第6話 繋がれざる者
私は正直、普通の家に生まれたかったと思っています。
ホワイト家の1人娘として生まれましたが、今までも大変な目にあってきました。
さらわれかけたり、鉄砲で狙われたりとかほんとに散々です。
その度にお父様は仕返しをし、血で血を洗う戦いが続いてきました。
そして、最後にはお父様も殺されてしまいました。とても悲しいですけれど正直、自業自得だとは思っています。
私は今回も巻き込まれて、今はブランド家の人達に捕まり"果実園"行きの馬車の檻の中です。
目の前には、あの心優しい女戦士さんが手に布を被せられ厳重につながれています。
私を庇ってくれた時よりもかなりボロボロの姿となっていました。
敵の娘である私のために行動できるなんて、ほんとにすごいと思います。
ですが、しばらくするとあの凶暴な男の人が檻の方へ近づいてきました。
「おぉ、、、メアリー、メアリーメアリー貴女は本当に檻が似合いますねぇ」
彼はわざわざ嫌味を言いに来たようです。
ほんっとに嫌な奴!
「そうやって、余裕こいてるといいさ。必ず殺しに行く」
彼女はそう言って、彼を睨みます。本当に鋭い目です。
「まぁ、"果実園"を楽しんでください。貴女のような裏切りをして、送られる人はとてもとても、可愛がられるはずですよ」
そう言って笑いながら、去っていきました。
しばらくして、ブランド家の用心棒達が2人ほどやってきます。
そして、その2人は座席に座り馬車を動かし始めました。
そこまでスピードは出していないけど、何度か石みたいなもの踏んで揺れました。
その度に、お尻が痛かったです。
ちなみにメアリーさんは、目をつぶって落ち着いています。
どうしましょう、話しかけても大丈夫でしょうか、、、
あの時のお礼も言いたいですし、、、
こんなところで、ウジウジしてちゃだめよね!
私はそう思い、彼女に話しかけることにしました。
「あの!」
思ったより大きな声が出てしまいましたが、馬を引くブランド家たちの人たちには聞こえていないでしょう。
かなり馬車の音も大きいし、彼らの会話もこっちから聞き取れませんから。
彼女の目が開き瞳が私をじっと見つめます。
「、、、ん?」
「先程は、、、ありがとうございました」
かなり緊張したけれど、なんとかお礼を言うことができました。
すると、彼女は微かに笑い「いいよお礼なんて、、、結局救えてないし、、、」
「貴女はそう思っているのでしょうが、私はその行動をとってくれたのが嬉しかったのです。
だからお礼を言ったんです」
「やっぱり、君はいい子なんだね、、、名前はエマだったけ?」
「はい!」
すると、彼女は少し暗い顔になりました。
「今から私達が行くところはどこかわかってる?」
「"果実園"ですか?普通は果物を栽培する場所ですが、そんなわけないですよね?」
彼女は、頷くと話し始めました。
「いいかい、、、私達が向かってる"果実園"は大きな売春宿さ。
女を利益を満たす果実と表現している、最低な場所よ」
、、、売春宿?ってなんだろう。
「あの、、、売春宿って何ですか?」
そう聞くと彼女は一瞬固まる、そして「箱入り娘だったんだな、、、」と言った。
確かに私は知らないことの方が多いのです。
外は危険が多いからとあまり外に出て、遊んだことはありません。
小さい頃はいつも1人でした。
なので、ほとんど外のことは知らないのです。
さて、メアリーさんは売春宿について教えくれました。
「いいかい、売春宿っていうのはね所謂エロい店だ」
「エロい、、、ですか?それならわかります!本で読んだことありますし。例えるなら、ジェニーのことですよね!」
「は?」
彼女はなんのこっちゃと言いたげな顔をしました。
「よく屋敷の人が話してたんです。ジェニーはエロい格好をしているって!」
「、、、そのジェニーってのは、、、知らないけど、まぁでもそれはきっと良いエロささ。
だけど、私達がこれから行く所は悪いエロさなんだよ」
悪いエロさ、、、よくわかりませんが、彼女がかなりその場所を嫌っているのはわかりました。
「貴女は、行ったことがあるのですか?」
そう聞くと、うなずき話し始めてくれました。
「、、、私は昔"果実園"に行ったことがある」
2.
