに綺麗だね綺麗だねと言われてるあの人の顔を見てたら、、、身体なんて借り物で、魂がその人の顔を作ってるんじゃないかと思ったりして…。棺桶ん中のあの人は抜け殻に見えたのよ。

だって生きている時のあの人の顔は、、、鬼だったんだもの」


「ん、、そうだね。確かにお母さんは、あなたには厳しかったね…。 でもね、私はあなたが生まれるずっと前から、あなたのお母さんを知ってるけど。あなたのお母さんは美人だったわよ。明るくて、優しくてね。私なんか一生かけても返せないぐらいに、あなたのお母さんには助けてもらったの。私が一番辛いときに。守ってくれた人だったのよ。」

「へぇ、、、。あの人が? 人を助けて? 優しい人だった? の?」

「、、、。お母さんが変わったのはね、、結婚してからよ。 いろいろあったんだもの。 いろいろあって、、そうね。顔も変わって行ったのかな。 それに、お母さんはね、あなたの事をいつも褒めていたんだよ。病気になってからは特に、いつも娘がいて良かったと言っていたわよ。 そうそう、抗がん剤の副作用で手が痺れてね、、でも、あなたにあげたいって、お母さん一生懸命マフラー編んでたのよ。最後の入院の前までは、、うちに来てね…。これ、、うちに置いてったままだった」

「これ…」


おばちゃん、聞かせて。

あの人の話しを聞かせて。

教えて。

私に、私の知らないあの人のことを教えて。


               〔完〕

                  




--------------あとがき------------


この物語のように私と母は相性の悪い親子でした。

67歳で死んだ母。

通夜やお葬式にはたくさんの方がお別れに来てくださいました。

私の知らない人ばかり。

皆さん、それぞれに母との思い出を語ってくださいました。

そこには、私の知らない母の姿がありました。

母が死んでから、本当のあの人の姿が見れたような気がしました。

その時の経験をもとに、この息苦しい物語に仕立てました。

ずいぶん脚色が多く、この話しのモデルは母だと言うと

夢枕に立たれ文句を言われそうですので、大筋は随筆なのですが

やはりこれは創作で、現代ドラマだとしておきましょう。

最後までこの親子の息苦しい嫌な気持ちの時間にお付き合いいただき、ありがとうございました。         著者    












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

長い長い話しになりますが あなたに話したい事があります モリナガ チヨコ @furari-b

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