第4話奪われた心
「悪魔、誰のことだ」という暇もなく、クレアは俺の懐に飛び込んできた。それは一瞬の出来事で、単に速く走ったわけではない。走ったよりも飛ぶに近かった。こんな動きができるのは、何らかのスキルとしか考えられない。でも、スキルは生まれる時から決まっているとか言ってなかったか。一体どういうことだ。まさか、スキルに秘密があるのかもしれない。いや、今そんなこと考えている場合じゃない。このままだと、首をへし折られるか腹をえぐられるかされて、俺が死んじまう。でも、妹だぞそんなことするはずがない。いや、そもそもなんで攻撃してくる。とりあえずクレアを止めないと。
「落ち着け、どうしたんだ。なぜこんなことする」
「うるさい悪魔。なぜだって、そんなのお前が悪魔だからだ」
「俺が悪魔だと。何を言っているんだ」
「うるさい、うるさい、うるさい」
「なあ、聞けって」
「うるさい。消えろ」
今のクレアは正気じゃない。何か止める方法がないのか。いや、今の俺では止めるどころか殺すこともできねえ。いったいどうすればいいのか。そうだ、店の中にある睡眠薬を飲ませればいいんだ。でも、素直に飲んでくれるはけないよな。
なんてことを考えていたせいで、クレアがすぐそこに来ていることに気が付かなかった。逃げるにもこの距離だと無理だ。首を絞めてでもしないと俺が死ぬ。
必死にもがいた。でも、助けることはできない。逃げるしかない。
俺はクレアを置いて逃げようとした。俺には無理だと思った。だが、クレアが発した言葉に俺は立ち止った。
「にげてー、はやく」
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俺はクレアを見捨てようとしたのか。なんてことをしようとしてたんだ。助けないと思ったとき、俺の中で何かが突っかかる。その突っかかりは、やがて足元を覆う黒い煙となる。そして俺を飲み込む。真っ暗だ。何も見えない、聞こえない。体の感触もない。その時、この暗い空間に二人の人が見えた。姿かたちは変わっているが、あいつらは俺だとわかった。そのうち二人の言い争いが聞こえるようになってきた。
「何度言わせればいいんだ。だからお前は臆病なんだ」
「あんな状態でクレアを助けるなんて無理だ。少し考えればわかるだろ、勇気」
これは俺の心だ。そして、この話はクレアの事だ。この勇気と臆病は何をつたいんだ。何をしたいんだ。
俺は話しかけたかったが、干渉することはできなかった。俺はこの空間から解放されるまでこの話を聞くことにした。
「助けないといけないんだ」
俺の中にある勇気が言った。
「でもどうやって助けるんだ。薬は飲んでくれないぞ」
俺の中にある臆病が言ってきた。
「飲ませるんだよ」
俺の中にある勇気が答える。
「だからどうやって飲ませるんだと言ってるんだ」
臆病は勇気を必死に抑え込もうとしてる。
「そんなもん、手の中に薬を入れて無理やりすればいいんだよ」
勇気は臆病を払いのけて言う。
「抑え込めねえから言ってるんだろ。少しは頭を使え」
臆病が怒鳴る。
「噛まれてでもいいから、飲み込ませるんだよ」
勇気が怒鳴り返す。
「なぜだ、見捨てればいいじゃないか。いつもそうだったじゃないか」
臆病が勇気を突き飛ばす。
「いつもそうだったじゃないか。迷子になっている子供がいても、子犬が死にそうにしてても見て見ぬふりをしてきたじゃないか。弱虫のままでいいじゃないか。異世界に期待をして、無双したいなんて無理だ。無駄だ。諦めろ」
臆病が追い打ちをかける。
「確かにそうだと思う。でも、それじゃあダメなんだ。公開してからじゃあ遅いんだ。無理だ、無駄だ、そんなことどうだっていい。俺はもう後悔したくないんだ。諦めたくないんだ。逃げたくないんだ」
泣きながら勇気が言った。
「なら、力を貸してやるよ。だが、その勇気がなくなればお前は死ぬ」
臆病が言った。
『最低限度の精神強度があることを確認。状況に応じて力の一部を試行できます』
それはまるでゲームの通知みたいに聞こえた。
最低限度の精神強度?なんだそれ、意味わかんねえ。どういうことだ。考えろ、これを読み解けば、クレアを助けれるかもしれない。いや、もう少し話を聞けばわかるかもしれない。
そう思い、二人に近づこうといた。だが、二人からどんどん離れていく。
「待ってくれ。待ってくれ。教えてくれ、クレアを助ける方法を」
煙はどんどんと薄くなっていく。二人がかすれていくギリギリのところで二人は言った。
「もうお前が知っているじゃないか。願えばいいんだ」
この不思議な世界に俺は引きずり出された。
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目が覚めた。クレアは俺の首を絞めてきていて、すでに酸欠状態。あまりにもくるしかったので、クレアを思いっきり蹴とばしてしまった。
クレアが倒れているすきに、持っていた睡眠薬を手のひらに注いで、クレアの口に押し当てた。
「おらー、飲めやー」
気合いで無理やり押し込んだ。クレアが歯を立てての噛んでくる。
「あー、いってー。でも飲ませなきゃ」
「うがあーーー」
「がんばれ、クエア。負けるな、頑張るんだ。がんばれ」
「うがっ、うーー」
クレアは暴れた。俺の腕をひねりつぶそうとしたり、俺の手を噛みちぎろうとして自分の関節を外してまで俺にしがみついていく。
「そんなに俺を殺したいのか」
そういうと、噛んでいた力が弱まった。そして、今まで殺しかかっていた顔は元の優しい顔になっていた。
「クレアつらかったな、よく頑張ったな。苦しみによく耐えた。誰の仕業か知らねえが、そいつは俺がやっつけてやるから安心しろ」
そう言うと、クレアから涙がこぼれていた。そして、クレアは眠りについた。
その姿を見て決意した。クレアをこんな身に合わせたやつに正義の鉄槌を下すということを。
人族転生-殺された神が世界を救う- @kopo
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