私の家族は、サン・ラー族の出だ。
父、母、兄、私の4人家族仲良く暮らしてたんだ。
だけど、私の父はホワイト家と土地の所有権を巡って対立していた。
ホワイト家側の主張としては、自分達が買い取ったのだから自分達の土地ということだった。
だけど、そんなものは勝手に誰かが決めたもの!
元々住んでいた私達は、どうなる?
だから、私の父は他の村民にも手助けを要請した。
先祖代々の土地を守ろうと、、、だけど、誰も応じなかった。
村民のほとんどはホワイト家の手が回ってたんだ。
土地を明け渡す変わりに安全を約束する。そんな単純なものだったけれど、彼らは部族の誇りや仲間の絆よりも自分達の命を優先したんだ。
結果として、うちの家は襲われた。
真夜中のことだったよ、、、突然何人もの男たちが家の中に入ってきたんだ。
父は、銃に対して弓矢やトマホークで戦った。
我が家に伝わるギフト、、、最後に触れたものを手に引き寄せる能力を使って。
父は戦士だった。村でもかなり強い方のね、、、
だから善戦して、なんとか男達を倒したんだ。
そして、血だらけの姿で私と兄にこう言ったんだ。
「逃げろ、ここから遠くに」
当然私と兄は拒否したよ、だって愛する家族だから、、、でも、母は泣きながら私達を抱えて馬に乗せて逃げたんだ。
それが最後に聞いた父の声だ。
そこからの生活は、もう忘れることはできない。
この街には、私達サン・ラー族の住めるような場所はなかったんだ。
人々は私達が自分と違う人種であるという理由だけで迫害した。
そして、住み込みで働こうにも受け入れてくれる場所は見つからず最終的には、ボロボロの馬小屋に母と兄と暮らしたんだ。
その時の私の敵は、飢えだった。
もう選択の余地はなかったから、私と兄は町に出掛けては盗みを繰り返したんだ。
母は四六時中働いて、どんどんやつれていった。
彼女は"果実園"で働いていたんだ。
その時から、どんどん彼女の心は壊れていった。
優しかった母の面影はなく、私達に暴力を振るうようになったんだ。
でも、殴った後にはいつもの母に戻る。
「ごめんね、本当にごめんなさいね」って。
でもそんな生活が続いたある日、母が仕事場から帰ってこなかった。
あまりに遅いので私達兄弟は、必死で街を探した。そして、諦めて帰ろうとした頃、路上に転がる母の死体を見つけた。
顔はボコボコに腫れて、服は原型を留めてはいなかった。
じゃあ、なぜ母とわかったのかって?その死体には、父からのプレゼントのネックレスが首に下がっていたからなんだ。
周りを見渡すと、こんな酷い死体があるのにみんな無関心なんだ。
きっと、ここの人々が母が乱暴されていても自分には関係ないと見て見ぬふりをしていたのだろう。
その光景を見て、私はこの街とホワイト家、"果実園"に対して憎悪を抱くようになった。
私と兄は必死で戦い方を覚えた。何年もかけて、復讐のための力をつけたんだ。
そして、私達はまず"果実園"に向かった。
恨みの持つ全てに復讐するつもりだったんだ。
初めてみたその場所は本当に煌びやかだったよ。
絵本で見るような、美しい洋館だ。
だけれど、そんなものは張りぼてだ。
中では、売られた子や性奴隷なども働いている。
もちろん母のように自分から働きに来ている人もいるだろう、だけどもう"果実園"という存在が許せなかった。
そして、兄と私は"果実園"に討ち入った。
そこからのことは、よく覚えていない気がついたら私はベッドの上だった。
周りを見渡すと、どうやら部屋のようだった。
兄の姿もない、そして扉が開くと1人の男が入ってきたんだ。
彼はベン・ランバルトと名乗った。そうブランド家の参謀だ。
そして、私に近寄るとマジマジと瞳を覗き込みこう近くの部下に言ったんだ「この娘が暴れていたのですか?」
「はい、かなり死傷者が出ましてね」
「で?なぜ殺さずにここに連れてきたのです?」
「それが、、、彼女の戦いぶりを見てギャレットさんがえらく気に入ってしまったんですよ。
そして、彼がそのまま屋敷に持ってきたんです」
「相変わらず物好きな、お人ですね。ちなみにこの娘による被害総額はどのぐらいでしょうか?」
「約50万ドーラほどでしょうか、、、」
50万ドーラ、、、聞いたことがない金額だ。
到底払えるわけがない。
だけど結局、私はその金額を背負うことになる。
全額支払い終わるのにそんなに時間はかからなかったけど、私という存在を街よりは認めてくれるこのブランド家は妙に居心地が良かった。
"果実園"を経営している、許されざる存在であるという大きな矛盾を抱えながらも私は自らの生活に甘えだしたんだ。
でもこのままでは、ダメだと思った。
私は自分が悪と思うものと戦わなくては、いけない。
いつまでも甘えていてはいけない。
その思いはつのり、ベン・ランバルトが拷問で行った行動で爆発した。
そして、私は今馬車に揺られていると言うわけだ。
3.
