其の弐拾「タタリさま」{不}

子供の頃に、うちの爺ちゃんが聞かせてくれた話。

爺ちゃんの父親、つまり俺の曾祖父ひいじいちゃんはいわゆる木こりみたいな職業だったらしくて、ほとんど毎日、家の近くにある山で仕事をしていたんだそうだ。

爺ちゃんが言うには、当時は今よりも子供が仕事を手伝うというのは当たり前だったらしく、さらに田舎だったことも手伝って、「子供が仕事を手伝わないとは何事か」みたいな考え方が多かったんだって。


だから爺ちゃんはよく山での仕事を手伝わされたらしいんだけど、手伝える時間ってのは大抵学校が終わってからの時間だったから、仕事が遅くなって日暮れ時に帰るときもあったそうだ。そんな時間に山道を下っていると時々、後ろをついてくる足音みたいな変な音が聞こえることがあったんだって。

それは、「下駄を履いて飛び跳ねながら降りてくるような音」だったという。

その音が聞こえたとき、爺ちゃんは決まって


「絶対に後ろを見るな。振り返ればいかれるぞ」


と言われたそうだ。

麓の地蔵堂を越える頃には、いつのまにか足音は消えたけど、不気味だったし、振り返ってはいけないと言われたこともあって、曾祖父に「あれが何なのか」ってのを聞いたんだって。でも、曽祖父が知ってたのは昔からの言い伝えというか忠告の言葉だけで、詳しい正体は知らないようだったという。


「お山にはタタリさまがおる。ついてこられても振り向くな。姿を見たなら引いていかれて二度と帰れん」


というのがその大まかな内容だそうだ。


最近、爺ちゃん家に行くことがあったんだけど、爺ちゃんに、


「昨日山に行ったんだけどな、タタリさまの足音を聞いた。久しぶりのことやったでびっくらしたわ」


と言われてこの話を思い出した。

今もまだ、山にいるんだろうか。

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