私は彼女の人生を聞いて、涙を流していました。この人はほんとにほんとに苦労してきた人だと思ったのです。
そして、私達ホワイト家は今まで自分達が行ってきたことの報いを受けたのでしょう。
「メアリーさん、、、潰しましょう!」
私の突拍子もない、発言に彼女は呆気に取られていました。
「落ち着いて、エマ、、、何をつぶすの?」
ニヤリッと笑いました。私が良いことを考えたときの笑い方です!
「"果実園"ですよ!」
「は、、、は?いや、どうやって?」
「作戦があるのです!」私は自信満々に言いました。
「、、、一応聞こうか、、、」
私は作戦の全貌を彼女に説明しました。まずこの馬車からどのようにして脱出するか。
その後どこへ向かいどのようにして"果実園"を潰すのか。
4.
「本当にうまくいくのか?」
俺がそう問うと、ベンは自信たっぷりにうなずいた。
「えぇ、エマはいい餌になりますよ」
彼はいつも、先を見据えて行動しているたまに未来を見ることができるギフトを持ってるのではないかと、疑ってしまう。
ないんだけどな。
「ていうか、あのべっぴんは良かったのか?」
「私の手で殺してもよかったのですが、、、どうせなら一番嫌いな場所で死んでもらうと思っただけですよ」
相変わらず残酷なことをするのが好きだな、こいつは呆れる。
「そう、簡単にうまくいくとは思えないがねぇ」俺は一口酒を飲む、ジンジンと喉が焼ける感じが心地いい。
「お前も飲むか?」
そう言って、酒を差し出すと珍しいことに
「えぇいただきます」と言って、彼は酒を受け取った。
そして、一口飲むと顔が赤くなる。
結構弱いみたいだ。
「この酒は、食前酒のような物です。ここからが本番だ。
何もかも私の思い通りに動かして見せますよ、、、」
「、、、へへっそうかい、んじゃあ俺もそろそろ動くとするか」
俺は立ち上がると、彼の部屋から出た。
そして、向かうのはボスの部屋だ。
計画通りに実行する。
5.
馬車は止まっています。なぜかと言うと、1人が用を足したくなったみたいなんです。
しかし、これは絶好のタイミングです。
私はメアリーさんに合図をしました。
彼女は本当にやるのかよっと言いたげな顔でため息をつくと、馬車の運転席にいる男に話しかけました。
「ねぇん、、、お兄さん、、、」
なかなか上手です!私が本で読んで想像してた、色気のある女の人そのまんまです。
「、、、」
ですが、その男の人は反応しません。
「ねぇんってば」
メアリーさん渾身の甘え声です。しかし、「だまれ」彼はぶっきらぼうに答えました。
「そんな冷たくしなぁいんでよん、、、私がいいことしてあ・げ・る」
「、、、メアリー・ローズお前がそんな性格じゃないことは、わかっている。
そんな安い手にはのらん」
作戦ってなかなかうまくいかないものですね。
でもメアリーさんは負けていません。
「そんなこと言ってぇ、、、本当はたまってるんでしょ?仕事ばっかりでさぁ、私が解放してあげるわよ」
よく彼を見ると、結構葛藤しているようでした。男の人は色仕掛けに弱いと本に書いてありました。でも、彼はなかなか欲に対して強い人です。
そして、用を足し終わったもう一人の人が戻ってきます。
「どうしたんだ?お前、もじもじして」
「いや、あのメアリーが」
すかさず、メアリーさんは彼に対しても色仕掛けを行いました。
「ねぇん私とイイコトしない?私もたまってるのよ」
すると、どうやら彼の方がエロい人だったようです。
ニヤリと笑うと「いいねぇ、少し待ってな」と言って馬車の後ろ側に回り檻の鍵を開け始めます。
「ちょ、待ってください。ランバルトさんに着くまで開けないように言われています」
「いいんだよ、少しくらいどうせ"果実園"で働く女だ。味わったって問題ねぇさ」
そう言って、檻を開けメアリーさんを出します。
「、、、まったく、俺は知りませんよ」
「さぁてと」
彼はズボンのベルトを外し始めました。
「ちょっと待ってん」
彼女は一旦彼の動きを止めます。
「私ねぇ手でするのが得意なのよ、だからぁこの手袋外してくれないかしら?」
ゴクリッと彼は唾を飲み込むと早速彼女の手袋を外しました。
「これでいいだろ?」
「ええ、とっても」
すると、彼女の目が鋭くなりました。近くにあった石を持ち上げると彼の股間に打ちつけそして、怯んだ瞬間頭を殴りつけます。
前にいる彼は言わんこっちゃないとでも言いたげな顔をすると銃を引き抜き、運転席から降りてきました。
すかさず、メアリーは石を投げます。
しかし、簡単に避けられてしまいました。
「メアリー今のうちに檻に戻れ、そうすれば見逃してやるよ。
その人は殺してないんだろ?」
彼は銃のハンマーを下ろしました。
しかし、彼女は首を振ります。
「いや、別に見逃してもらわなくてもいいよ。そんなことより、自分の頭の心配をした方がいいよ」
彼女が後ろを指差すと「は?」と言って後ろを確認しました。
すると、彼は驚きますがもう遅かったようです。
凄い勢いでメアリーが投げた石が返ってきて、
そのまま顔面に石は激突し、彼は気絶してしまいました。
石はそのままメアリーさんの手の中に戻ります。
カッコいい、、、
さて、私たちは彼らから武器を取り上げるとそのまま縛り上げ荒野に置き去りにしました。
馬車は流石に目立ってしまうので、馬を1匹外すとそれに乗って出発します。
目指す場所は薬屋です。お父様が自分に何かあった時にはそこに向かえとおっしゃっていました。
名前は確かフラッシュさんです。
6.
「すみません」
薬屋の中にはいりました。中には結構イケメンなお兄さんがが立っています。
「いらっしゃい」
しかし彼はフラッシュさんではありません。聞いていた特徴と違いますから、彼はどこにいるのでしょうか。
「えーとっフラッシュさんに会わせてもらえないでしょうか!」
そのお兄さんは、にこりっと笑うとフラッシュさんを呼びに行ってくれました。
しばらくすると、包帯グルグルのミイラみたいな人が出てきます。
「やぁ、エマ。君が来たということは、、、」
「ええ、お父様が、、、亡くなりました」
すると彼は私に近づいてきて、まじまじと顔を眺めます。
「それにしては、あまり悲しそうじゃないねぇ。むしろ、解放されたとでも言いたげな清々しい顔だ」
「、、、そんなことは、ありませんよ、、、」
悲しい気持ちはしっかりあります。でも、解放感の方が大きかったかもしれません。
お父様は少し過保護でしたから、、、
「あなたがフラッシュさんですか?」
すると、メアリーさんが彼に話しかけました。
「いかにも、俺がフラッシュだ。お前さんは?」
「私は元ブランド家用心棒のメアリー・ローズです」
「ブランド家元用心棒か、、、まぁ、どういう経緯で君達は行動を共にしているのか聞こうか」
私とメアリーさんは今までの経緯を話しました。
少し誇張してしまった部分もありましたが、それはご愛嬌です。
「なるほどねぇ、そいつは大変だったなぁ。
それで、うちに来たわけだけど。これからどうするんだい?」
私はメアリーさんの方を見ました。彼女はうなずきます。
そして、息を合わせて彼に言いました。
「"果実園"を潰したいんです!」っと。
それから、薬屋の存在がブランド家に知られてしまっていることも彼に話し彼の自宅へ移動しました。
街から少し外れた場所にあります。
しかし、移動し終わった次の日に彼は気づきました。
「あぁ、しまった。大事な薬を忘れてきちまったなぁ」
「大事な薬ですか?」
「そうそう、最近俺のギフトを使って開発した。超万能薬さ。なくてもいいけどこれから戦うなら、ないことに越したことはないからね。
メアリー?取ってきてくれないか?」
「わかりました。どこらへんに置いたかだけ教えてください」
そうして、場所を教えてもらうとメアリーは出かけて行きました。
LOYAL DOGS 波馬 千乃 @namiumachino
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